新しい任務
あの人を見つけるのは、そう難しいことではない。
俺は、いつもあの人がいる食堂を見渡す、やはり、あの人は、いつも同じ一番奥の窓側、その隅で背を向け一人で食事を取っている。
無駄にひろい食堂、本拠地と言うこともあり、サッカーコートぐらいあるんではないだろうか。
しかし直ぐに見つけることができる。白い教官のコートが印象的だが、
俺も体格は恵まれている方だが、あの人と並ぶと俺は貧弱に見える。
まさに巨漢 腕から見える筋肉、鍛え抜かれた肉体
もう40過ぎというのに、20代の俺は、訓練で一度も勝てたことない。
そして、いつもあの人と同じ大きさの黒いひし形板は、あの人に寄り添い浮いている。
旧型の防御、支援兵器、「人工知能の 機械の盾」既に10年以上前の旧型
新型はもっと性能が良いのだが、なぜか教官はその旧型を使用している。
旧型と言っても数十光年先の母艦とリンクでき、容量にもよるが、いくつのかの魔法を付与、使用できる。
俺はやっとあの人の前にたどり着く
「先生探しましたよ。」
「ん、晃か、なにか用か?俺はもう教官じゃないぞ」
教官と呼ばれた巨漢の男は、食事をとめ視線を俺に送る。
「そうでしたね、それより先生の次の任務先あんまりじゃないですか?」
俺より十は年上であるのに、この人は俺の文句を聞き、苦笑している。
「失礼ですけど、確かに過去、先生が見つけた、あの星のでの偉業は分かります。けど!また一人で新しい星見つけて来いって、何なんですか?」
意味不明すぎる、そんな、あいまいな命令はないだろう。
しかし、この人は、かつて未開の惑星を見つけ、そこで精霊と出会い、「召喚術」の技術を確立した。
それを機に科学は、召喚獣の契約や、その副産物の魔法など、多くを取り入れることができた。
今の人類が使う科学には「召喚術」が綿密に取り入れられている。
「まぁ、俺に期待してるんだろ。」
この人は・・・そんなこと思ってもいないだろうに。
いや、きっと上層部の考えも、お見通しなのだろう。
「先生、今回の任務をよく思わない人は多いですよ。」
俺たちが所属する組織は、地球のいくつのも国が作り上げた、組織だ。
地球がから飛来する侵略者からの防衛が主な任務だが、俺たちは、枯渇する資源に対し人口の増大、多くの問題により、移住可能な星の開拓が任務だ。
上層部は間違いなく教官が邪魔なのだ、召喚術を確立した第一人者、これは間違えない。
隠すことなく、無償でその技術を世界中に公開し移住可能な惑星を確保したのだ。
しかし、その惑星は惑星自身の意思が強く、認めた人しか惑星に受け入れない。
認められ人が惑星の座標に移動しても、その惑星は見つからないのだ。
他にも理由はあるのだろうが、上層部の考えは理解できない。
この人は分け隔てがなく、自分の力を誇示せず、私たち生徒の目線で話す良き教官であった。
「その辺はな、俺を邪魔に思う、上層部は・・」
「そうじゃなくて、私たち元生徒が先生の扱いに怒っているんです。」
この人は自分に向けられる敵意には敏感のクセに、自分に向く好意には全く無頓着だ。
今もそうなの?と驚いているぐらいなのだから、仕方がない。
「そうだ、先生にこれ差し上げますよ。」
俺は机の上に6つの直径10cmくらいの球を置く。
色は赤、緑、黄色・・・6つとも違う色だ。
「召喚石か、どうしたんだこれ?」
「研修先の星で見つけたものです。」
「晃は契約できたのか、大丈夫だったか?他の奴はどうだった?」
心配して俺の顔を伺う教官は、本当に俺達、元教え子を心配しているんだろう。
「俺達、先生最後の卒業生3組24名全員が召喚獣の本契約、仮契約に成功しました。」
「おめでとう!よかった、本当によかった」
本当に安心しているのだろう。
他のクラスでは、9割の生徒が仮契約すらできなかったというのだ。
「契約しても魔法が使えない俺が教えたから不安だったが、良かった。」
そんなことはない、教官の教えは素晴らしかった、この教官は認めないだろうが。
「しかし召喚石は貴重品だし、お前たち自身の契約が増えて強化になるだろう。」
召喚獣のとの契約は両者合意の上の本契約か、力で屈服させ召喚石にする二択。
召喚獣の知性が低い場合は前者が難しく後者になる。
契約には
「本契約」は契約が破棄できず、召喚獣と魂が融合するので、誰かに奪われる心配はないが、永遠の繋がりを意味し、人間一人に対し一体しか契約できないのが原則である。
「仮契約」は召喚石さえあれば、契約できる。しかし、召喚石が手元に残るので他人に奪われる危険性がある。
召喚石さえあれば、誰でも他人の仮契約を上書きして、新たに仮契約ができてしまうのだ。
「これは俺達からの気持ちです。この召喚石で仮契約すれば、教官も魔法が使えるようになるかもしれません。受け取ってください。」
「なにが入っているか、分かっているのか?」
俺は召喚石の説明をしていく。
「これがファイヤドレイク、これはワイバーン、これは雷・・・
説明の途中で先生が召喚石の一つを手に取る。
色は赤と茶色が混ざり、召喚石の所々が欠けている。
「これがいいな」
「それ、普通の狼ですよ、色も混ざってるし、欠けていますし」
動物が召喚石なることは稀なことだが魔獣などに比べればその力は劣る。
また単色の石の方が強く、当然欠けていない方が良いとされる。
しかし先生は俺の意見を無視して、手に取った石を眺めている。
「普通の狼ですから仮契約しても魔法が使えるか分かりませんよ。ってか他いらないんですか?」
召喚獣との契約は契約者に召喚獣のスキルの一つを共有できる利点が大きい。
共有されるスキルは契約完了まで全く不明。
例えば、ファイヤドレイクなら火の魔法が使えたり、その耐性を得たり、ドレイクの腕力、体力などを相性により、1つから複数のスキルを所得できる可能性がある。
「貴重なものなんだし、今後、また前線に出るだろうから、お前達自身の強化に使いなさい、俺より先に死なれては困る。」
「しかし」
この人は、何を言っても無駄だろう。
「って先生何してるんですか?!」
「え、うわ、なんだ?!」
先生が持っていた召喚石が光だし教官を包み込み、やがて収束していく。
「先生!大丈夫ですか!?ってなんでいきなり本契約してるんですか?!」
「俺もびっくりしてる・・・」
召喚石は消滅し先生と融合してしまった。
先生は自分の手を胸を当てて確認している。
「先生は本契約してましたよね?」
そう、この先生が人類初の契約者であり、すべての召喚獣の頂点と呼ばれる召喚獣
全ての「流れ」司るシルクの契約者だ
のちの先生とその召喚獣が召喚術の確立者した。
「・・だな、シルクは召喚できないし、スキルもなのもないけどな」
「いやいや、いつも一緒にいるじゃないですか!滅茶苦茶強いですし」
そう、先生の召喚獣は20代の女性の姿をし、先生の意志に関係なく「人」として存在し生活している。
傍から見ればイチャイチャしているしか見えない。
「普通、本契約は人間一人に対して一体ですよ。」
そういえばそうだ、何度か試そうとしている人もいるが未だに成功例がない。
顎に手を当てて考えていると、先生の後ろに浮いていた、機械の盾が先生の前に移動してきて、中央にある丸いレンズが赤く点滅し、アラートが鳴っている。
先生はアラートを止めるが、顔が引きつっている。
「やばい・・・・」
「俺は知りませんよ・・・」
「未確認ノ本契約ヲ確認・・・本契約ノ状態確認中・・本体へ連絡・・・」
機械の盾・・・ファランクスは無情にも淡々と事態を報告している。
「では、先生・・・俺は研修の報告などありますので、失礼いたしますね・・・次の調査も、がんばってくださいねー」
俺は逃げるように先生から去っていく。
「ちょ!まて!逃げるな、一緒いよう!晃ー」
すでに晃の姿はなく、周囲の人の目が痛い。
「っと」
走るのを俺はやめた、まさか人類初の二体目の本契約を見ることになるとは、でも・・・
やっぱり先生はあの召喚石を選びましたか、これも運命ですかね
頑張ってくださいね。
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宇宙空間に浮かぶ、移民船seed、その装甲の損傷をファランクスのシールドに包まれ元教官の俺は修復作業を行う。
「こんな、でかい船、俺一人で、できるわけねー」
シルクに呼び出され、いきなりの本契約を散々馬鹿にされた。
シルクは俺と10年連れ添う本契約の召喚獣なのだ。
本契約は魂レベルで融合する、故に一体しかできないのだ。
今回、二体と本契約した俺は死んだ際、魂は引き裂かれることになるのだろうか、分からない。
「普通は仮契約なんだろうしな」
しかし、契約してしまった、ものは仕方ない、死んだ時のことを今考えても分からないのだから。
そしてこれと言って新たなスキルを取得した形跡はない。
勝手に召喚獣を増やした罰として、今、このseedの装甲を修理中だ。
「これ直すのかよ・・・」
双三角錐4本でできている新型の超大型移民船seed、10万人程度なら問題なく永住できる環境がある。
中央の双三角錐が、一際大きく艦長室などの主要施設がここに存在している。
また、それを囲む回転式のリングには三つの小ぶりな双三角錐が繋がり、それぞれ役割を持っている。
双三角錐の底面には上下で一つずつドッグに分かれており6番ドッグまで存在する。
新型と聞くと聞こえはいいが、ようするにプロトタイプ、試作機なのだ。
資材場十分、装備も十分、人手はない。
この艦には艦長である元教官の俺に、俺の召喚獣シルクに、先日「晃」からもらった召喚獣の狼だけなのだ。
シルクは、この艦seedとの適正があり、シルクと、艦seedは繋がりを持つ。
このseed内のどこにいてもシルクには分かるし、ファランクスもseedと繋がりをもっている。
そもそも自己修復できるのに修理など、seedに搭載される整備ロボットで十分なのだ。
「俺が手作業で直しても効率悪いよな。」
ファランクスに寄りかかり、船体を磨いている。ファランクスがシールドを展開して俺と周囲の空間を包んでいるので生身で宇宙に出ても問題ない。
ファランクスは旧式だが、この新型のseedの主砲は数回は防げるし、溶岩や深海でも装着者を守ることができる。
「ぼやかないの、どうせ暇でしょ?」
突然目の前にモニターが現る。
長いストレートの銀髪、長い耳、顔は頬までしか見えない。
「なんだ、そっちも作業中なのか?顔映ってないよ?」
「こっちは結構忙しいのよ、なんか変なエネルギーを艦の近くに捕捉したんだけど・・・」
数多の召喚獣の中で第1位に君臨する人型
最高の召喚獣だが、何せこの性格、俺以外の言うことを絶対に聞かない。
いや俺の言うことも、ろくに聞かない。
俺は、ため息をつく、結局新しい任務に出たのはいいのだが、単純な作業ばかりで苦労する。
艦長として在籍しているが万年人手不足な、この組織、他のクルーはいないのだから仕方がない。
てかこの規模の船、人間俺だけかよ、寂しい・・・
「修理は順調なの?」
相変わらず顔の半分も映っていないが、話しはしたいらしい。
キーボードの操作音が聞こえる。
先日、出航直後ワープしたのだが、未知の小惑星帯でseedのシールドを展開する前に数十ヶ所、小惑星が衝突し船体が傷ついたのである。
「傷って言っても表面だろ、見た目の問題だろ?」
「私の艦だから見た目、超重要!超大切!!」
こんな星の海で誰が見ているんだろうか・・・
「なぁ俺って一応さ、偉業を遂げたんだよな?」
「んー?・・・そうね、かなりの事をしているわね。」
一瞬キーボードをたたく音が止まり、口元に人差し指を当てている。
シルクの考えるときのクセだ。
直ぐにキーボードの作業が再開するが、モニターにはまだ顔の一部しか映らない。
「召喚術の確立だから、歴史に名が残るんじゃない?」
「だったらさー、もっと楽させてー」
モニターからキーボードの操作音が再びとまった。
「例えば?」
「いや、仕事しないでのんびりと、暮らしたいじゃん?」
軽いため息が聞こえる。
「・・・どうやって食べていくのよ?」
「新天地で自給自足とか?、お前の星とか?」
のんびり暮らしたいじゃないか。
「本気?私はいいけど・・・仕事辞められるの?」
「だよねー、今のままで、いなくなったら大変だよねー」
軽いため息をつく、いろいろあるが、元教え子達が落ち着くまでは辞めるわけにはいかない。
「なら、新しい移住可能な惑星を見つけて、任務を終えるしかないわね」
「ですよねー」
結局のんびりはできないのか・・・
また作業がとまる。
「でも任務終わればさ、この艦貰って仲のいい人だけで私の星で暮らせばいいのよ」
「おお! そうかこの艦の設備なら苦労しないし、いいなそれ!」
このseedには、いろんな設備もある。
「よっし、となればさっさと直して、任務道理探しに行こう!」
おれは修復作業に力を入れる。
「・・・ちょろいわ」
モニターに映る艦長を見ながら、シルクの小さなため息が聞こえる。
「・ね・・て」
「ん?シルク何か言ったか?」
「なにも言ってないよ、とうとう頭までおかしくなったの?」
・・・この召喚獣は一言多い。
「やめてよね、こっちは、仕方なく、あなたと本契約したんだから、ぼけないでよ?」
えーそれどういうことでしょうか?
まぁオジサンだし、体格に恵まれたぐらいしか、取り柄がないしね。
「き・・えて・・おね・・けて」
確かに何か聞こえる。
シルクの文句も聞こえる。
そう思った・・・瞬間
「え?」
突然目の前が変わった。
ここどこだ?
先ほどまでいた星の海ではない。
足元には草が一面、周囲は森で囲まれている。
「・・・え、人生バグった?」
読んでいただき、ありがとうございます。