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お題シリーズ2

裏切られた鹿

作者: リィズ・ブランディシュカ



 四季豊かな、和の国。

 この国では謙虚に生きることが美徳と考えられている。


 人間どもは、間違いを正直に認め、実力者としてたたえられるときは謙遜する。


 それは、大勢の者達に囲まれる社会では、必須の能力であった。


 鹿の社会も同じ。


 まとまりを束ねる親分には頭を下げ、尻に惹かれている女房にも頭を下げ、優秀な友人は手放しでほめたたえる。


 それをできない鹿は鹿ではない。


 はぶられて、鹿社会で受けられるあたりまえのサービスすら、受けられなくなっててしまうのだ。


 だから俺も、今日は頭を下げて下げまくった。


 しかしそこに、ある日突然人間が表れた。


 人間は偉そうに俺たちを見下し、必死で生きている鹿社会に傲慢な態度で横入りしてきた。


 やつらは、繊細な鹿社会の序列のてっぺんに、新たに人間という立場をつけたしたのだ。


 何て神経の図太い奴らだ。


 奴らは、俺たちにやたらと頭を下げる行為を強要してくる。


 それを見て、手をたたいて喜んでいるのが憎たらしい。


 芸を仕込んだ気分で観賞でもしているのか。


 動物とて社会の厳しさは知っている。

 われらの誇りを、努力を、お前たちのお粗末な遊戯と、思いつきで貶すではない。


 だから最初、俺たちは人間の言いなりになるもんかと奮起した。


 人間どもを無視し、時には攻撃することもあった。


 しかし、災害や事故、環境の変化にともなって、鹿の数がへっていくのを見るや、すすんで人間に頭を下げる奴がでてきてしまったのだ。


 長い年月を経て、愛玩動物の一種として見られるようになった鹿は、そんな理由で今日も人間にこびへつらっていた。


 ああ、古き良き時代はもう見る影もない。


 俺は、鹿社会の裏切り者たちを見ながら、その地を後にすることにした。


 だが、ここ以外には楽して生きのびられる地はないだろう。


 なら見つかるまで、さすらい続けるのみ。


 あてのない旅を決意しながら、旅立つ俺は、わずか数秒にして絶句。


 通りを鋼鉄の乗り物が猛スピードで暴走し、あふれんばかりの人間が生き飼っている。


 少し歩いただけで、網を持った人間に追いかけまわされる始末。


 生きる場所すらとうとう選べなくなったのか。


 俺は、裏切り者たちのいる場所に戻されて、絶望した。


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