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異世界行ってみたら弟が聖女!?  作者: 矢崎 エメ
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御前試合2

 コーラカルの言葉に、その場は騒然となった。

 すぐさま試合は中止され、王は魔物討伐を担う右軍へと指令を出すよう指示。その場は解散となった。

 事情を知るコーラカルは兵に連れられて、ここをもう出ている。

 武志の側には王子とシリブローが残った。



「兄ちゃんが魔物狩りを……、あっ」

 安堵なのか不安なのか。様々な感情が渦巻き、武志はふらついた。

 すかさずアレックスが背を支えてくれる。

「……ありがとう」

「イーシャ様。お部屋までお送りします」

「はい」

 アレックスの手を借りて転倒を免れる。

 ――ああ、根性なしの身体がニクイ!!

 美少女転生は良いが(いや良くないか?)、この身体はとてつもなく弱かった。体力がないのか、朝の礼拝一つで午前中が終わってしまう。か弱過ぎて、未だに戸惑うくらいだ。

「お手を……」

 差し出された男の腕を握れば、折れそうな自分の指に目が留まった。

 武志の華奢な腕は、アレックスの腕の太さの半分以下。

 少し情けない気分になったが、ぐっと腹に力を入れて、しゃきっと身体を伸ばす。

「部屋に帰って……兄を待ちましょう」

 武志は昂然と顔を上げ、まだざわついている試合場を後にした。



 試合の勝敗に対する判断は、後日改めて王より沙汰が下される。


◇◇◇◇◇◇◇


「乾杯!」「乾杯!」

 店内のあちこちで、ジョッキを打ち合わせる音がする。

 麻耶もシャリオンに向かってジョッキを差し出した。相手も杯を掲げて軽く合わせてくる。

「マイヤー殿の初魔物討伐成功を祝って。乾杯!!」

「乾杯」

 一息で三分の二ほども飲み干して、麻耶はジョッキを置いた。

「ぷっはー!!」

「お疲れさん」

 ねぎらいの言葉が心地いい。

 麻耶は笑って続けざまにもう一口煽った。


 ここは治安のさほど悪くない地区にある、宿屋兼大衆食堂だ。夜は居酒屋になる、少し砕けた雰囲気の店で、懐に余裕のある平民や冒険者、兵士たちがよく利用している。

 騎士の中でもエリートである近衛が良く利用する場所とは違うので、シャリオンは同僚に会う確率も低く、身バレしないと贔屓にしているらしい。

 麻耶も彼と知り合ってからは、ここに何度か連れてきてもらった。


「それにしても……今日は大変だったな」

 マイヤー、と運ばれてきた串焼きを摘まみながら、シャリオンが語りかける。この頃では随分砕けた口調で麻耶としゃべるようになった。

「ああ、まあな。まさかあんなことになるとは思ってなかったよ」

 しみじみと言う麻耶にシャリオンが背を叩く。

「まあまあ。子供が無事で良かったじゃないか」

「ああ。俺が着いたときにはギリギリだった。男が一人で守ってたんだ。腕の立つ奴で良かったよ。持っていた守り石は砕けたらしいが……」

「マイヤーは、その魔物の群れをたった一人で片づけたんだろう。援軍が来たときはもう終わってたって?流石だな、『守護補佐』殿」

 おかしそうに言って、シャリオンは杯を干した。片手を上げて「おかわり」と声を掛けると何処からともなく「あいよ」と返事が返ってきた。

「本決まりなのか?その――守護騎士補佐ってのは」

 麻耶が首を捻りながら尋ねると、シャリオンは若干声を潜めて教えてくれる。

「ここだけの話だが……一両日中にでも公に発表されるだろうと。大声じゃ言えないが、もう決まったも同然らしい。なんせ白薔薇殿下からの取り成しもあったからな」

「なんだ、そりゃ」

「ああ、お前は知らないよな」


 そこで麻耶は初めて、試合が寸でのところで相手の不戦勝となりそうだったこと、それをルカが止めたことを知った。

 今日は国王の警護を担当しなかったシャリオンは、後で同僚に聞いて詳細を知ったらしい。ルカが身を伏せて王に懇願した。そこまで麻耶に肩入れしたと聞いて、シャリオンは驚いたと言う。

「あの儚げな人が一歩も引かず、お前を庇ったってさ。この剣といい、この間の城下の散策といい、おい、マイヤー、お前あの人と一体どういう知り合いなんだよ」

「それが……それは俺も知りたいね」

 からかわれるように言われて、麻耶は顔をしかめた。

 ルカのことを大切な人だとは思っているし、なんなら友人のようにも感じているが、何せ相手は王子様だ。ここまでされるとは、麻耶だって正直信じられない気持ちが強い。

「俺は、つい最近まで王族だのなんだのとの繋がりもなかったし……ルカのことも王子であるって言う以外は良く分かってないんだ」

「えっ?自国の王子様のことだぞ!?」

「あ、まあ、その、なんだ。今まで平民だったから?この国の王族のことを良く知らなくて、だな」

 まさか異世界から来たから知りません、とも言えず、麻耶は誤魔化した。

 ついでに麻耶も一杯を綺麗に飲み干して、おかわりをする。

「ルカス殿下は……第二王子だ。それは知ってるな」

「もちろん。アレックスとマティウス王子殿下の兄なんだろ」

「ずいぶん大雑把だな。ルカス殿下とマティウス殿下が正妃様の御子だ。第一王女のマデイラ殿下もそうだが、彼女は他国へ嫁がれた。第一王子殿下とアレックスが同腹の……側妃様の御子となる」

「ええっ!?アレックスとルカは同母兄弟じゃないのか!」

 特別仲が良いとは聞いたことがないが、アレックス側にいる麻耶に良くしてくれているルカ。当然、アレックスの実兄だと思っていた。

「いや。ルカス殿下はマティウス殿下の兄上でいらっしゃる。……兄弟仲については知らないが、悪いとは聞いていない」

「へえー」

 そういえば、ルカの綺麗なピンクブロンドの髪色は、濃い朱色がかった金髪と、同系統と言えなくもない。麻耶は二人の髪色を思い浮かべ、次いで顔を思い浮かべて首を振った。

「いや、でも。似てないだろ、あの二人」

「まあなあ。マティウス殿下は豪の者だし、ルカス殿下は別名『白薔薇殿下』だからな。乗馬もなさらないし、剣術なども嗜まれないと聞く。リュートが得意で絵をお描きになるそうだが……」

 白薔薇を背後に背負わせて、リュートを持ち、イーゼルの前にたたずむルカ。儚い微笑を浮かべ可憐な唇に咥えるのは一本の赤い薔薇……。

 ――に、似合いすぎる!!

「ぶほっ、……ゴホッ、ゴホ、ゴホ」

 想像したら、あまりにもはまってしまった。

「大丈夫か」

「ああ、なんでもない。……ところで、第一王子殿下って。アレックスのお兄さんって人は今……あれ?」

「残念ながら、お亡くなりになられた。もう分かったと思うが、マイヤー、お前の持っているバスタードソードの主だ」

「……なるほど」

 麻耶は背後に手を廻してそっと大剣に触れる。

 この剣にも今日は大分救われた。

「彼は、その、……どうして、」

「俺も詳しくは知らない。十六年前、十一歳のときに事故で、としか」

「ふうん」

 バスタードソードの最初の主。ひょっとしたら王太子殿下になっていたかもしれない人。

 ――あの、ルカスが今でも思い出を守っている人、か。

 いつの間にか空にしていたジョッキを掲げて、また麻耶はおかわりを要求した。


「で?ルカス殿下とお前の関係は?……上手く話を逸らしたと思ってただろうが」

 不審をありありと滲ませてシャリオンが麻耶に迫る。

「マイヤー、なあ、お前みたいに武骨な男が、一体どうやって白薔薇殿下を落としたんだ。素直に白状しろよ、この野郎」

 ぶっ!と麻耶は再び口をつけたばかりの新しいジョッキを、危うく吹き零しそうになった。


 ――落としてませんって!!……つか、私が武骨な男って……。


 思わず真顔になってしまった麻耶が押し黙る。

 それを、さあ吐け聞かせろと執拗に促してくる友人に「武骨はお前だろうが」と返して、麻耶は豪快に杯を傾けた。


 

 麻耶が初めて魔物と遭遇し討伐した夜は、そうして更けていったのだった。

 




 

 結局、国王陛下から裁定が下されたのは、試合の二日後だった。

 麻耶は正式に『従守護騎士』という身分を保証されることになった。なんとも曖昧であるが、これは折衷案ということらしい。

 試合自体はグラハム・ヘイズ卿の不戦勝。聖女イーシャの『守護騎士』も彼が務める。

 しかし欠場理由が理由だということで、麻耶も騎士の資格は十二分にあるとみなされた。特にルカス第二王子殿下による強い進言もあって、麻耶は晴れて『従・守護騎士』となった。もう一つの案に『守護騎士補佐』があったらしいが、これではあまりにも格下に見えると、この呼び名は却下されたという。

 実質、聖女イーシャは二人の守護騎士を得たことになる。


 これによって激化したのが、聖女同士の『戦い』であった。

読んで下さってありがとうございます。

次は聖女VS聖女 in 披露宴!頑張ってイーシャ(武志)を着飾らせます。


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