アリアの見るもの
「ねぇ、お父さん今日はどこにいくの?」
幼い私がお父さんとお母さんとピクニックへ出かけた時の思い出
この草原は広く、私の住んでいる村が小さく見える。
あの丘を登れば湖のある森が見えてくる。
「今日はね、海竜湖だよ」
私の前を歩く、二本の釣り竿を持つ父が振りかえり答えてくれる。
「海竜湖?」
首を傾げる私に母が教えてくれる。
「あら、アリアは知らないのね」
後ろをバスケットを持った母が優しい笑みを浮かべる。
「よし、お父さんんが教えてあげよう」
父はしゃがみ私を肩車する。
視界が高くなり湖が見える。
「昔、ここには大きな人間達の国があって、そこには、すごく大きな優しい竜が人間たちのお願いを聞いていたんだよ。」
「でもね、ある時、狡賢い人間の願いを聞いてしまって、国は滅んでしまったんの」
「優しい竜は泣いて泣いて、湖ができたんだよ」
父は得意げに語ってくれた。
「その話詳しく知りたい」
父は悩んでいるのか
「んーアリアが大きくなったらな」
「えーケチー」
湖につき父さんはさっそく竿をたらす。
母さんはシートを芝の上に敷いている。
「なんで、海竜湖?」
「なんでだっけ?」
父の表情が一気に固まり母を見る。
母はため息交じりに続きを話してくれる。
「さっきのお話の竜はね、それでも人間が好きで、生き残った人々を時々見に来ていたの」
「やがて、大きな災厄がここを襲ってきた時も生き残った人間を、竜がこの湖から海に、新しい世界に逃がしたの」
「その竜は今でも生き残りの人間がいないか時々見に来ていると言われているわ」
「流石お母さん」
父よ、得意げに頷いていないで、あなたは話しの半分しか話せていないわ。
「さぁ、今日は大物を釣るぞー、クジラ釣っちゃうよ!」
「お父さんクジラは湖にいないよ?」
また得意げな父の顔
「母さんの話を聞いていなかったのか?ここでは時々、海の魚も釣れるらしいぞ!」
「お父さん、クジラの尻尾は縦だから魚じゃないよー」
また笑顔が固まっている。
「しかもクジラなんか釣り上げられないじゃない」
「あら、大丈夫よアリア、お父さんは世界一の魔剣使いだものね?」
父は腰から柄だけの刀を抜く水が集まり刀身となる。
「父さんが全部倒してやるからな」
刀を掲げ自信満々に宣言する。
「さすが、あなた」
自信満々な父に目を輝かす母
お父さん?お母さん!?
「あなた!竿!引いてるわよ」
母に言われて父は必死になって竿を取り、引く。
「これは大きな」
お父さんが力を込め、引き上げる。
「釣れたぞー」
クジラではないけれど大きな立派な魚。
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「なんでお母さん泣いてるの?」
母は机で泣いている、机には手紙と父の柄の魔剣
母は私に振り返り、私を抱きしめる。
「痛いよ、お母さん」
「お母さんがアリアを守るからね」
そうだ、父が死んだ。
人間に騙され殺され、召喚石になった。
召喚石は奪われ、人間は、この事で私たちが召喚獣であるという疑いを確信に変えた。
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「アリア逃げなさい」
母が私の手に、何か持たしてくれる。
「これ、お母さんの大事なペンダントだよ。」
父から貰ったというひし形の青い石のペンダント
「いいの、お父さんが必ず守ってくれるから、逃げなさい。」
戸を激しく叩かれる、蹴破ろうとしているのだろうか・・
「お母さんも一緒に逃げようよ」
「ごめんね、もう逃げ場がないの、でもアリアだけなら」
母親の胸元が光る。
「お母さん!」
母の光が私に移り私の体が光り出す。
「これで、お父さんとみんなでいった海竜湖の近くにいけるから」
「嫌だ、お母さんも一緒に逃げようよ!」
乾いた音が響く、頬が痛い。
母に頬を叩かれたのだ痛い。
泣いているの再び涙が込み上げてくる。
母を見ると母も泣いている。
「お母さん」
母は私を抱きしめ泣いている。
「ごめんね、ごめんね、お母さんはアリアのこと大好きだからね。」
音を立て戸が蹴破られる。
母は私を突き放す。
入って来たのは武装した人間の若い男達
「よっし、二匹もいるじゃないかラッキー」
「片方はガキかよ、まぁ母親は俺好みー」
男たちの下卑た目が私達を見る。
母に手を伸ばし、一人の卑劣な男が近寄る。
同時に男の腹は切断され真っ二つになり絶命した。
母は男たちに向き剣を構える。
水の刀身、父が使っていた柄の魔剣
「お前何しやがる!」
「魔剣持ちかよ!」
「あなた達の好きにはさせない」
壊れた戸からぞろぞろと男達が入ってくる。
「お母さん!」
光が強くなり私の体が、小さな一つの光の球になる。
母が、一度、私に目をやり、なにか口にしているが、もう聞こえない。
母の胸に男達の剣が刺さり、槍が刺さる。
母の肉体は光の粒子となり消え、召喚石と父の柄の魔剣が床に転がる。
(許さない、許さない人間!みんな殺してやる。)
夜盗だったのだろうか、その日小さな村が一つ消える。
許さない、絶対に殺してやる!
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「ここは?」
私の意識が覚醒する。
周囲は暗く、そこにいる私。
そうだ、確か艦長と言う人間と契約したのだ。
自分の身体は問題ない、艦長の回復薬が効いたのだろう。
しかし、その艦長は、今、気を失っている。
先ほど森を走っている時、周囲の状況が分かっていたのだが、今は自分の存在しか分からない。
しかし、あれだけ憎い人間となぜ・・・私は、契約したのだろうか・・・
確かに危ない状況だった。
私を襲ってきた数十人の男、下劣な考えか、力を求めた末かはわからない。
いや、恐らくその両方だろう。
男達は予想より強かった、半数を殺したところで、逃げるしか選択肢が無くなった。
そして逃げた先にいた男、艦長。
宙に浮く盾を見て、魔術師と思い込んだ。
本気の歌を、攻撃を、人間の弱点、頭上から打ち込んだ。
しかし、艦長の盾の方が一枚上手だった。
あの時、相打ちすらできず、死ぬ事が悔しかった。
でも海竜湖が見えた。
ここで人生、終わるのなら悪くないと思った。
湖に落ち沈んでいく中、艦長が私を追って湖に飛び込んで来たのが見えた。
必死に潜ってい来る、艦長を見て、そこで意識が消えたのだった。
気が付くと私の身体に治癒が施されている。
「------?」
また艦長がなにか言っている、何の呪文か分からない。
穢される訳にはいかない。
艦長と距離を取る、今なら使える。
「投擲陣」
現れた槍は、唯々一直線に飛び、いかなる障害も貫通する、私の魔導具。
「ごめんね、こんな使い手で」
使えて魔法はあと一回。
投擲陣は艦長に向かい飛ぶ。
しかし、また、あの盾。
最後の魔法で翼を散らし、男を殺そうとするが、これも無理
「なんなのあの盾」
男の横に狼が現れる。
「召喚?でも今召喚した?勝手に出てこなかった?」
男もなにか騒いでいる。
「男の意思ではない?」
隷属、使役魔法ではない?
隷属や使役魔法なら召喚獣に自由はない。
狼が走ってくる。
速い、狼は、私の羽の魔法を的確に避けている。
「しまっ・・」
直前に先に来た狼を認識して、腹を食いちぎられる覚悟をした。
しかし牙でなく体当たりだった。
私はうめき声をあげ吹き飛ばされる。
反動で動きの止まった狼は、私の魔法に直撃し、焼かれ、男の方へ吹き飛ばされている。
(なぜ?)
私の腹を食い破れたのに、そうしなかったの?
今食いついていたら私ごと爆発していたから?
分からない。
(でももう、身体に力が入らない)
(動け私の身体、まだ諦めたくない。)
(まだここで終わりたくない、動け私の身体)
意思に反して身体に力が入らない。
男の慌てたが声が聞こえて来る。
男は、あの狼を心配しているの?
人間が使い捨ての召喚獣を?・・・・
「・・・大丈夫か?」
男の言葉がわかる。
「ここどこ?」
男の目は父の様に、曇りがない。
綺麗な目
「家族だからな」
あぁ、どうせ、いつか誰かに捕まり隷属するなら、せめて、せめて。
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暗いが、あのワンちゃんの存在がわかる。
ワンちゃんがこちらに気付いたのか、すり寄ってり、鼻先を私の手に擦り付けてくる。
「どうしたの?外に出でたいの?」
ワンちゃんはクゥーンと鳴き、暗がりの先を見る。
ワンちゃんが振り返えり、鼻先で私を突っついてくる。
「私に出ろっていうの?」
ワンちゃんは尻尾を振っている。
同じ宿主だからか、分からないが、ワンちゃんの意識が分かる。
外に出ると、先ほどの空間より真っ暗だ。
先ほどの艦長の中にいた時は自分の手足が見えたが、今はそれすら見えない。
「本当に、自分の意思で外に出ることができるのね。」
私の知らない契約魔法。
ここは海竜湖の近く、過去の災厄の際に大地にできた傷跡
艦長は見えなくても、その存在は、すぐに分かる。
「大丈夫、息はあるはね」
肋骨二本、右腕一本折れている、内臓にもダメージがある。
「今の私の体力、魔力だと全快は無理ね、まず内臓と肋骨ね」
艦長の居所は大まかなに分かる。
契約の繋がりで分かるが、細かいところは、いまいち分からない。
手探りで探していると指先に、何かが触れた。
「これが、顔ね」
頭の位置を確認できた、周囲に危険はない。
「仕方がないな」
頭って意外と重たいのね。
私は艦長の頭を膝に乗せ回復を行う。
得意ではないけれど、今はそんなこと言っていられない。
あの喋る盾、ファランクスだっけ何処いったんだろう。