聖女の資格1
麻耶はアレックスと共に、『聖女』武志の部屋にいた。
今日は大神官長から、『聖女の試練』についての説明がある日だ。朝から呼び出しがあると聞かされていて、今、こうして3人でその時を待っている。
麻耶はちらり、と隣に座るアレックスを見た。
彼には昨日、兄王子に会ったことを告げていない。自分が禁を犯して立ち入り禁止区域に入ってしまった、というのが言い出しにくい最大の要因ではあるが、もう一つ。あの美しい人との時間を何となく、誰にも知られたくないというのもあった。もちろんルカとの約束で「なかったこと」については、さらさら言うつもりはないのだが。
――にしても、美形兄弟だなあ。
あちらの兄王子は儚い美人、こっちの弟は正統派美丈夫、と系統は違えと、両者とも相当なルックスである。マティウス王子とはまだ直接の面識がないものの、きっと彼も顔が良いのだろう。
ふ、とこちらの視線を感じたのか、アレックスが「どうした」とばかりに麻耶を見返す。どうやらじろじろ見過ぎていたらしい。
何でもない風を装い、顔を逸らせて正面を向いた。
「あー、なんかどきどきする」
前のソファーに座っている武志が、少し緊張した様子で両手を顔に当てていう。
「大丈夫です、イーシャ様。私がお側に付いています」
すかさず、流れるように自然なフォローがアレックスから入る。見事だ。麻耶がいないうちに、二人の仲はかなり良くなったようである。若干空気がピンクい(気がする)。
――む。いっけどね!!
麻耶はサバイバルでエグザイルったけどリバイバルした己を褒めるのみである。韻が進化した。エグザイルだけに。
「……今日の『聖女の試練』についての説明だが、アレックスは何か知っているか」
麻耶が話を向けると、アレックスは首を振った。
「いや……。探ってみたものの試練が何かまでは分からなかった。だいたい、私も最初はそんなものがあるということすら知らなかったんだ」
聖女になってからの務めとして、騎士を伴う魔物の討伐などはあるだろうとは思っていたが、そもそも、「聖女になるための試練」がある、など考えもしなかったとアレックスは言う。
「えっ!?こういう流れって決まっているものなんじゃないのか?オレ、えっと私、神官から聞いたけど、毎回こうだって……」
驚いて声を上げた武志にも、アレックスは首を振った。
「流れ自体は決まっているのです、イーシャ様。しかし私が知っていたのは、召喚された後、暫くすると神官長から女神の信託が下り、聖女が決定する、というその流れのみで、詳しいことは何も。臣下への披露目などは形式的なもので、聖女が一人に認定される前に、召喚された二人の聖女に敬意を払って行う物だと聞いていて、それ以上は……」
アレックスの話によると、聖女召喚には色々と不明な部分も多いらしい。実は儀式を行う次期さえ定まっておらず、間隔も40年~200年とバラバラ。召喚の儀式を司るのは強力なセクラを持つ大神官長、だが決定に関する女神の信託の方法については何故か不透明だった。
そこを知るために、アレックスは麻耶がここへ到着する数日の間、色々と探ってみたが『聖女の試練』=『聖女になるための試練』があるということを突き止めるのが背一杯だったという。
「じゃあ、何か?信託についても、詳しいことは分かっていないと?」
麻耶が問うとアレックスは頷いた。
「当代の神官長が召喚後に何らかの方法で信託を受け、そこで決まるのだと思っていた。おそらく、兄のマティウスもそう思っていたはずだ」
「なるほど……」
結局、試練についても信託についても疑問は解消されず、先日の夜と同様「待つしかない」という結論に至る。
そうこうしている内に、良い時間になったのだろう、
「ゼイル大神官長がお呼びです」
コンコン、という軽いノックの後、扉の向こうから若い男の声がかかった。
――来た。
◇◇◇◇◇◇◇
意外や意外、神官の一人に先導されて、武志、アレックスと共に案内された先、着いたのは神殿の『会議の間』だった。
これにはアレックスも武志も相当驚いていた。
というか、麻耶も驚いた。
「てっきり、いつもの礼拝殿に行くんだとばっかり思ってた」
という武志の言葉に、アレックスと麻耶も顔を見合わせて頷く。
厳かなる大神殿の『儀式の間』に通された聖女たち。そこで神秘の力を携えた大神官長(多分光のオーラ付き)から重々しく信託を授けられる――というわけではなかったのだ。
茶色のドアを見て、麻耶は頭の中で「え、違うんだ!」と突っ込んだ。
『会議の間』は、さすが大神殿の中にある会議室らしく、大理石張りの大きな部屋だった。切れた円環状――三日月形とでもいうのか、変わった形の大きな机が二列、輪を描くように並べられている。
中央には窓ガラスを背にした席があり、そこが議長、この場合は神官長が座る席になっているようだ。
「お待ちしておりました、イーシャ様、アレックス殿下、マイヤー守護騎士殿」
議長席から立ち上がり、初老の男が挨拶をした。
「お初にお目にかかりますな、マイヤー殿。ゼイルと申します」
彼は麻耶に向かい、もう一度礼儀正しく会釈する。
「初めまして、マイヤー・センディアと申します」
麻耶も礼を返すと、ゼイルは穏やかに頷いた。
彼には、麻耶と武志が兄妹であるということ、二人そろって召喚されたのだと言うことをアレックスから伝えてある。異界渡りの魂が、聖女以外にここに呼び寄せられたことについて、ゼイルは当初驚いたものの否定するようなそぶりは見せなかったらしい。
曰く「女神の意思は、人に推し量れるものではありますまい」の一言で彼は受け入れたと。聖女召喚の不透明さが、ここにも表れているようだった。
麻耶たちが席に到着すると、ほぼ時を置かずして、扉が開いた。
入ってきたのは、もう一人の聖女の御一行様だ。
銀の髪をした美少女、朱金の派手な髪色をした威圧感のある男性、騎士服の青年。それぞれが思った通り、聖女、王子、守護騎士だった。
1対1対応なので、こちらの誰があちらの誰に当たるのかが、ものすごく良く分かる。ただし、聖女も王子も騎士も、こちら側とは全く違うという印象を受けた。
ゼイルから一通りの紹介を受けると、それぞれ軽く会釈をしあって席に着く。
着いた早々、開口一番、
「これは一体なんだ」
マティウス王子が、不満気にゼイルに問うた。相当、不機嫌なようだ。
「と、申しますと」
「なぜ、こんなところに我々を呼んだ。信託を授けるのではないのか」
やはり、彼も気になっていたらしい。
マティウスにも何も知らされていなかったというのが本当なら、彼も今回の聖女の認定に対して、かなりナーバスになっているはずだ。
聖女認定が王位継承権をめぐる争いにも関わっていると聞く。選ばれなかった方が王位継承に不利になる、というのなら、これからの展開は、双方にとって熾烈なものになりそうだ。
いらだった様子のマティウス王子に対し、ゼイルは淡々と答えた。
「わざわざ儀式を行う部屋まで御足労を願う必要がありませんからな」
そこで、いったん言葉を止めると、ゼイルは一同を見回す。
「女神からの信託、すなわち『聖女の試練』についてですが――もう下されておりますゆえ」
「ええっ!?」
驚愕に一斉に声を上げた皆に向かって、ゼイルはおもむろに頷いた。
「聖女を召喚されたと同時に、女神より試練は与えられました。私は本日、それを皆様に告げるのみ」
「試練は――」
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