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異世界行ってみたら弟が聖女!?  作者: 矢崎 エメ
22/50

解語の花

後から書き直すかもしれません。


 陽に反射して、薄紅色のブロンドが光り煌めき輝いている。

 シャツにズボンと言うシンプルな上下から覗く、透明感のある白い肌とほっそりとした肢体。

 顔立ちは綺麗で繊細で、澄み切った淡い緑のペリドットの瞳は見れば吸い込まれるようだった。

 美しすぎてまるで作り物で、いっそ生きていると思えない。



 

 白い花弁が舞う中で、夢幻の儚さをまとって、その人は立っていた。







「ここは、立ち入り禁止ですよ」



 ふわ、と浮かべられた笑みまで儚い。

 今にも消えてしまいそうだ。



「……幽霊?」

 ――墓地だけに。



 しかし漂うこともなかったその人は、実体を伴い僅かな音を立てながら麻耶に近づいてきた。

「立ち入り禁止なんですよ」

と、笑顔でもう一度告げられて、麻耶はようやく我に返る。魂が抜けるかと思うほど、ぼうっと見惚れてしまっていたのだ。

 麻耶は慌てて返事した。 



「あ、の。……すみません。どうやら、道に迷ったようで」

「ふふ、こんなところで、迷子ですか」

「こんなところで、迷子なんです」


 

 かさ、と音が止まった。

 丁度、手を伸ばして届くか届かないかの距離に、その人は立つ。

「それは……こまりましたね」

「ええ、こまりました」

 にこり、と微笑まれるが、これだけ近寄られても、どこか現実味がなかった。かろうじてこの人は男性なのだろう、ということが分かるくらいだ。



 ――幽霊、じゃない。たぶん。じゃあ、やっぱりここは異世界あるあるのアレか。性別を超越して美しい……、


「エルフ?」

「え?」

「精霊か」

「……っく、ふ、」

「……じゃあフェアリー?」

「ふっ、は、ははっ」


 くすくすと本格的に笑い始めたその人に、やっと現実の生身の人間なのだと思える。

 目の前で笑われ少しだけ極まりが悪くなって、麻耶は頭をポリポリ掻きながら告げた。


「あー、……すみません。あなたがあまりにも綺麗だったもので」

「いえいえ。ふふ、……さすがにこの年になって妖精だと言われるなんて思いませんでした」 

 

 一体いくつだ。

 まさかそんな不躾なことを訊くわけにもいかず、思わず沈黙していると、こちらの思考を読んだかのように、妖精とまごう人が答えてくれる。



「私、23歳です」

「ええっ!?」




 フェアリー、まさかの年上だった。



◇◇◇◇◇◇◇



 あちらに座りませんか、と誘われて、墓地に設けてあったベンチに二人並んで座った。


 

 現実離れしたこの佳人は、名をルカといった。

 装飾はないものの、明らかに上等な服を着た彼は恐らく貴族だろう。しかし自らをルカとだけ紹介して、家名を名乗らなかったことに、知られたくない理由でもあるのだろうと、麻耶は追及しなかった。

 合わせて麻耶も、マイヤーとだけ名乗る。


 


「マイヤーはここは、初めて?勤め始めて日が浅いのですか」

「ああ……っと、実はこの服は借り物で。俺は神殿騎士じゃないんです」

「騎士じゃない……」

「あ、その、だからって怪しい者だというわけではなく!そうではなくて」

 身分を明かしていいのかどうか、逡巡したが一瞬ためらって告げることにした。

「守護騎士です、と、思う」

「守護騎士?」

「あー……はい」


 言い切ることに、若干の躊躇を覚えるのはしょうがない。なんせ麻耶は転移はしたが守護騎士の証明たる『覚醒』とやらはしていないのだから。



「守護騎士……ではマイヤーは、守ることのできる人に選ばれたんですね」


 ふっと憂いを帯びた眼差しになり、ルカが僅かに顔をうつむける。

 ややあって、



「いいなあ」



 ぽつり、とルカから言葉がこぼれた。

 思わず彼を凝視する。

 麻耶は己の正体を告げたことで、聖女や守護騎士のことなどを詳しく聞かれるのかと思っていた。それを追及されると困ると身構えていたのだが、聞こえてきた言葉は、全くの予想外で驚いてしまう。

「ええっと……、」



 

「……うらやましいです。とても」



 また、ぽつん、と呟きが落ちた。

 何も返せぬまま、ルカの言葉をじっと待つ。




「マイヤーがうらやましい。私は病弱で……役立たずだから」

「なっ、そんなこと、」

「ほら、みてくれも、『こんな』でしょう?」



 自嘲するような響きだった。

 ルカは相変わらず笑みは浮かべているものの、その微笑には陰りしか読み取れない。



「『こんな』だなんて」

「こんな、ですよ。強さなんて、欠片もない。弱くって病気ばっかりして。……だれも守れず、こうして生きているだけ」

「……なぜそんなことを」



 なぜ、そんなことを言うんだ。

 なぜ、そんな風に言うんだ。

 なぜ、そんなにも哀しそうなんだ。

 



 ルカは麻耶の問いかけに応えなかった。

 ただ綺麗な顔を悲痛に曇らせ、視線を遠くに投げる。

 その眼の先を追い、あっ、と麻耶は気づいた。

 ああ、視線の先にあるものは。




 ――守れなかったんだ。


 この人は、きっと守れなかった。



「私は、守りたかった」


 その言葉に、確信する。

 ここは墓地だ。

 彼が今、どの墓を見ているのかまでは流石に分からないが、ルカの思いの先は、きっとそこにある。

 ルカは膝の上で、ぎゅっと手を固く握りしめた。 

 何かを耐えるようなその仕種に、かける言葉を失う。事情を何も知らない自分に、気の利いた慰めなど思いつかなかった。

 結局、何も言えず、麻耶は沈黙を守った。


「だから、マイヤーがうらやましい。私は役立たずな自分が、情けない。……ごめんなさい。急にこんなこと言い出して」

 ルカが、ぎこちなく笑う。その無理矢理作った笑顔に、麻耶の胸が掻き毟られるような気持ちになった。

 何が守護騎士かと思う。

 目の前の、ルカの笑顔すら、守れてないじゃないか。

 はがゆくて、はがゆくて、この綺麗な人の哀しい笑い顔をこれ以上見ていられなくなって、麻耶は言った。

「何があったのか、俺にはわからないが、」

 ルカの硬く握られた拳に、手を添える。込めすぎた力を、解すように。



「あなたは十分、守っていると思う」

「……えっ」

「今日、ここにあなたは来た。たぶん、俺の勘違いじゃなければ、ここに眠っている人のために」

「――ええ」

「ならば、ちゃんと守っている。その人との思い出や、その人への想いをルカはこうして守っているじゃないか」


 失ってしまった人は、帰って来ない。

 けれど、生者はその人を覚えていることはできる。

 そして残された者が、その人を覚えている限り、その人はまだいなくなっていない。

 亡くなったまま思い出すこともなくなったとき、覚えている人がこの世に誰も居なくなったとき、人はもう一度『死ぬ』のだ。今度こそ本当に、どこにも居なくなってしまう。



「ルカは、その人のこと、まだ覚えているだろう」

「もちろん――もちろんです」

「覚えていると言うことは、大切な人との思い出を、大事に胸の中で守っているってことだ。それはその人を知る、ルカにしかできないことなんじゃないのか」

「私にしか、できないこと……」



 陳腐だと言わば言え。

 きっと思いを風化させる方が、人は傷つかない。忘却した方が、はるかに楽なのだ。

 けれど、どうしても忘れられないというのなら。

 自分は覚えていることで「存在を守っている」のだと捉えた方が、前向きだ。


「思いを『守る』、それもまた強さだと思う」





 ルカが顔を上げて麻耶を見つめた。

 目が合った――と、みるみるうちに、水滴が盛り上がってきて。

 ルカの綺麗なペリドットの瞳から、ぽろぽろと雫が流れてくる。




 ――な、泣かせちゃった!?ルカ泣かせたよ、泣かせてどうするよ!!っつか、私、生意気だった?的外れなこと言った!?



「す、すまない!!その、ごめん!じ、事情も知らないで!悪かっ、」

「いいえ――いいえ、」


 ルカが首をゆるゆる振って謝罪を否定した。

 でも、泣いたのは明らかに麻耶の所為である。



「あのごめん、ほんっと、その」

「違う――マイヤー、ありがとう」

「えっ」

「あの人を忘れないで良いって。それがあの人を守っているって、そう言ってくれて」



 ほろりほろりと雫を流しながら、ルカは麻耶にありがとう、を繰り返す。



「みんな、腫物みたいに私をあつかっていて。でもそれは……そんなのは良いんだ。慣れているから。でも、いちばん、つらかったのは、忘れろって言われることだった」

 あの人を、思い出をもう忘れなきゃいけないと、そう言われるのが一番、悲しかった。

 そう、ルカは麻耶に告げ、しばらく涙を流し続けた。







「ルカ……、落ち着いた?」



 ん、と短く答えるが、ルカは顔を上げようとしない。

 あれから少しの間、泣いていたルカ。

 美人は泣いていても美人なんだなあ、と泣き顔にまで見惚れそうになりつつ見ていたことは内緒である。

 そして、感情が鎮まった今、ルカはと言うと。



「ルカ、こっち向いて」

「……やだ」



 泣きやんで我にでも返ったのか、猛烈に恥ずかしがっていた。


 ――イヤイヤ期か!!えっ、それはそれで可愛いですけども!!


 ルカは、くるりと背を向けたまま、麻耶を見ようとしない。

 後ろからのぞく耳が朱く染まっていて、それも可愛さに拍車をかけていた。


 ――男なのに、美人で綺麗で繊細な上に可愛いって、ナニソレ。


 武志相手にも「こいつ男なのに」と思うことはあったが、アレは中身がそうであって外見は完全に美少女だ。可愛くてもおかしくない。

 でもルカのは人外な気がする。

 自分の中身が元女子大……、もういい、今の麻耶はタッパ198㎝のマッチョだ。ここは可愛くてきれいなものを守るってことで良い。



「ルカさーん」

「……もう。マイヤー、あの、」

「うん?」

「あの……、忘れて欲しい」

「ああわかったわかった。ハイ忘れました」

「あんな、……泣いてしまうなんて」

「……あー、ナイテイマシタカ?オボエテイマセン」

「マイヤー、その……」

「何でしょうか、ルカさん」

「……ありがとう」


 ルカが麻耶をみて、微笑んだ。

 ――その顔、プライスレス!!

 美人は特だ。微笑み一つがお礼になる。


「ナンノコトヤラ」


 麻耶の返事に、ルカがきょとん、とした後、満面の笑顔になった。

「ふふふ。それでも、」

 ありがとう、と感謝されて、麻耶も笑って目を細めた。








 木立を暫く引き返す方向に向かうと、来たときには気づかなかった分かれ道に当たった。

「じゃあ、私はこっちだから」

 ルカが麻耶を見上げて告げる。

「ああ、じゃあ」

「マイヤーは、この道を真っ直ぐ行ったら良いですよ」

「わかった」

 道に迷わないように、と指された方角に麻耶は足を向けた。

「あ、それから」

 歩き始めた麻耶だったが、ルカの言葉に振り向く。

「守護騎士、なったばっかりって言ってましたよね」

「ああ」

「だったら、王都に行ったら、王宮で私の名前を出してみて」

「え?」

「武器が必要になったとき、私の名前、結構役に立つと思いますよ」

「それは、……いったい、」







 ざあっと風が吹き、白い花弁が舞う。




「ルカス・ハルス・デア=ウェイスシア――それが私の名前。マティウスとアレックスの兄です」






「えええええっ!?」 



 幻想のように美しい人は、その場を立ち去った。

 白く煌めく花のような笑顔を残して。

読んで下さってありがとうごさいます。

更新、昨日のうちにできませんでした……。

いつもいいねなど、ありがとうです。本当に感謝です。

応援して下されば、励みになります!

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