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突如として空から降ってきた男は、土煙の中で首を鳴らすと、ゆっくり辺りを見回す。
間違いない。あの男こそノーワンだ。
「演習場へ。目標目の前。装填でき次第、即撃ち込みなさい。」
メティスは即座に通信兵の持っていた受話器を取ると、早口に指示を飛ばす。その指示から数秒後、平原の砲台が一斉に火を噴いた。
しかし、ノーワンにあたる直前、放たれた砲弾は空中でピタリと静止した。
「なるほど……、これが…………。」
メティスが呟いた。
ノーワンは彰のいる丘を見上げると、おもむろに両手を広げる。同時に静止していた砲弾は平原の各砲台へと襲い掛かった。
メティスは平原の端にある新兵器、『魔動熱射砲』を見た。先ほどの射撃で唯一攻撃していなかったこの砲台だけは無傷で残っている。
「熱射砲は?」
メティスが尋ねると、通信兵は首を横に振った。
「装填がまだです! あれは連射できません!」
威力も射程も圧倒的な熱射砲だが、連射性能だけが無い。発射に必要な莫大な魔力の装填に時間がかかるのだ。
ノーワンは黙って彰を睨みつけると、深く踏み込んだ。
アクレスでも敵わなかった男だ。マテラス軍の、それもこの場にある戦力だけで勝てる相手ではない。そしてノーワンは、死なない限り彰を追い続けるだろう。
戦いは避けられない。
この世界を守るためには、この男を殺さなければならない。
「……来いよ。」
彰はそう呟いて剣を抜いた。
ノーワンは地面を強く蹴った。
大地に走る亀裂。猛烈な衝撃波を伴って、ノーワンの体は高く飛び上がる。
「ッう…………!」
同時に彰の体は強い力で宙へ放り出された。右手を伸ばすノーワンが目の前に迫る。
ここまでは想定済みだ。
確かに強力な再生力と破壊力。だが、その動きは素人。その動きは彰にも十分読める。
彰は空中でなんとか体勢を立て直し、剣を構える。
「……ッらぁ!」
目の前に迫る手を躱すと、彰はすれ違いざまにノーワンの体を深く斬り裂いた。演習場の曇り空に、赤い鮮血が舞った。
彰はそのまま地面を転がり落ちると、すぐに立ち上がって空を見上げた。
ノーワンは腹を抑えながら宙をフラフラと漂っている。だが、次第に滴る血は減っていき、その傷は瞬く間に塞がってしまった。
「おい。」
彰はノーワンへ剣を向けて呼びかけた。
「ヨハンさんから聞いた。お前、未来から来たんだってな。」
「……。」
「このまま未来に帰ってくれないか。」
「…………。」
「おい! 聞こえてんだろ! このまま未来に……」
「約束があるんだ。」
ノーワンは彰を見下ろして答えた。
「…………みんなを救わなくてはいけない。救えるのは俺だけだ。」
「そのために、この時代の人間は殺してもいいのか?」
「構わない。この世界の人類は第二世代だ。第三世代である俺たちには関係がない。」
「そうじゃねーだろ! お前自身のためだけに、どれだけの人間を……ッく!」
その言葉を遮るように、猛烈な衝撃波が辺りを襲った。彰は何とか踏みとどまると、剣を握りしめる。
「お前も分かっているはずだ。お前も殺したことがあるだろう? その手で、その剣で。」
荒れ狂う力の渦の中で、ノーワンは言う。
「理由は単純。生き残るためだ。生き残るために、相容れない相手は殺すしかない。お前もそうしたように、俺もそうする。それだけだ。」
ノーワンは彰へ手を伸ばす。
「頭の良い人類はどうも複雑にしたがるが、結局のところ、やっていることはほかの動物と変わらない。弱い者は死に、強い者が全てを奪っていく。これは、この時代の人類と、俺たちとの生存競争なんだ。」
「くッ……!」
彰は踏ん張りながらも何とか剣を構えると、目の前のノーワンへ突き出した。ノーワンはその剣を素手で受け止めると、彰の手から剣を奪い取って放り投げる。
その隙に彰は懐から拳銃を取り出すと、ノーワンの眉間へ向けて引き金を引いた。
この銃は火薬式。彰でも扱える。
一発の銃声と共に、巻き起こっていた衝撃波が止んだ。
「はぁ……、はぁ…………」
ノーワンの眉間に穴が空いている。その向こうに鉛色の雲が見えた。
彰の体は拳銃を構えたまま固まって動かない。拳銃を握りしめる両手がビリビリと痺れる。
ノーワンの再生は、おそらく何らかの魔法によるものだろう。魔法具の発動には魔力が要る。その魔力さえ絶ってしまえば、発動することは無い。
魔力を絶つ。すなわち死だ。
つまり、一瞬でも絶命させることができれば
「…………一瞬でも絶命させれば、再生は止まる。」
「……え?」
死んだはずのノーワンの口が動いた。眉間の穴が塞がっていく。
「そう考えたか。だが、残念ながらそうではない。俺はまだ死ねない。」
「おいおい……、マジかよ…………!」
彰は迷わず引き金を引いた。だが、ノーワンはその弾丸を掌で受け止める。
「俺にも背負うものがある。俺は英雄にならなくちゃいけないんだ。」
ノーワンは拳銃を弾くと、彰の腹を殴りつけた。
「来てもらうぞ。」
ノーワンは気を失った彰を抱えると、そのまま大地を蹴った。




