英雄と武器
訓練後、着替えてからシャリオンと落ち合った。
「行きましょうか。よろしくお願いします、シャリオン殿」
「ああ、こちらこそ」
二人で王宮の武器保管庫へ向かう。
歩き始めて数分で、麻耶は改めて一人でなくて良かったと思い始めた。当たり前だが王宮は広い。神殿以上に広い。こんなところで一人で保管庫へ向かおうとしても、迷子になるのがオチだ。辿りつく前に数時間かかってしまう。
「広いですね……まだまだ掛かりますか」
「いや、もうじきだ」
こんな言葉を交わしてから、さらに数分。やっと目的地に着く。
保管庫前には扉を守る衛兵とアレックスがいた。
「マイヤー!……と、やっぱり来たかシャリー」
「おう、アレックス!やっぱりってなんだ」
「お前なら来ると思って。王宮武器保管庫に」
親しげに挨拶を交わすところを見ると、二人は知り合いらしい。もちろん、王子と近衛騎士だ、知り合っていても不思議ではないのだが、それ以上に二人は親しげに見えた。
「二人は知り合いなのか」
「ああ、シャリーの父親が俺の剣術の先生だったんだ。その頃からの縁だよ」
シャリオンの父と言うことは現在の右軍大将だ。軍のツートップの内の一人である。それなら確かに王子の剣の指南役に相応しい。
「なるほど」
他愛もない会話を交わしながら、入り口をくぐる。
そして麻耶は目前の光景に圧倒された。
ずらりと並んだ甲冑。
見える限りぐるり壁に陳列されている武具。
人が二人並んで通れるだけの通路の両側、腰の高さに作られた棚の上にも由緒正しげな武器が飾られている。
劣化を防ぐためか窓はなく、光源と言えば扉から差し込んだ光りと、アレックスが手に持った灯りだけ。
それでも宝飾の付いた剣や、金に輝く甲冑が、明かりを受けて時折キラリと光った。
「何度見ても、すごいな」
シャリオンが感嘆の声を漏らす。滅多に見れない、とは言っていたが、彼は何度か目にする機会が有ったのだろう。
「実用的ではない物も多いがな。他国からの献上品の中には、珍しい獲物も混ざっているし、使い方の分からない物もある。だが見ごたえはあるだろう。――ああ、こっちだ」
アレックスが促す方向へ付いて行くと、剣ばかりが飾られている場所に着いた。
「この中から探すことになるが。希望はあるか、マイヤー」
「希望、と言われても」
アレックスから問われて困惑する様子の麻耶に、ああ、とシャリオンが助け船を出してくれる。
「そういえば、マイヤー殿は平民出身だったな」
――いや戸惑いポイントはそこじゃない。女子大生に好きな武器あったらオカシイから。
麻耶が心の中で突っ込んでいると、助け舟の続きが出された。
「俺のお勧めは、やはり長剣だ」
ガチャン、と立てかけられた壁から剣を手に取り、シャリオンが麻耶に渡してくる。
「どうだ?」
手に持った麻耶に、アレックスが尋ねる。
「うーん……重いな、としか」
はっきり、良いとも悪いとも麻耶には言えない。
その後もアレックスとシャリオンは次々武器を取り上げて渡してきた。その度に煮え切らない態度を取る麻耶に二人がかりで、あれはどうだ、これはどう思う、とどんどんお勧め武器を押し付けてくる。
正直、うんざりしてきたところで、ふと麻耶の目を引いたものがあった。
多くの剣が並べられた場所から少し離された奥の壁。
麻耶の身長よりなお大きな一振りの、変わった形の武器。
ひときわ目立つそれは、ガラスケースの中に厳重に保管されていた。
「あれは何だ」
「ああ、あれは駄目だ。残念ながら使えない」
即座に断られて、使いたい訳じゃない、と返す。
「ただあまりにも変わった形と大きさに、何かと思って」
「ハルバード。その隣にあるのはバスタードソードだな」
突然、シャリオンが言う。どうやら武器の名前らしかった。良く見れば、大きな武器の隣にも剣がある。こちらも麻耶の腰以上ある大剣だ。
「それで使えない、とは」
「あれは、兄の――兄たちの剣だから」
アレックスの表情に陰りが見える。
不思議に思っていると、アレックスが言葉少なに話してくれた。
王族の直系男子には生まれたときに一本の剣が与えられる。王子専用の特殊な力を込められた武器だ。身を守るための実用的なもので、直系王族の証でもある。
どれほど大きくても帯剣するか、帯剣できなくとも常に身近には持っている物なのだそうだ。
「だが、この剣の持ち主は、どちらも剣を持つことはない。一人は病気を理由に。もう一人は――亡くなった」
麻耶の脳裏に一人の人間が像を結ぶ。
可憐で儚く、武骨な武器とはまるで縁遠い、花のような人。
「ルカ」
「兄を知っているのか!?」
思わず漏らした名前に、アレックスが目を見開いて麻耶に詰め寄ってきた。
「一度、神殿で会ったことがある。その……墓地で」
「なんでそんなところで!?――ああ、道に迷ったか」
すぐに理由に思い至られ、麻耶は釈然としない。だが続けられた言葉に黙って耳を傾けた。姉の弱点をバラした弟を〆るのは後だ。
「兄と会話したのか」
「ああ、少しだけな。立ち入り禁止の場所に入りそうになったんで、それで」
「……それだけか」
「まあ多少は話をしたさ。気が合ったからな」
「気が合った!?お前と兄が!?!?」
そんな、美女と野獣、みたいな反応をしないで欲しい。武志以外にはつくづく失礼な奴である。
「別におかしかないだろ。……そういえば、」
そこで麻耶はふいに別れ際に言われた言葉を思い出した。
彼は、こう言った。
『武器が必要になったとき、名前が役に立つ』と。
今思えば意味深な言葉だ。
あのときは、何か困ったことがあったら己の名前を使えと言う意味だと思っていた。だが、ルカは『名前が武器になる』ではなく『武器が必要になったとき』と言ったのだ。
わざわざ、守護騎士になったばかりかどうかを尋ねた後で。
「彼から言われたな。武器が必要なら、ルカの名前を出してみろと。きっと役に立つからと」
「なっ!!」
「それはまさか、」
シャリオンとアレックスの声が重なった。
「……どうした?何をそんなに驚いているんだ」
アレックスが自らを落ち着かせるように、数度深呼吸する。それから、徐に麻耶に告げた。
「武器が要るなら名前を使え、と兄が確かに言ったんだな」
「ああ」
「王子ルカスの名を名乗った上で」
「ああ、そうだ」
「なら、兄はお前に与えたんだ」
「は?」
「この、ハルバードとバスタードソードの両剣を」
「えええええっ!?」
この日一番、麻耶は驚いた。
読んで下さってありがとうございます。
この後事態が動きます。ルカも出ます。
お付き合い下されば嬉しいです。




