物騒な邂逅2
「動くな」
チャキーン。
うん、もし効果音があったらこんな感じ。
麻耶は両手をあげて、ピタリと身体をとめた。
冷たくて硬い何かが、自分の首筋の横から生えている。どうみても抜き身の刃だ。
――ナニコレ。
いや、刃だ。それは分かっている。だけどなんで。
「動けば命はない」
冷や汗がタラリとたれた。
目の前にいる弟は……、助けを求めてちらりと見ると、武志は驚愕に目を見開いてぶるっていた。役に立たない。
「貴様、聖女に何をしていたッ!」
「せいじょ……、」
ここで麻耶は異世界チート?その一に気付いた。
言葉が通じている。
「聖女って、どういうことだ」
「ふざけるな、貴様が、貴様が、ら……、ら乱暴ッを、しようとしたお方だ!」
「らんぼう……、」
乱暴されているのはむしろこちらだ。そう言い返したい気持ちを押さえて、麻耶は何とか穏便にこの場を収めようと努める。
とにかく、この物騒なものを早くひっこめて貰いたい。
そらみろ武志なんて、涙目じゃないか。
と――、ここで改めて麻耶は今の状態を客観的に見たらどう見えるか、に気付いた。
「まて、誤解だ」
「何が誤解だ!」
「俺は……その、襲っていたわけではない」
「言うに事欠いて……ッ!私は見ていたぞ!貴様が嫌がる彼女を無理やり押さえつけていたのを!」
「いやだから、それはちょっと服を拝借しよ……いや、まてまてまて!そう言うんじゃない!違う、違うからな!」
誤解を生んだ行為を見られて誤解を生みそうな言葉を告げそうになって、慌てて麻耶は言葉を募った。
「そもそも、こいつはオレのおとう、いや、イモウト、妹なんだ!」
「嘘をつくな!」
「嘘じゃない!」
チャキ、耳元の剣が音を立てる。
――コイツわざとか!性格わっる!
握り直されたのであろう剣は、脅しの効果抜群だ。
「本当だ。ウソだと思うなら、いもうとに聞いてみろ」
「……聖女さ、いや、少女よ。この者の言うことは本当か。この男は本当に君の兄か?」
「え、あ、はい!」
武志はやっと気を取り直せたのか、こくこく、とうなずいて麻耶を援護してくれた。
「コノヒトは、あ、兄、あにです、オレの、あ、わたし、のおにいちゃんです」
「……脅されているのではなく?」
「現状、脅されてるのは俺だろう」
丸腰に剣突き付けられてな!麻耶が言うと、漸くそろそろと剣が引かれていく。
「わたし、脅されて、ません!お、おにいちゃんを傷つけないで下さい!」
美少女武志が精一杯声を張り上げて言うと、後ろの男から殺気も引っ込んだ。
ほう、と思わずため息が漏れる。
――し、死ぬかと思った。
何度も言うが麻耶は普通の女子大生だ――いや、だった。剣を突き付けられて平気な訳がない。
ガシャン、と金属のぶつかる音が聞こえて、あの男がやっと剣を鞘に納めたのだと分かった。
両手を降ろした麻耶の隣を人が通り過ぎる。
「では……改めて、聞こうか」
ばさり、音がして大きな布が武志に掛けられた。
マントを脱いだ男が庇うように弟の目の前に立ち、麻耶に向き直る。
「お前たちが、どこから来た、何者なのか」
深い藍色の髪色をした、銀の瞳をもつ美丈夫が、麻耶の瞳を射ぬいた。
普通さ、異世界トリップで聖女役ってね。
弟じゃなくて姉がなるんじゃないかって、思うんだ。
初投稿です。
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