13 ニネベの隠れ家、そして囚われの女王
滅びの火炎以前の昔、オンゼナは西姫を襲った際に、倶利伽羅不動による取り締まりの際に使われた倶利伽羅剣の音響衝撃波によって、携帯していた太極を十個に割られたことがあった。オンゼナは、その後太極の欠片を残らず集めたものの、元に戻すことが出来ず、仕方なく10本の指に指輪として嵌めることにしたのだった。ただ、太極の結晶をそのように扱った際、オンゼナは音響衝撃波が結晶構造を変えることに気づき、太極のオリジナルの結晶構造を鏡像に置き換え、渦動結界のベクトルをそっくり反対の向きに変更する術を習得したのだった。
ただ、それでも滅びの火炎の際、オンゼナは再びアチャ倶利伽羅不動の音響攻撃によって、十本の指と体とをそれぞれ一本づつの指と10個にバラバラにされてそれぞれをパーツ材の中へと封じ込められ、オンゼナの術は封じられてしまった。力と意識を失ったオンゼナはそれ以来、ニカラグアの谷の底に沈められ、そこに潜んだ先史人類たちの偶像として永く置かれていたのだった。
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「秀明と西姫。まさか、ここであんたたち二人と会えるとは。これは天の配剤。今は、二人で逃げてくれ」
ジョナたちは、知らぬ名前で呼びかけられつつも、自分たちに逃げろというオンゼナの意志は理解できていた。ただ、封じ込められていたと話すオンゼナがこのまま倶利伽羅不動とその眷属たちに勝てるとも思えず、錫杖を取り出したオンゼナと倶利伽羅剣を構えた多数の倶利伽羅不動側とのにらみ合いを心配そうに眺めていた。
「二人とも、俺は逃げろ、と言ったんだぜ」
「でも、このままではあんたはもう一度負けてしまう」
「それは覚悟の上だ。西姫、俺は一度はあんたに惚れた男だ。その思いを持って戦うのが、神爾となった今の俺の唯一の誇りだ。さあ、行け」
だが、ジョナは何かを思いついたようにオンゼナの横に立ち、倶利伽羅不動たちを睨みながら小さな声でオンゼナにささやいた。
「彼らの持っている倶利伽羅剣が音響衝撃波を繰り出す、と言っていたよね。音響衝撃波が生じているというならば、もしあの剣が使われることがあったなら、その切断刃には周囲の結界と共鳴を生じる極小の太極の結晶が一線に並んでいるに違いない。まるで剣の周りに龍がまとわりつき、その龍の鱗から生じる魔力のように、ね。だから、ここに張られている結界の外へ場所を移すんだ。そこでは倶利伽羅剣が共鳴なしになる。そこで、あんたの鏡像結晶をその極小太極結晶の一つに集中させて連続的にたたき続ければ、極小結晶列としての機能を失い、倶利伽羅剣は使い物にならなくなる。そうすれば、もうあんたの錫杖の技にかなうやつはほとんどいないぞ」
「そ、そうなのか?」
「このまま、あの地下室を中心にした渦動結界から脱出すれば、それで終わりになると思います」
オンゼナは人間たちが示した対策に疑心暗鬼になりながらも、二人とともに結界の外へ走り抜けた。倶利伽羅不動達はそれを追って結界の外へ出た。ジョナは結界の有効範囲のギリギリ外側にオンゼナが立っていることを確認してからオンゼナに声をかけた。
「オンゼナ、ここまでくれば屋外に出ている。だが、戦う必要もない。僕たちと一緒にいこう!」
「あんたら二人はここから逃げろ。それが、あんたらを求めてきた俺の思いだ。多分、俺はあんたたちと一緒にいることを求めているんではなくて、あんたたちが何か大切な使命を持っていると感じたから、こういうんだぜ……俺の心臓はあんたたちの存在を長い間いつも求め続けて来たらしい。だから、一緒に居たいとも考えた。だが、そんな永い間あいつらに好き勝手されていたんだ。今までの彼らの仕打ちに報いてやらねばならない。何せ、永い間好き勝手されていたんだから」
そう言うと、オンゼナはもう振り返らなかった。
大切な使命、と指摘されたジョナは、自分が大切に思っているアンヘルのことを思った。だが、オンゼナが指摘したのは、ジョナとナナが二人で共通に有している大切な使命のことらしかった。
「僕たちの大切な使命?」
ジョナはそう言いつつ、ナナを促して走り始めた。つぶやいた後に走り去っていくジョナを、ナナは黙って見つめつつ、後を追って走り去っていった。
その姿を確認したオンゼナは、ジョナの示唆した倶利伽羅剣の弱点を考えた。
「そうか、ここはあの建物から離れている。確かに結界は感じられない。ここならば、刃に埋め込まれている極小太極結晶は音響衝撃波も生じるだろうが、共鳴もないから威力も激減するんだろうな」
オンゼナは錫杖を構え、錫杖を一人の倶利伽羅剣に対してぶつけた。すると、今までその剣を持っておってきた一匹がもんどりうって倒れた。確かに結界の外になった時、倶利伽羅不動たちの動きはためらいがちになり、鈍くなったように見えた。オンゼナはさらに後ろに迫ってきた倶利伽羅不動に向き直った。今までの様子を見ていた倶利伽羅不動はあらためて倶利伽羅剣を構えた。倶利伽羅不動は、以前オンゼナを捕らえた時に使った技を、あきらかに再び使おうとしていた。
「オンゼナ、お前は逃さんぞ」
次の瞬間、オンゼナの錫杖は倶利伽羅不動の薙ぎ払おうとする倶利伽羅剣の刃を受け止めた。そのまま二人はともに渾身の力を込めて微動だにしなくなった。
しばらくたって、倶利伽羅不動は周囲に展開している姫たちに指示をした。
「何をしている。お前たちは、逃げたあの二人を追え」
「しかし、父上。ここは結界の外です。それなのに倶利伽羅剣を使って戟力を受け続けていると、危険です」
その言葉の途端、倶利伽羅剣はぽきりと折れた。次の瞬間、オンゼナの錫杖が倶利伽羅不動をしたたかに強く打撃し、倶利伽羅不動は地に伏せるように倒れていた。オンゼナは倒れた倶利伽羅不動を見つめて今までの仕打ちを指摘して告げた。
「アチャ!。お前は昔、迷った俺をしたたかに打ち、大切にしていた太極を砕いてくれたよな。だが、今は逆だ。お前はいまだに何が正義なのかを悟っていない。諦観と寂静の表情を俺に強制していたが、それがお前の言う正義だと思っているのかもしれないが、それは惑わされているんだぜ。惑っているお前は、せいぜい撃たれて砕かれた誇りと感じている痛みとを受け止めて、何が正しいことなのかを考えてみるんだな」
オンゼナはそう言うと、周りを囲み始めた倶利伽羅姫と倶利伽羅人形の兵士たちを睨みつけた。
「倶利伽羅姫、お前の父が撃ち伏せられたのに、お前が俺に対抗できると思っているのか?」
「何を言う。お前はもともと父上様の配下のつまらない神邇にすぎなかったのに、偉そうに。私は退かないぞ。私は倶利伽羅姫。私の倶利伽羅人形たちに対抗できるかしら」
その言葉と同時に、無数の倶利伽羅人形たちが剣や槍などを構えてオンゼナに殺到した。オンゼナは積極的に自らを十のパーツに分けて振り回した。それは、彼が意識を失ってしまう技であり、再び自らを無意識の中に封じてしまう技だった。
すべての倶利伽羅人形が打ち払われた後、オンゼナを封じた10のパーツはニカラグアの谷から四方へ飛び去ってしまった。残ったのはうめき声を上げる倶利伽羅不動親子だけだった。
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ジョナとナナが地下室から脱出した外の街頭は、静かな喧噪に包まれていた。オンゼナが覚醒する少し前に、倶利伽羅人形の兵士たちが、倶利伽羅不動による支配を確立するために、金剛族つまり先史人類だけが暮らしていたニカラグアの最深部ニネベの都市部に、声もなく乗り込んできていたのだった。
倶利伽羅人形の兵士たちは、ニネベの街頭に出ていた先史人類たちを取り締まり、それを皮切りにニネベの都市部全体の先史人類たちに、不必要な軍事力を行使し始めていた。それは、倶利伽羅不動がしたたかにオンゼナに打たれたのちには、倶利伽羅不動の怒りをぶつけているかのようにも思われた。現に、倶利伽羅人形を指令する倶利伽羅不動の指示の言葉に、怒りがそのまま表れていた。
「いいか、ジョナもナナもニネベの市民たちも、皆先史人類だ。金剛族と言われている者たちの正体は奴らだ。怪しい奴ばかりだ。厳しく取り締まれ」
倶利伽羅人形は、発声器から機械じみた声を出しながら巷を取り締まっていた。
「ベラ様の名前により告げる。ニネベの市民たち、お前たちは救われたはずだ。それならば、勝手気ままに生きることをしてはならない」
「お前たち、ベラ様と同じ先史人類なんだろ? それならばもともとベラ様の考え方になじみやすいはずだ。さあ、命令に従え。家に帰れ。戒厳令だ。ここは我々が管理してやる」
街中にそんな言葉が大きく響き渡り、ついには倶利伽羅不動やその娘の思念までが飛び交っていた。そのせいか、金剛族、つまり先史人類たちはつぶやきながら街中で逃げ惑った。
「あの取り締まりの兵士たちやあの頭目らは、最高神様に叩きのめされたらしいぞ」
「そうか、奴らは俺たちの敵だったんだ」
このようにして、金剛族たちは、今まで最高神の側の支配者だと思っていた倶利伽羅不動側の兵士たちから、隠れて敵対的な行動をするようになっていた。
ジョナとナナもまた、先史人類たちと同様に、街中を隠れながら移動していた。二人は、交互に自分の周りの空間を凝視した。
「追って来る者がいる」
そんな思いをしながら、また警戒に警戒を重ねて、ジョナはナナを導き、時にはナナもまたジョナを導いた。こうしてジョナとナナはその見回りの兵士たちの目を避けながら、やっとの思いでナナの隠れ家に帰り着くことが出来た。
そこは、ジョナにとってそこは初めての場所だった。
「ジョナ、ジョナじゃないの」
「ここに来たのか。そうか、使命を果たしに来たのか」
そこにいたのは、イワンとミラだった。
「僕のことを覚えていたのか」
三人は互いの今までのことを語り合った。そして、イワンとミラは、アリューシャンの谷の人々と同じく、ニネベの街に救いを求めてたどりついたことを語った。偶像だったオンゼナの像を信じたが、彼らのあとにたどり着いたナナの呈した疑問に付き合ううちに、本当の救いにこだわっていた自分たちの考えを見直し、秘密の結社をつくりあげていたのだった。
「ジョナは、特にここでは、しばらくおとなしくしていなければならないよ。彼らにとっては、あんたが来たことでご神体が崩壊し、そのあと倶利伽羅不動から逃げ出し、救いが偽物であることさえ暴いたんだからね。ほとぼりが冷めるまで、この家に隠れている必要があるね」
こうして、ジョナはしばらくこの家の中に籠ることになった。
隠れ家は、中央にバスルームとキッチンダイニングを設け、その周囲にカプセルホテルのようなベッドカプセルを配置した構造だった。皆、ベッドの上で着替えるのが規則であり、威勢の風呂の時間にベッドルームを風呂の時間に開けてはならない規則になっていた。そして、このドアの規則は、大人になってからアンヘルと二人だけで暮らしてきたジョナにとって、複数人と暮らす際の鬼門であり、この後の数日間、規則を覚えきれないジョナは様々な問題を起こすことになった。
第一日目は、ごみの出し方だった。
「生きていりゃ、どんなごみも出て来るさ」
ジョナはそう言い訳をした。だが、家の主人のナナは許してくれなかった。
「何でもかんでも、ゴミ箱に突っ込まないで! ここは私が確保開発した場所なんだ。清潔と整理整頓をしてほしいよ」
「だから、不要物はすぐに捨てている」
「あのね、あんたも私も谷野育ちのはずなんだけど」
「僕は、谷の生活とおさらばしたんだ。農作業もしたし、戦士にもなったんだ。スティルスーツでの生活だったけどね」
「先史人類は、そんな生活をしないんだよ」
第二日目は起床時間だった。
「戦士はいつでも起きられるのさ。だからいつでも寝ているんだけど」
ジョナはそう言い訳をした。だが、ナナは許してくれなかった。
「へえ、いつでも起きられるなら、今すぐ起きてちょうだい」
「なんだよ」
「そうじするんだよ」
「僕が自分でやるよ」
「だめ、ごみの出し方さえダメなんだから。言うことを聞いてくれ」
「はあ」
第3日目は食べ物の好き嫌いだった。
「今まで贅沢しなかった。だから、ここでは好き嫌いを言ってもいいだろうが」
ジョナはそう言い訳をした。だが、ナナは許してくれなかった。
「今まで贅沢しなかった、なんて嘘だね。農民が戦士になって、王族側近になって、出世して。さんざん贅沢な暮らしをしてきたんでしょ。ここでは許されないよ」
第4日目は食事のマナーだった。
「今まで一緒の奴らは、力任せにかみ砕いていたよ。道具なんか使わなかった」
ジョナはそう言い訳をした。だが、ナナは許してくれなかった。
「じゃあ、思い出して。はるかな昔、谷で厳しく教育されたはずなんだけど」
「この熊手みたいなのと、包丁みたいなので、食べるのか。ナイフとフォークはないの?」
「その道具は私が作ったのよ。なんか文句があるのかしら」
「ない」
第5日目はいわゆる人体総排出孔からの排気ガスだった。
「今まで規制がなかったんでね。彼らはそんなことを気にしなかったんだが」
ジョナはそう言い訳をした。だが、ナナは許してくれなかった。
「私が気にするのよ。まず、においを何とかして。寝ている間ばかりでなく、いる間は必ずドアを閉めて」
「音が出れば臭くないらしいよ」
「音も禁止。必ず、トイレの換気扇の近くへ行って!」
第6日目は入浴に関してだった。
「時刻を間違えちゃって」
ジョナはそう言い訳をした。だが、ナナは許してくれなかった。
「時刻は何回も注意したのに」
「今までは間違えても問題ない奴らばかりだったんだが。ミラの時刻はちゃんと覚えていたよ」
「そう。つまり私の時はわざと間違えたってことなのね」
「いや、そう言ったって、あんたの体は見慣れているし、せっしょkしたこともあるから、問題ないかな、と思ったんだけど」
「何言っているのよ。頭に来た。もうゆるさない」
「そう怒るなよ。どう頑張ったって、体の魅力で見るとアンヘルの方が豊満なのさ」
「失礼な。私のよく知らない女と比べられても、何の意味もないよ」
ナナはそう言うと、ちょっと考えて質問をジョナに返した。
「ところで、アンヘルって、トンガの谷でイズ・ムアの敵対した都市国家、詛読巫で女王と名付けられて生贄にされていたね」
「そう、そのとおりだった。その詛読巫から彼女を僕がうばって脱出したあと、彼女は教母としてミルシテイン王家のナデジダ女王の側近になっている。太平洋王国における王権をしっかり確立しようとして頑張っているんだ」
「へえ。あんたとアンヘル、そしてミルシテイン王家が確立した太平洋王国が、詛読巫に敵対していたんだね」
「そうだ。最高神」に帰依し、王国を確立したんだ」
「最高神? それは何なの?」
「天地を創造した神、神々の中の神としてニカラグアの谷の都市中心部にある神殿に、その像が祀られているんだ」
「それって、此処の先史人類たちが神邇達に操られた火炎族のような人類によって持ち込まれた偽の啓典の主じゃないの!」
「そうだよ」
「そんな。あんたは現人類のことに一生懸命なの? 彼らは百鬼夜行の群なのに。もともとのあんたの使命はどうなったのよ」
「そんなことは忘れたよ。今は王国が再確立することが大切なんだ。そして太平洋王国の女王は、此処の最高神(デーヴ」の権威によって王国を新たなものにしようとしているのさ」
「最高神(デーヴなんて、あんな話にここの先史人類たちは騙されていたことがもうはっきりしているんじゃないの? あんた、そんな信仰を許しているの?」
ナナのその言葉は、明らかにジョナを責めていた。ジョナはナナに怒りを覚え始めていた。
「許しているわけではないさ。先史人類が騙されていたけど、ナデジダ女王や木精族、そしてアンヘルたちは今でも信仰しているのさ。僕はそんなアンヘルの思いを尊重しているのさ」
「尊重? あんた、まだ事なかれ主義なのね。あんたは追い立てられるとすぐに怒って逃げようとする。自分の大切なものに無関係だと全く動こうとしないなんて!」
「なんだよ。またそんな議論をするのか。天裂地羅でも言ったけど、僕は嫌なものは嫌だといったはずだ」
ジョナはこういうと、激情のあまり、ナナたちの隠れ家から飛び出して去ってしまった。既に、身元がわかってしまうオンゼナの像のパーツは携帯していなかった。彼が一人で街の中を徘徊しても、ジョナであると、身元が知られることはもはやなかった。
不用意に女性の裸身を見てしまったことを糾弾されただけならば、ジョナは立ち去らなかっただろう。しかし、彼の生き方をひどく糾弾されたために、冷静さを失った彼は隠れ家を出て行ってしまった。現地の倶利伽羅人形たちにも追われていたこともあり、ジョナはスティルスーツを身に着けて都市部から脱出してしまった。
ジョナは都市部を覆うドームの上を音もなく昇って行った。彼が目指したのは、倶利伽羅不動が座していた市庁舎が、ドームの上に突き出した頂上の小ームだった。倶利伽羅不動が都市部での捜索に全力を注いでいるためか、そのドームの中は警戒の兵士たちの姿がなかった。この重畳部にアンヘルやナデジダ女王たちが束縛されているとジョナは考えていた。
頂上のドームには、先ほどまで確かにアンヘルたちがいた痕跡があった。それを探ってドームの中を右往左往するジョナに、一人の先史人類の女がどこからか現れてジョナの前に立った。
「私はこの街の神官です。我々は最高神様の敵であるとわかった倶利伽羅人形たちから逃れました。女王陛下たちは、すでに私たちがここから脱出させました。私はあなただけが分かる痕跡を残して、あなたにこれを渡すように言われたのです。これを渡せば、あなたはどこに行けばよいかがわかると、アンヘル様が言っていました」
女はそう言うと姿を消した。するとジョナの手には、いくつにも折りたたんだボードがあった。それは、広げると胡坐をかけるほどの大きさであり、透明基盤の中から中を覗き込むと、ある程度の厚みの中には女王側近たちには知られていない技術であるはずの、古いコイルが密集して収まっていた。
「これは、磁気浮上のための誘導コイルじゃないか」
ジョナは、知るはずのない技術の名を口にした。それは彼自身を驚かせた。いつその名を学習したというのだろうか。だが、口は条件反射のように動き続けた。
「ということは、どこかに磁気浮上によって移動できる軌道施設があるということか」
ジョナは分析する思考を口に出しながら、様々な施設を措定して都市部を覆う巨大ドーム沿いに、北道とは反対方向へ降りて行くと、谷底から少し林の間に入り込んだ廃墟に続く足跡を見出した。
廃墟は建物ではなく、地下の巨大な空洞というものだった。先史人類が古い時代に作り上げた何かの移動設備だった。外から入り込んだ落ち葉や草や泥に覆われてはいたが、空洞の最奥部にはどこかへ通じるトンネルがあり、それが谷に沿って穿たれていた。
ジョナは腕に抱えていたボードを広げながら、トンネル近くに来ると、ボードが細かく振動するようになった。
「これは何かと相互作用をし始めている」
ジョナは、ボードを最終的に広げると、途端に振動が治まり、全体が浮力を帯びるように感じられた。
浮力を抑え込むようにボードの上にまたがると、ボードは何かに気づくようにトンネル内へと動き始めた。ジョナは慌てたが、ボードに乗ったまま注意深く進む道を見定めた。やがてボードは岩石と地衣類に覆われた土砂の上で振動とともにさらに高く浮かび上がった。三十センチメートル以上も浮かび上がった様子を見ると、それはやはり磁気浮上式のリニアモーター機関だった。
ジョナの乗ったボードは、超高速で移動し続けた。やがて、トンネルから外へ出ると、ニカラグアの谷を北へ移動していることに気づいた。その向かう先には巨大なドームがあることにも。
ジョナの乗ったボードは、大きなドーム状の建物へ向けて高速で近づいていった。堆積した葉や草、土砂などに軌道は隠されいていたのだが、ボードはそれらを巻き上げ手前が見えない状態のまま突き進んでいった。そのおかげで、ジョナの顔や服、ボードの上にはすっかり土砂や落ち葉などがたまっていく一方だった。




