表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界行ってみたら弟が聖女!?  作者: 矢崎 エメ
16/50

旅の友人

 よいしょ、と麻耶は掛け声をかけると、かなり重い大道具を持ち上げた。それを倉庫代わりにしている天幕へ運び入れる。一座が昨夜の芸で使った道具類は多く、大掛かりなものを運ぶとなると骨が折れた。

 世話になっている一座へせめてもの礼として、麻耶は率先して雑用をこなすことにしている。こういう一行での男手は、結構、重宝されるのだ。麻耶も入って早速、あてにされていた。



 あの夜、道中のど真ん中、途方に暮れていた麻耶たちを拾ったのは、旅芸人たちの一団だった。しかも運の良いことに、出会ったのは良心的な人々で。特に人の良い団長は子供連れの麻耶たちを見過ごせなかったらしい。巨大な一角狼を連れた半裸の男に衰弱した子供という、怪しさ極まりない一行だったにもかかわらず、麻耶たちを受け入れてくれ、身体の弱ったコーラカルをも手厚くもてなしてくれた。

 さらに幸運なことに、シリブローについても、すんなり話が通った。この一座にも赤色熊やら白色ライオンやらミニ象などといった一風変わった動物がいたためだ。

 最初コーラカルは見知らぬ人々に怯え、姿を見せることを極端に怖がった。どんなに麻耶が促しても、大きな身体の陰に隠れて出ようとしなかったのだ。しかし団長の

「茶色の肌だァ?んじゃあ親がプルーシャの出だな。ウチにも一人いる」

という、あっけらかんとした言葉にはかなり驚いたようで。その後、しがみ付いていた麻耶の背後からおずおずと顔を出してからは、あっというまに人に囲まれ、あれやこれやと世話を焼いて貰うことができたのだった。

 実際、次の日にはコーラカルと同じ褐色の肌をしたプルーシャ出身だという男にも会った。彼曰く、褐色の肌に枯葉色の髪は、北の灼熱の国(プルーシャ)あたりでは珍しくもなんともないそうで、逆にコーラカルの銀色の髪を珍しがられたほどだ。そのコーラカルの髪の色も、この一座で湯を使い、初めて知れたことだった。

 迎え入れられた天幕の中、麻耶が団長に向かってコーラカルが村で受けていた仕打ちを告げると、彼はひどく同情してくれた。

「あんなど田舎じゃァ、しょうがあんめぇが……難儀なことだったなぁ」

 そういって、コーラカルの汚れたままの手を躊躇うことなく握ってねぎらった団長。

 子供は目を丸くしてしばし固まっていたが、すぐに泣きそうに顔を歪めた。きっと人の手の暖かさなんて、コーラカルは期待していなかったに違いない。このとき麻耶は心底、この子をあんな村から連れ出して良かったと思った。

 

 





「ねえ、マイヤーさん、団長が呼んでるよぅ」


 一座の花、歌姫のアンジーが色っぽくウィンクをして麻耶に近寄ってきた。

「おう、すぐ行く」

 抱えていた道具を丁寧におろし、天幕を出ようとすると、通り過ぎざま歌姫に袖を掴まれる。

「あら連れないねぇ。こんなところにあたいと二人きりだってのに」

 とっとと行っちまうなんて、と悩ましげな身体を摺り寄せられて思わずのけぞった。

「うぉ、」

 ――なになになになに、ちかいちかいちかいちかい!

 そんな豊満な胸を!近づけられても!!

 中身元・女子大生だった麻耶にとっては目の毒どころか気の毒でしかない訳で。

 思いっきりたじろぐ麻耶を見て可笑しそうにアンジーがくすくす笑う。

「かわいいわねえ。守護騎士なんて大層なものなんかじゃなかったら、あたいのものにしたってのに」

 ああ、喰っちまいたいわぁ、そうだつまみ食いなんてどうお?――そういって色気満々に迫ってくる迫力美女から何とか身をかわす。

「だ、だだ団長が、呼んでるんだって?」

「そうそう。さっき早馬に繋ぎを付けられたみたいだから、そのことじゃなぁい?」

「じゃ、じゃあ、早く行かないと!」

 では!と慌てて遠ざかろうとする麻耶の背後で、笑い声が上がった。

 どうやら盛大に揶揄からかわれたらしい。

「まったく、アンジーさん、人が悪すぎるよ」

 ぼやいて麻耶は団長の待つ天幕へと急ぐ。



 男性歴(=男性としての経験)がほぼない麻耶は、騎士でイケメンマッチョな自分がこの世界の女性からどんな目で見られているかなんて、てんで分かっていなかった。

 

 








 天幕に入ると、団長と、向かい合わせにはコーラカルが座っていた。

「マイヤーさん!」

 コーラカルは振り返って麻耶を見るなり、嬉しそうに顔をほころばせる。手に握られた菓子らしきものは、多分、この一座の世話好きな誰かから貰ったのだろう。

 団長に勧められて隣に腰を下ろす麻耶に、

「これ、もらった」

 案の定、子供が早速そう告げてきた。

 それに「良かったな」と麻耶は笑い返して、ゆっくりとした動作で手をあげる。それを見やすいように正面からコーラカルの方へと伸ばすと、子供は怯えずその手を受けた。

 そのまま麻耶が、わしゃわしゃ、と頭を撫でるとコーラカルの笑みが深まる。

 えへへ、と笑う子供が、麻耶は可愛くて仕方がない。

 ――本当に、良かった。

 良かったと、何度も思う。

 子供らしさを失い切る前に、そして命の灯が消える前に、コーラカルと出会えて良かった。今はこうして笑顔を見ることだってできる。

 麻耶がしばし子供の様子を堪能していると、団長から声が掛かった。

「コーラカルはここの人気者にんきもんになっちまったなぁ。どうだボウズ、このままウチの子になるかい?」

「えっ!?」

びっくりした顔のあと、ぶんぶん、と思い切り頭を振って拒否するコーラカルに団長はハハハと大笑いする。

「なんだい、これまた随分あっさりと振られちまったもんだ。マイヤー殿、この子といいシリブローといい、あんたそうとう懐かれてんなあ」

「……そうかな」

「ああそうさ。やっぱり守護騎士サマってぇのはどっか違うんだろなあ。なんたってホラ、あるんだろ、『加護』ってのが」

「ああ、まあ、な」


 ――いやまさか『加護チート』にテイマー系はさすがにないと思うけど。


 内心突っ込みながら、誤魔化し笑いでお茶を濁すと、麻耶は話を聞かせて欲しいと団長に頼んだ。



「早馬に伝手が叶ったとか……」

「そうそう。道中じゃあ連絡も何も飛ばせなかったが、街に着いたからな。さっき早馬、見っけて、ちゃあんとマイヤー殿のことを神殿に伝えるようにって。伝言と手紙を頼んだよ。昨日は着いたばっかだし興業を打つってぇんでバタバタしててな。すぐに動けなくって悪かったよ」

「いえ、こちらこそ。こんなお荷物を抱えさせて。その上、神殿まで連れて行ってもらうことになって……」

「良いってことよ。『守護騎士』サマに出会うなんざ、一生のうち滅多にねえこった。いい思い出になるってもんだ。それに興業もなんやかんやで手伝ってもらってるし」

「そんな大したもんじゃあ」

「いーやマイヤー殿のナイフ投げにゃあ、驚いたよ。どっからでも百発百中なんて、いやあ、てぇしたもんだ」

「いやいや……」

「それに、シリブローがまた客受けが良い!『幻の一角狼(あらわ)る』ってね。おかげさんで今度の興業、評判も上々でさァ」

「あー……」

「絶滅したと思われていた、あの『一角狼』がここに!って、それだけでも客が引けるってのに、シリブロー、まさかの芸達者だもんなァ」

「……あー、」

 麻耶の脳裏に昨夜、言われるがまま飛んでみたり跳ねてみせたり、一周をぐるぐる走ってみせたシリブローの姿が浮かんだ。人語を解するほど頭が良いというのも考え物だ。

 場所によっては女神の使いとまで言われて崇拝されることもあるらしい一角狼だそうだが、ああなれば形無しである。

 




「というわけで、マイヤー殿!今日こそ是非!シリブローの火の輪くぐりを!!」

「やめたげて」





◇◇◇◇◇◇◇ 






「アレックス!ね、兄ちゃんが見つかったって本当!?」




 アレックスは部屋に入るなり、駆け寄ってきたイーシャに腕を掴まれた。

「ええ。今朝、連絡が早馬で神殿に届いて。その報告に、とここへ来たのですが……。もうご存知でしたか」

 しがみ付かれていた腕をそっと外し、少女に向き直る。

「エミリから聞いたんだ!なんかオ、私の守護騎士が見つかったって!でもそれって、兄ちゃんのことだよね?」

「イーシャ様……」

 期待で瞳をキラキラと輝かせているイーシャが、目を奪われるほど愛らしい。

 あれからずっと兄の安否に気をもんで、表情を曇らせていたイーシャ。

 もう一人の聖女候補と違い、アレックスがどんな豪華なドレスを贈っても高価な宝石を渡しても、イーシャの顔は晴れなかった。

 あの男が生きていて、無事にここへ向かっていることが知れて、本当に良かったと思う。神殿に着くまでには早くとも数日かかるらしいので、その間、アレックスは精一杯イーシャに尽くそうと決めた。それにその数日で、少しでも信頼関係が深まれば、神官長からの発表に備えることもできる。


「それで、早馬ではなんて?」

「それが……、」


 アレックスは少しだけ言いよどんだ。

 手紙の内容はともかくとして、伝わってきたことの全てを告げるべきか否か、一瞬迷ったのだ。

「『それが』……?」

 だがすぐに心配そうな顔つきになったイーシャを見て、安心させるように微笑む。

「いえ、なんでもありません。手紙によると、見つかったのはマイヤー殿で間違いないようです。名前も一致していますし。ただ……何故か今、ここから数日離れた町に、旅芸人と一緒に滞在しているそうで……」

「えっ?またなんで……、」

「村から出たとき、知り合ったのだろう、とは思いますが」

「数日離れたところって……どんだけ方向音痴なんだよ、ねえちゃ、んん、にいちゃんってば……」

「しかも一人ではないようで」

「へ?」

「子供と狼を連れているとのことです」

「こどもとおおかみ」

「ええ。それが噂で『一匹狼、子連れ騎士』となって伝わっており……」

「……、だ、ダサい。いやそうじゃなくて。子連れ騎士、て」

いつの間に子持ちに……、とぶつぶつ呟くイーシャ。



「それに最近では」

「まだあった!」

「ナイフ投げ、空中ブランコ、火の輪くぐりなど多彩な曲芸も披露しているとのことで……」







「ホントあの人何やってんの!」


 


 涙目で叫んだイーシャを宥めるために、アレックスは、どさくさまぎれに抱きしめた。


 ちょっと役得だと思った。 

読んで下さってありがとうございます。

ブックマーク、ポイント、イイね、など本当に感謝です!!

ちょびっとずつ増えるだけで小躍りするほど嬉しいです。

読んでくれる人がいるって、もう本当にありがたい……(泣)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ