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異世界行ってみたら弟が聖女!?  作者: 矢崎 エメ
32/50

暗雲

 風見鶏一座が王都近くの村にいる、と聞いて麻耶はコーラカルを誘った。

「皆に会いに行こうな」

「はいっ!!」

 少年は酷く喜んで、一もにもなく頷いた。


 城下でルカと散策をした時、一座が王都での巡業を予定していることを知った。

 詳しいことを聞いてみると、彼らは今、小さな村のはずれに天幕を張っているらしい。一月近くの長い巡業になるため、生活基盤をしっかりさせる必要がある。それには井戸などが借りられる場所が好ましいそうだ。また王都の街道近辺では、大々的に天幕を張りづらいこともあって(何せ動物までいる大所帯だ)、彼らは村の許可を得て、そのはずれに天幕を設営していた。


 あれから麻耶は稽古続きの毎日だった。

 実剣を使った武術訓練、騎乗訓練。

 身体を鍛え、その動かし方を学び、実戦を積む。絶え間なく鍛錬に明け暮れていたこともあり、なかなか王城から出られない日々が続いた。

 コーラカルを誘ったのは良いが、正直、時間の都合がつかなかった。

 いつ、という確約はできないままに暫く日が過ぎて、気づけば試合当日になっていた。




「結局、会えなかったなあ」


 朝一番で、麻耶はハルバードの手入れを念入りに行っていた。バスタードソードの手入れは、もう済ませている。

 今日は『守護騎士』の座を賭けた御前試合という、けっこうな大勝負がある。その前に、世話になった気の良い連中に会って英気を養いたかったのだが、結局今まで叶わなかった。

 御前試合は、一般の者に公開されないため、一座の者を招待する訳にもいかない。

 今回の試合次第では、麻耶の『守護騎士』の名が使えなくなるというのに、彼らに知らせることもできなかった。あれほど盛り上げてくれた一座に対して、何も告げずにいるのは気が引けるのだが。



 麻耶はハルバードを熱心に磨き上げながら、うなって考えた。


「うーん、無理ってわけでもない、かな」


 試合は今日の午後だ。

 午前中なら丸ごと空いている。


 ハルバードの手入れを終えると、麻耶は立ち上がった。バスタードソードも手に取り、両手に剣を構える。

 勢いよく振ると、ブンッ、と良い音が鳴った。ひとしきり振り回すと、手慣れた仕種で背中に収める。


「よし、行こう」


 言葉に出せば、決意が固まった。

 村の場所は知っている。

 馬を使えば行って帰っても2時間と掛からないと聞いた。

 彼らに会えば、少年はどれほど喜ぶことだろう。 

 コーラカルの満面の笑みが脳裏に浮かんだ。 


 

「……道に迷わねえようにだけ、しないとな」

 迷子になって不戦敗。

 それだけは避けねば。

 さすがにもう、いろいろと悟っている麻耶だった。





◇◇◇◇◇◇◇




「おお、これはなんと!!思っても見ない顔じゃないか」


 道中、無難に事もなく、コーラカルと麻耶は村はずれについた。

「団長さん、それにリデルさん!」

 馬上から声を上げたコーラカルに続いて、麻耶も「お久しぶりです」と挨拶を続けた。

 馬を止めると、よっと掛け声をかけて、コーラカルを降ろす。

 この世界に来て、麻耶は随分、馬の扱いに慣れた。馬も剣もあちらの世界では滅多に触れることもないものと、深い縁が出来たものである。

 

「こりゃアたまげた。マイヤーさんは随分立派になりなすったもんだ」

 麻耶を見て、団長が笑いながら言う。

 仮とは言え、近衛騎士の隊服を着込み、背に大ぶりの剣を二本も背負った麻耶。

 王都の近く、と言っても6キロ近く離れた村外れまでくれば十分田舎だ。黒馬に乗ってやって来た騎士は、ここでは、ものすごく目立った。


「団長も、お元気そうでなによりです」

「ははは、あれからそんなに経っちゃァねえからなあ。……と、ぼうず、お前も元気そうで良かった。シリブローはどうだい」

「聞いて下さい、団長さん!シリブローったら聖女様のお気に入りになって!!あ!ぼくも、ぼくも聖女様のおつきになったんですよ!!今はシリブローと一緒に聖女様に仕えてるんです」


 コーラカルが、目を輝かせながら報告する。

 手には早速、団員にもらったのであろうお菓子があった。やはり少年は相当可愛がられているようだ。

「そりゃア良い。神殿に残ってるかと思ったが、やっぱりぼうずはマイヤーさんと一緒だったんだなあ。まあこうして会えて良かった」

 さきほど迎えてくれたリデルが、他の団員に声を掛けに行ったらしく、ぞくぞくと人が集まってくる。

 村の方からも、ちらちらと人が顔を覗かせていた。

「立ち話も、なんだ。あっちに座るかい」

 天幕と天幕の間、野外の焚火用に組木がしてある場所に、麻耶たちは案内される。もちろん昼日中の今、火は焚かれていない。

 他の団員達も集まり、皆で円座になって座った。

 懐かしい顔ぶれがそろい、一人、また一人と楽しそうに話しかけてくる。


「こぉんなに出世するンなら、ちゃあんと唾つけときゃ良かったわねぇ」

「おい、アンジー、早速浮気かい」

「あらやだ。旦那に言わないどくれよォ」

 婀娜っぽく言う歌姫に、座がどっと沸く。

「旦那……アンジーさん、結婚を?」

「いやぁ、結婚、ってほど正式なもんじゃないんだが。アンジーがついにプルーシャ男を落としたって話さァ」

「ええっ!プルーシャ男って、ヤロスラーフさん!?」

 コーラカルが驚いて聞き返すが、麻耶も意外に思って話を聞いた。

 剣舞をする以外は、団の雑用を一手に引き受けているヤロスラーフ。傭兵の経験を活かして用心棒まがいのこともする。表舞台に立つことの少ない彼は、どちらかといえば目立たない方だ。

 あの真面目を絵にかいたような彼と恋多き歌姫の馴れ初めは、なんとも気になる所である。


「おうよ。昔っからコナかけてたが、ようやくあのお堅い男をアンジーが口説き落としたのさ」

「へえー!」

「なによぅ、あたいが手こずったみたいに言わないでちょうだい」

「とかいって、アンジー、お前昔っから、あの男びいきだったじゃねぇか」

「おお!」

 はやされたアンジーが頬を染める。

 まさかの歌姫の恋路に麻耶も微笑ましくなり、笑って心から祝福した。


 団員たちの暴露話やちょっとした出来事、こちらの話をしていると、話は大いに盛り上がる。

 特に今日の守護騎士を賭けた試合のことを告げると、団員一丸となって麻耶を応援してくれた。


「がんばれよ!マイヤーさん!!」

「なんたってウチの看板演目『守護騎士マイヤー~聖獣を連れた伝説の騎士~<出会い編>がかかってるからな」

「ぶッ!なんですかそれは!!」

 ビラを片手に言われて、麻耶は飲んでいたお茶を噴いた。

「ちなみに<魔物討伐編>が次の演目予定だ」

「そんでその次は<聖女と結婚編>な」

「ないない!それだけは絶対ない!!」


 慌てる麻耶に、どっと座が湧く。

 まるで飲み会のようなノリで皆が大笑いしたのだった。 



 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


 もう、そろそろ帰ろうか、ということになって、三々五々に立ち上がる。


「今日は楽しかった」

「こちらこそ!試合もあって忙しいってえのに、わざわざ足を運んでくれて、嬉しかったよ、マイヤーさん」

「頑張ってくれよ。俺たちみぃんな応援してっからよ」

「興行が始まったらウチのを見に来て下さいよ」

「ええ、ぜひ。今度もコーラカルと一緒に行くよ」


 ははは、と笑い合っていると、そう言えばとコーラカルがきょろきょろと辺りを見回した。

「あの。ぼく、ずっと気になって探してたんですけど……ヤロスラーフさんは」

「ああ。あいつなあ。すぐに来ると思ってたんだが、そう言えばおかしいな」

 リデルが首をふりふり返事をする。

「あいつは朝、村の手伝いをするってんで、あっちにいるはずだったんだ。でも呼びに行ったとき、いなかった。伝言は頼んじゃいるんだが、……まだ来てねぇな」

「村には世話になってるし、持ちつ持たれつってことでな。団員が毎日交代でなんかしら村の雑用をやってるんだ」

 リデルを受けて、補足するように団長が言った。

「でも……あの人、コーリャがここに来たって知ったら、真っ先に帰ってくるはずだけどねえ」

 どうかしたのかしら、とアンジーが気遣わしげに顔をしかめる。

「ヤロスラーフさん、どうしたのかな」

 帰り支度をしながらも、コーラカルが寂しそうに呟いたときだった。





「た、助けて下さい!!」


 黒馬のそばにいる麻耶たちの元に、真っ青な顔をした女性が村から駆けてきた。



「息子が……!!息子がまだ森に入ったままで!!」

 麻耶に縋り付きながら、女性が叫ぶ。



「ま、魔物が!魔物が出たかもしれないって!!」



 空気が一瞬で、凍った。







「騎士様、どうか!息子を!!息子を助けて下さい!!」




 

読んで下さってありがとうございます。

次回の更新、今晩にできたら……と思ってます。

良かったらお付き合いください。

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