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異世界行ってみたら弟が聖女!?  作者: 矢崎 エメ
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聖女の思惑


「こちらでお待ちくださいませ、マリナ様」


 

 マティウスに呼ばれたから来たと言うのに、部屋に着いても彼はいなかった。すぐに会えると思っていた真里菜は、少しばかり不機嫌になる。

 恐縮した様子のメイドに勧められてソファーに座ると、真里菜はお茶を頼んだ。

「……で?私はいつまで待てばいいの?」

「すぐにいらっしゃる、とのことでした」

 おそるおそるテーブルにお茶を置きながらメイドが答える。彼女は真里菜が気分を害したことを逸早く感じ取ったのだろう。ひどく畏まった態度だった。

 仕え始めてまだ数日も経っていないが、このメイドは真里菜の顔色を読むのが上手い。万事控えめに振る舞う彼女は、真里菜の好みにも合った。

 ――『聖女様あたし』のお気に入りにしてあげても良いかも。

「ねぇ、マティウス様のご用事ってなにかしら」

 真里菜は気取った仕種でカップを持ち上げた。この『美しい聖女』という真里菜の新しい本当の姿には、こうした所作が良く似合うのだ。こころもち、ゆっくり目に手を動かすと、とても優美に見えるのをもう真里菜は知っている。

「さあ、私どもには……。けれども、先ほど王都から王室御用達の商家の馬車が来ていたようですよ」

「まあ!」

 王室御用達の商家、と聞いて真里菜は目を輝かせた。

 神殿には不似合いなそれはしかし、真里菜が到着した翌日から連日のように、ここに通っている。

「きっと殿下は今日も聖女様への贈り物を選んでいらっしゃるのでは……」

「そうかしら!だったら嬉しいんだけど」

 うふふ、と頬を染めて笑う真里菜は、とても愛くるしい。だれもかれも、王子様だってその姿を一目見れば、愛さずにはいられないように思える。

 そのことも、とうに真里菜は自覚済みだ。




「ご機嫌はいかがですか、我が愛しの聖女様」

「マティウス様!」

 

 マティウスの姿に、真里菜の声が弾む。

 ぱああ、と花が咲き誇るように、心からの笑顔がこぼれた。

「待たせたかな」

「いえ!そんなに待っていませんわ!気にしないで下さいませ」

 先ほど居ないと分かった瞬間に低下した機嫌など、まるでなかったかのように真里菜は振る舞う。笑い返してマティウスは、真里菜の隣に並んで座った。

「今日もあなたにお似合いのものを探していたんだ。聖女様に相応しいものを用意しなくてはならないからな。だがこんな田舎じゃあな。王都から呼び寄せて見繕ってはいるんだが、……おい、持って来い」

 マティウスの命令に、控えていた従僕が背後に合図を送る。すぐに、高価そうな箱を両手で恭しく抱えた付き人が3人、部屋に入ってきた。

「これだが……どうだろうか」

 ソファーの前のテーブルに広げられたのは、豪華な宝石たち。

 ダイアモンド、サファイア、ルビー、エメラルド……真里菜が知る限りの宝石が並ぶ。多分中には、「あっちの世界」で平凡な女子高校生だった真里菜には見当もつかないような宝石だって含まれているはず。

「わあ……、とってもすてき!」

 指輪、ネックレス、髪飾り、ブローチ、ティアラまで。豪華だが、下品ではない。聖女に相応しく、華やかであっても、繊細なデザインだ。

「これなんか、すごくかわいいわ!」

 指差した紅い薔薇の髪飾りを、マティウスがすかさず手に取って真里菜の髪に当てる。

「良く似合っている。……俺がつけても?」

 はい、と恥らって頬を染め、俯いた真里菜にマティウスが寄り添った。銀髪につけた薔薇の飾りは、少女にとても似合っていた。窓越しの朝日を浴びて、髪も宝石もきらきらと煌めく。

「どう、かしら?」

 真里菜は、無邪気に微笑んで見せる。

 案の定、異世界の王子は聖女の姿に、ホウ、とため息をつき、うっとりと目を細めた。

「とても……美しい。その薔薇はマリナのために咲いたかのようだ」

「まあ」

 己がいかに可憐かを知り尽くしている真里菜にとって、王子様とのこうしたやりとりは楽しくって仕方がなかった。

 ――この薔薇のって本物のルビーよね?キラキラ光ってるのはダイヤだろうし……こんなこと、ここに来るまで考えられなかった。ドレスも宝石も最高!マティウスはすっごくかっこいいし、王子様だっていうのに、あたしにめっちゃ優しいし。異世界ここに来てよかった!ほんと大正解だったわ。

 上機嫌の真里菜から作り笑いではない笑みが終始浮かべられていて、それをマティウスも、仕えている者たちも、みなが微笑ましげに見守った。

 並べられた宝飾品を前に、真里菜は嬉々としてあれこれ品定めをする。しばらく浮かれて試し付けをしていると、ふいにマティウスが話を切り出してきた。


「例の、もう一人の『聖女』のことなんだが……」


 改まった口調で言われた言葉に、真里菜は急に冷たい水を掛けられたような気分になる。

「……何ですか?」

「今朝早く、伝令が届いた。どうやらあちらの方も、守護騎士が無事『覚醒』したということだ。だが……それが旅の巡業の一座の者らしくてな。この神殿に来るまで、もうしばらくかかるのだそうだ。といっても、もう2、3日といったところだろうが……全く迷惑なことだ」

「まあ。それでは、あちらの聖女様の騎士は、平民のご出身なんですか?」

「そうだろうな。子連れだとも聞くし、我々のライル卿とは大違いだ」

 ライル卿とは真里菜の守護騎士として覚醒したライル・バーナードのことだ。

 もともと彼は神殿騎士としてこの中央大神殿に配属された左軍出身の軍人だったという。またバーナード子爵というれっきとした貴族の由緒正しい家柄の次男でもある。信仰心も篤く、その上、彼は神殿騎士たる証のセクリスも微弱ながら持ち合わせていた。

 まさにエリート中のエリートと言って良い。

 そんな彼が、真里菜が召喚された直後に守護騎士として『覚醒』したのだ。むろん、マティウスはこの吉報を喜んだ。

 また真里菜もライルをかなり気に入っていた。

 見た目も出自も良い彼が、目覚めてすぐの己の前に傅き、騎士の礼をとったとき、真里菜の自尊心は大いにくすぐられたものである。


「マリナの聖女としての力が強いのは、彼がマリナの守護騎士となったことからもはっきりしている。だれが考えたって『本物』がどちらかは比べるべくもないだろうに……」

 

忌々しいことだ、と苦い口調で言うマティウスに、真里菜は窘めるかのように曖昧に微笑み、首をかしげて見せた。

「ええ、ですが……私たちは待たなくてはならないのでしょう?」

「ああ、神官長からの二人の聖女への説明は、二組揃った後に神殿で同時に行われる、と言われたからな」

「はい、私もそう聞きました」

 神妙そうにふるまいながら、真里菜は新たに得た相手方の守護騎士に、ひそかに優越感を覚えていた。

 ――子持ちの守護騎士だって!ぜんっぜん大したことないじゃん!しかも旅の巡業の一座出身だなんて。ぜったい裕福じゃないだろうし、平民でも下の方ってことよね。



「陛下への公式な謁見もその後の聖女降臨の披露宴も二人揃って行うことになっている。無能なあちら側の都合で、宴の準備も進まず、この神殿に留め置かれようとは。返す返すも癪に障ることだ。俺も早く王都の宮殿へマリナを連れていきたいんだが……」

「仕方ありませんわ」

 物わかりのいいふりをして、真里菜は謙虚に頷く。

 内心では、あちらのせいで王宮へ行けず、こんな退屈な神殿なんかに閉じ込められていることに面白くない気持ちが抑えられずとも、外面ではそれをおくびにも出さない。

 それくらいの計算、真里菜だってできるのだ。



「……それより、これ、マティウス様につけて貰ってもいいですか」



 鮮やかなエメラルドのイヤリング。

 それが己の瞳の色と同じであることにマティウスは気づき、嬉しそうに顔をほころばせる。


「もちろんだ!……ああ、よく似合うよ、マリナ」


 自分の色を身に付けて可憐に笑う聖女が、王子の瞳にどう映っているかなんて。

 分かり切って、いっそ可笑しくなるほどだ。



 ――これが乙女ゲームなら、あたし超楽勝じゃん。めっちゃイージーモードな攻略相手だわ。


 

 メイドが淹れ直した紅茶を満足そうに飲みながら、マティウスと談笑する真里菜の頭には、先ほどバカにした子持ちの騎士のことなんて、もう欠片も残っていなかった。





◇◇◇◇◇◇◇


 一方、そのころ。

 『旅の巡業一座』の『貧乏』な『平民出身』の『子持ち』騎士は。



「おい、いくらなんでもシリブローに火の輪くぐりはできねぇと思うぞ……」

「マイヤー殿!そこをなんとか!!」




 

 サーカスで荒稼ぎしていた。 

は、反応があった―!誰かが読んでくれてるー!(喜)

と前回盛り上がりました。

読んで下さって、ありがとうございます。

イイネ機能が追加されたことにやっと気付きました。

引き続き、更新がんばります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ものすごく好みにドストライクの設定で、見つけた瞬間ヤッター!と喜ばせていただきました。 大好きです。 更新されるたびにこの先どうなるのかドキドキしながら読ませていただいています。 ここ数日は…
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