表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/24

21 ニネベの回心 1

「友軍は壊滅です。黒機械獣や盲突猪(パイア)、槍砲撃衝角重装甲車両は全て撃破されました。既に防御主力の浮動要塞が全て乗っ取られるか、擱座させられております」

「敵は、剣の他は持っていないのですが、どう攻撃しても身体に傷を負わないのです。それどころか、身体的な攻撃で我々の機甲部隊が粉砕破壊され、そうでなくても乗っ取られています」

 女王の元に次々ともたらされた通信は悲痛だった。

「すでに九乗郭内の王国軍、さらに神官戦士の残存軍は、退避を済ませています」

「このままでは、都市部まで攻め込まれるのは、時間の問題です」

この報告により、女王と側近達は退避することを決意した。そして、ジョナからはナナにも緊急の知らせが伝えられた。

「スタジアム神殿近くに敵軍が迫っています。今のうちに脱出を!」

「わかりました。私も女王様達と合流しましょう」

 勧告を受けたナナは最高神像の前に立ち、何をなすべきかを考えたのち、少しばかりの処置をして静かにそこを立ち去った。


 こうして、ニネベから王国戦士の姿は消えた。そしてスタジアム神殿に参内していた民も、神官や大祭司神官のナナまでが姿を消していた。残されたオンゼナの像からは心臓がナナによって取り去られ、オンゼナの意識が抜けていた。スタジアム神殿に立つ像は、単に「最高神(デーヴ)」と呼ばれるだけの偶像になり下がっていた。

 ナナやそのほかの者達はと言うと、大祭司神官ナナのみならずニカラグアの神官たち、教母アンヘル、そしてナデジダ女王と王室のメンバーたちとともに、ニネベ陥落前に都市部から離れた奥宮にまで退去していった。


 ニネベ都市部に残されたのは、各地域から集まっていた王国民である木精族など、そして都市部の先史人類である金剛族だけだった。そこに、吸血鬼戦士から変身を解いた詛読巫(ソドム)の先史人類の民たち、そしてビルシャナの率いる、鬼の形態で来た五行の鬼、すなわち土塊族、火炎族、水明族などが入り込んできた。

「吸血鬼変幻能を得た詛読巫の先史人類は、もう先がない。しかし、この短い期間でもニネベはもう征服できそうだ。私の勝ちだな」

 そこに、ビルシャナが慌てて駆け込んできた。

「最高神像は、意識のない木偶の坊でした」

ビルシャナの報告に、ベラは一瞬怒りをこめた視線をビルシャナに向けた。

「全く動かないのか? 動かせないのか? 反応を示さないのか?」

 詛読巫を率いたベラの狙いは、思想征服侵略軍として、ふたたび最高神の偶像を奪取することだった。彼の当初の狙いは、最高神像を貶めることでニネベの住民たちに絶望を抱かせるためだった。それゆえ、彼らはまずスタジアム神殿を占領し、最高神(デーヴ)の像を占領した。だが、すでにオンゼナの意識が抜けた最高神(デーヴ)像は、住民たちから見てあまり意味のない単なる偶像になり下がっていた。

 ベラの怒りにビルシャナは震えながらも指摘を返した。

「我々は最速で神殿に達しました。しかし、既に像の意識は喪失していました。如何ともし難いことでした。こんな事態であれば、もうあの偶像には利用価値はないと思います」

「そうか。まあ良い。動けば我等の仕打ちに対する反応を楽しめたし、見せしめにもなった。しかし、動かなくても良い。それなりに料理の仕方はあるだろう」

 気を取り直したベラは怒りを鎮め、考え直していた。ベラにとってはまだその偶像にこだわりがあった。詛読巫(ソドム)のベラは何よりも啓典の主の教えを否定しようとしていた。『戦いを止めよ。それは、私のみならず、啓典の主を悲しませる』『ここに居る者たちよ、われに従え。戦いを学ぶな。啓典の主の光の中を歩め』『自由意思を与える天の愛を賛美せよ』という啓典の主の言葉は、創造主からの愛を臨在とともに伝える言葉だった。それこそがベラ、すなわちサタンであるアザゼルの否定すべき教えだった。

 そして、また、詛読巫のベラたちがニネベの住民たちに絶望を味わわせたとしても、ニネベの住民たちは簡単にはあきらめるとは言えなかった。それは、最高神(デーヴ)が戦いに介入し止めさせたことを、目の当たりにしていたからだった。

 これらのことをニネベの占領後に認識したベラは、占領したスタジアム神殿の最高神を貶めるのではなく、反対に、最高神が、意味のない苦しみと諦観とに陥れていた九乗郭(nineverhicles)とその教えを破壊したことを高く持ち上げた。それによって、ニネベの住民たちに改めて最高神に帰依すべきことを訴え、その最高神が詛読巫(ソドム)の教えを今までのどんな教えよりも優れた教えだと訴えたという形をとって、金剛族たちに詛読巫の教えを受け入れさせることをを狙った。そこで、ベラやビルシャナは詛読巫の先史人類をニネベの住民たち、特に神官を務める金剛族の中に浸透させた。

「この世は苦しみばかりだ。しからば、しずかにすべてをあきらめよ。最高神は、九乗郭を破壊することでそなたたちにそれを教えたのだ。目の前の楽しみに没入せよ。不特定との間で情を交わせば、今が楽しくなるぞ」

 これらの言葉を、詛読巫の先史人類はニネベの住民たちに繰り返し語り掛けさせた、ベラは先史人類の一人として、それを率先した。それは次第に詛読巫の民が金剛族を巻き込み、いかがわしい詛読巫の儀式にまで発展していった。

 もともとニネベの都市部では、金剛族はスティルスーツを付けないままだった。それに合わせて詛読巫の先史人類た地も、素肌を露出して浸透した。それが功を奏したのか、素肌を露出したままの詛読巫式のいかがわしい儀式は街中で繰り広げられるに至って、すっかりニネベはベラに支配された。

_______________________________


「女王陛下自らが、僕に何をおっしゃりたいのだろうか」

 ジョナは女王と教母アンヘルからの呼び出しに、戸惑いを感じていた。今まで、女王陛下がジョナの行動や言動に懸念を表明したことはほとんどなかった。だが、今回呼び出しは緊急であり、それが尋常でない響きを伝えていた。

「ジョナ、呼び出してすまなかったな。これはアンヘルの提案だ。あんたならば何らかの見解を持っているだろうというのでな」

 女王はアンヘルがうなづくのを確認しながら、ジョナに問いかけた。その姿に戸惑いながら、ジョナは質問を返した。

「どういう意味でしょうか」

「今、ニネベの民たちが良からぬ事態に巻き込まれているらしい」

「と、いうと?」

「ニネベの都市部を含め、ニネベはすっかり敵の占領地となった。単に占領されたばかりではない。我々王国を導いた神官たちを支えた金剛族が、すっかり詛読巫式のいかがわしい儀式に巻き込まれている」

 女王は、ジョナが激しく戦ったムハージルーンとの戦いに比べて、今回の戦いにおいてジョナがあまり積極的に動いていないことを認識していた。だが、王国民のみならずニネベの先史人類たちまでが異常な事態に巻き込まれている今の事態に、なぜジョナが消極的な姿勢しか示さないのか理解できていなかった。

「それで?」

「このような事態は、私達王国にとって初めての事態だ。もちろん、ニネベの民たちは、このような堕落しきった刹那的な宗教など、経験したこともないだろう」

「ええ、僕もそう認識しています」

「ジョナ、あんたはそれでどうするつもりだ」

「僕は......」

 ジョナがあまりに返事が遅いので、アンヘルは口を開いて指摘した。

「ジョナも認識しているはずなんだけど、この事態は、王国のみならず我々王国が心のよりどころとしているニネベにまで滅びが近づいていることを意味しているわ」

 女王とアンヘルは事態を的確に把握していた。ジョナは背中を押される形で応えざるを得なかった。

「僕はアンヘルのいるこの王国を守るために彼らをニネベから追い出したいと考えています」

「そうか、それならば力を発揮してくれ」

 女王とアンヘルは、気乗りしないらしいジョナの目を見つめながら、そう言って話を終えた。


 ジョナは女王側近や王国の残存軍から数人を選んで、夜の闇に眠っているはずのニネベの街へと忍び込んでいった。

 だが、ニネベの街は夜になってもにぎやかだった。いや、けたたましい音楽と卑猥な戯れを不特定多数で行い続ける民衆たちとで、市中はある種の興奮状態に落ちていた。詛読巫の先史人類ばかりでなく、あれほど最高神に帰依していたはずのニネベの民たちまでが、今までのことを忘れてしまったかのように、詛読巫式のいかがわしい儀式に参加していた。

 儀式は、街中で繰り広げられていた。ジョナたちはその光景に愕然としつつも、観察を続けた。そのうちに、動き回るジョナたちに違和感を覚えた警備兵たちが、ジョナたちを襲い始め、結局ジョナのみが逃げるように街中を走り抜けた。だがそれでは十分に実態がつかめるはずもなかった。

「なんという光景だろうか。あんなことをよくも続けられるものだ」

「信じられない。あの金剛族の神官たちまでが儀式に参加しているなんて」

 ジョナは絶望するしかなかった。だが、それで済ませられるはずもなかった。彼は、隠れ家にとどまりながら、考えをまとめようとした。

「ジョナ、このまま奥宮へ帰投しても解決にはならない」

「我慢して、もう少し陰から観察をし続けるべきか......」

「わかった。それならみんなもう少し我慢しながら観察を続けよう」

 こうして、ジョナは注意深く儀式を観察し続けることにした。そして、ニネベの民たちは抵抗できない処置をされて、無理矢理に儀式に参加させられていることが分かった。それに怒りを覚えたジョナたちは、帰投する前に街中の様々な儀式用施設を破壊することに成功した。ただ、ジョナは、街の中に大きな違和感、言い換えるならば若いころに感じた敵をも感じていた。それは、ベラの存在だった。


 ジョナは帰投すると、まずベラの存在を感じたと報告した。 

「ベラが来ている。これは今が最終的な段階であることを意味しているに違いない」

「ジョナ、それはどういうこと?」

「ニネベが最終的な段階の舞台になっている」

「どうしてそう言えるの?」

「ベラが来ていること、しかも彼自身が前面に出て動いていることから、彼にとってここが彼の目論見の最終段階と考えられるんだ」

「ベラにとってここが最終段階なら、なぜ奥宮まで従えようとしなかったのかしら?」

「なぜだろうか、ここへ来るなら来い......目にもの見せてくれる!」

「そうね。あんた、ベラとは因縁の中だものね」

「そんな軽い中じゃない。僕にとって奴は滅ぼし尽くしたい相手だ。また、僕は奴が僕に復讐したいと願っていることも認識している」

「なぜ、そんなに憎しみ合っているの?」

「憎しみ? 僕にとっては単なる憎しみじゃあない。宿敵という言葉でかたずけられない。そう、僕の人生が彼を滅ぼし尽くすためにあるといってもいい。そして彼は彼で僕を復讐の対象として決して忘れていないだろう。そのうち、いつか彼と相対する時が来る。そうしたら......」

「でも、彼はこの地に来てあんたに近づこうとはしていないじゃない? あんたによって攻め込まれると不利だと思っているからに違いないわ。つまり、ジョナ! これはいまこそあなたの問題よ」

「なぜ?」

「ベラは、ここが先史人類にとって最後の希望の地であることを認識している、あんたはそう言ったね」

「だから?」

 ニネベの都市部からさらに谷の最奥部の奥宮では、ナナやジョナたちが息をひそめていた。いや、ベラが彼らをほおっておいた。いや、ベラは彼らを意識的に野放しにしていたわけではなかった。彼はジョナを恐れていた。このことをジョナは意識していなかった。いや、心が鈍くなっていた彼が気付くはずもなかった。ただひとり、ナナだけは、ベラが奥宮に、ジョナに近づこうとしていない理由に気づいていた。

「そのニネベにあんたがいることを、彼は知っているはず。しかも、あんたが此処で再び啓典の主に帰依したことを、彼は苦々しく思っている。でも、彼はあんたを怖がっている」

「あの帰依は一瞬の帰依にすぎないさ。もう、過去のことさ。既にニネベの都市部は占領され、希望はすでに失われているんだぜ。それに彼が僕を恐れているはずがない」

「そんなことは無いわ」

「彼が僕を恐れていると、言いたいのか。それを僕に指摘して、あんたは何を言いたいんだ。つまり証人としての預言をしろと......いや、やっぱり僕はそんなことはたくさんだ。もう嫌だ」

「また、そんなことを言い出すの? 一瞬でもあんたは啓典の主に立ち返ったはずなのに」

「だから、僕のそんな帰依が奴ら詛読巫軍をここに呼び寄せたんだろ?」

「違う、ここが先史人類にとって最後の希望の地だからよ。だから、イワンもミラもここにたどり着いたのよ」

「でも再び占領されてしまったじゃないか。しかもあのいかがわしい詛読巫の儀式まで行われ始めているじゃないか」

「いかがわしい詛読巫の儀式が行われ始めている? それなら、今すぐにでもニネベの都市に残された住民たちを救わなければならないわね。具体的にはどんな状況なの?」

 ナナは思わずジョナに言い寄った。このままでは彼の身が握っている都市部の状況を、教えてもらう必要があった。だが、ジョナはかたくなな態度を示し始めていた。

「住民たちを救う? 占領された地を回復するべきだというなら、それを女王やアンヘルたちが認識して、回復のために動くべきだよな。僕は知らない」

「でも、彼らは動いていない」

「僕の問題じゃないだろ!」

「いいえ、あんたの問題よ。現地の状況を把握したあんたが、ここの金剛族神官たちの中の信頼できる神官たちを介して、アンヘルや女王たちに働きかけることが必要なのよ」

「またそれか? それなら僕は嫌だ」

 ジョナはナナの言い出した働きかけが、証人としての側面を持つことに気づき、強い拒否感を改めて示した。

「ジョナ!」

 しかし、ジョナはかたくなな心を顔色にまで滲み出していた。ナナは懇願するようにつづけた。

「じゃあ、せめて、都市部に残っている先史人類たちを、詛読巫の儀式の毒牙から救って!」

「もう、そんなことはどうでもいいだろうさ」

 ジョナはいかがわしい儀式を確かに憎んではいた。それが彼に与えられた聖なる霊の導きによるものだった。しかし、彼はなぜその儀式を憎んだのか、すでに彼はその熱意を忘れていた。仕方なく、ナナは単独ででも詛読巫の儀式からニネベの住民たちを救い出す算段を考え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ