転生したと思ったら、悪役令嬢らしいです
会話文無しです。
私はミネルヴァ・オーキッド、7歳。侯爵家の長女で転生者です。
突然思い出した訳ではなく、ずっと夢として前世の記憶を見ていたから特に大きな混乱はありませんでした。もっと小さい頃は夢を見る為に寝てばかりいたから、身体が弱いのかと心配された事もあったけれど。
今は夢での前世追体験も終わり、丁度良く前世と今世の性格や考え方が混ざり合ったので、この世界について書庫に籠り本を読み漁っています。
……そんな中、新しい夢を見たのです。
それは乙女ゲームの夢。
子爵の庶子である女の子が平民から貴族へ引き取られ、学園に通い、王子様を含めた攻略対象5人と恋をしていく、凄くベーシックなゲーム。
一晩で攻略者のルート1本ずつを夢に見る。
ハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドを攻略対象者分全て……!!
なかなか辛かったが、起きると同時にメモを取り、全部纏める頃にはある意味攻略本が出来上がった。
しかし、わーいやった~! と簡単に喜べる話では無かった。
だって私が、第二王子の婚約者で悪役令嬢! 薄紫色の髪とアメジストの様な瞳で、中々の美少女だと思うけれども! 13~15歳までの貴族が通う学園に、入学して来たヒロインに色々やらかして卒業パーティで断罪、国外追放される系テンプレの悪役令嬢ってどういう事なの!!
ああ! 面倒臭い!!
幸い、第二王子の婚約者は未だ決まっておらず、私の婚約者も居ないし、性格も我儘でも傲慢でもない。ちょっと面倒臭がりな位だ。破滅回避の小説を参考に、私も回避する方向で行こうと思います!
……でも、腑に落ちない事がある。
この乙女ゲームの記憶……というか夢。
私は前世で、こんなゲームやっていない。
自分が望んで乙女ゲームの世界に来れるのなら、戦国時代か幕末でしょうが……!! 何で西洋系?! 何でお貴族様なんだ……!!
……そこはまあ置いておいて。
やった事も無いゲームの情報がこんなにも鮮明に夢で見るなんて、作為的な何かは感じます。よくある神様の悪戯的な。
『異分子を入れる事で、ぶっ壊したかったんだよね~』
……とか、そっち系の。まぁ、神託は受けてませんけど?
それならば……、乙女ゲームに個人的には参加したくないし、巻き込まれたくも無い。
特別な能力がある訳でもないし、独自の情報網も持ってない私では出来る事が限られるけれど、何とかしなくては。
……そんな事を考えていたら、1ヶ月後に王宮で茶会があると通知が来た。
きっと、第二王子の婚約者選びだ。
第一王子…王太子殿下は第二王子の3歳上の10歳で、8歳の立太子の時に婚約者を決められた。隣国の第二王女だ。
第二王子の婚約者はこの国から選ぶ事にしたようだが、今、公爵家には年頃の女児が居ない。
侯爵家から、私とイーディス・サルファー様、伯爵家から数名のお茶会になるらしい。言ってしまえば、私とイーディス様の一騎打ちだ。
ああ、面倒臭い…!
どうにか両親を説得し、婚約者にならなくても良いと言質を取った!
後は、茶会を乗り切れば第一段階クリアだろうか?
お茶会へはブスメイクをし、前世で言う所のゴスロリ系で、誰とも微妙に視線を合わせず、自分の興味のある事だけ気持ち小声の早口で捲し立て、絶妙に引かれてみせた…!オタク演技をやり切ったぜ!
まぁ? イーディス様には確実に見下され、格下扱いされたけれども…! 狙い通りだからいいんだもん。悔しくなんかないもん。
予想通り、婚約者はイーディス様に決まったから良しとしよう。
流石、攻略対象その1! の、赤髪金眼で美形のジョエル様と金髪赤茶眼のイーディス様はお似合いではないだろうか。……ちょっとイーディス様の顔はきつめで性格が悪そうではあるが。
とりあえず暫く茶会も無いし、安心して読書に没頭できるのは純粋に嬉しい。
あとは追々両親に相談し、ブスメイクを学園卒業まで続けさせてもらう。ゲーム期間が完全に終わるまでは安心出来ない。
学園内で爵位と容姿に左右されない婚姻相手を探したい、とでも言えば、きっと許してくれるだろう……多分。
社交界デビューはちゃんとした格好で出ないとダメだろうしな~。
それまでは色々自由にしたい。
そういえば、お茶会の時に攻略対象その2の公爵令息アイザック様から観察するような目を向けられていた気がする。
多分、見た事ない生き物を観察してたんだろうな…。客観的に考えれば同じ事する自信がある。近付きたくは無いけれど、何となく見ちゃう。……分かります。
流石にあそこまでの恰好はもうしないけれど、これからはちょっと地味目の本好き位で止めておく事にしよう。違う意味で有名人になると困るから……。
そんな事を考えていたら、新しい夢を見た。
ヒロインが学園に入学するまでの人生の追体験だ。
いやいや、何で?
え? 排除しろって事? じゃないとおかしいよね?
普通、『ヒロインが学園に入る前の情報が、殆ど無いから対策出来ないっ! どうしようっ!』って展開じゃない?
それとも同情して、『辛い人生だったのね…ヒロインは幸せにならないと!』って言わなきゃダメ?
でも、自分の破滅に繋がるかもしれない人の幸せって、祈れなくない?
自分と家族、身近な人が幸せであれば良いの。クズでごめんね~。
とりあえず、夢の通りであれば、ブロッサム子爵家現当主とメイドの間に生まれたのがヒロインのフィオナ。
子爵の正妻は伯爵家の出身で、嫉妬深くヒステリー。夫の事を愛しているが、残念ながら夫はヒステリー持ちで、伯爵家のお金目当ての父に政略結婚させられた妻を愛していない。
フィオナの母は、妊娠が分かるとすぐにメイドを辞め、姿を消す。
正妻の手前、囲う事も出来ず子爵は居場所だけ把握する。
その後、フィオナが12歳の時に子爵夫人が流行病で死亡。
子爵はすぐに母娘を迎えに行き、母を後妻とし、貴族となったフィオナは持ち前の明るさで、子爵家にも味方を増やしていく。
平民意識が抜けず、貴族のマナーが上手く身に付かない中、13歳で学園へ入学。
入学後は前に見た夢で大体は分かっている。
所謂テンプレ満載の感じです。察して下さい。
……今、確認すべき事は?
追体験の中、この年齢の時には、母娘でパン屋に住み込みで働いていた。フィオナは勿論看板娘。流石ヒロイン! という可愛さで周りから可愛がられていた。
パン屋の確認だな。
自分で行って確認したいけれど、今は勝手に下町とか出歩けない。こんな時、侯爵令嬢というか、お貴族様って面倒臭いと思う。
誰かに頼んで行ってもらうしか無いよね~。
侍女に頼もうかと思ったけれど、詮索されても面倒だし庭師見習いの子を捕まえてお願いした。基本の何種類かと、もし珍しいパンが売ってたら買ってきて、と。
無事買ってきてもらい、確認すると前世で見た事のある所謂総菜パンがあった。聞いてみると、やはり惣菜パンはここの店の看板娘の発案で最近売り出したらしい。
店の様子や店員を確認すると、案の定フィオナは居た。
薄桃色の髪と翠眼で、表情のくるくる変わる可愛い子だった…と、思い出しながら庭師見習いがぽーっとしている。流石ヒロイン。
袋からパンを数個取り、残りは皆で分けてと言うと喜んで戻っていった。
多分、フィオナは転生者なのだろう。
だとすると、シナリオ通りに動こうとする可能性が捨てきれない。
勿論、私と同じでシナリオから外れたいと思っているかもしれないが、そこを確認しに行くのはリスクが高すぎる。嘘を吐かれる場合だってある。
だから、いくら自分が王子の婚約者でなかったり、嫌がらせをしなかったとしても、補正が働いて断罪されるかもしれない。
違うと言っても信用されないとか、そんなの嫌だ。
……今の自分に何かをする権力も何も無い。
でも、何もせず怯えて過ごすのはもっと嫌だ。
子爵夫人に、匿名で手紙を出してみようかなぁ…。
信じるか信じないかは子爵夫人になるから、かなり他力本願だけど、普通の7歳なんてこの位しか出来ないよね。
時は過ぎ、13歳の春。本日は学園の入学式である。
あれから、特にゲーム関連の夢も見ず、地味目の本好き令嬢としての地位を確立し、気の合う伯爵令嬢の友人も出来た。
新入生代表の挨拶はジョエル殿下。流石攻略対象その1、キラキラエフェクトが見える様です。微笑みに一部女生徒が蕩けてますよ~。
それに対し、自慢げ? なイーディス様。わたくしの婚約者よ! って感じだろうか?
ジョエル殿下は幾分、イーディス様を苦手に思っている節はあるが、すごく不仲な訳ではなさそうだし、上手くいって欲しいものである。
そんなこんなで何事もなく、一日が終了した。
全員を見ていた訳では無いけど……何のイベントも起きてない気がする。
そういえば、薄桃色の髪の子は居なかった気が……?
数日かけて情報収集をした所、子爵夫人に母娘の存在がバレてド修羅場。子爵夫人は1年前の流行病で儚くなる筈だったのが、怒りのせいか流行病にすらかからなかった様で、現在も健在。
母娘は下町のパン屋を辞め、王都を離れ子爵領の片隅で隠れるように暮らしているとか。そして娘は学園には通わさず、婚姻が出来る年になったら直ぐに嫁に出すそうだ。引き取られてないから、平民扱いだもんな…。
……思ったよりも大ごとになってしまった……。
いやでも、貴族になって学園に入り、苛めを受けたり、攻略失敗したりの可能性を考えれば……少しはマシ…かも?……………おぅ…思ったより罪悪感が……。
………とりあえず、平和に学園生活を送れそうで安心、という事にしておこう。
―――平和になんて、思っていた時もありました。
最初の茶会以降、事ある毎に観察を続けられていたアイザック様にどうやら気に入られていたらしく、ちょっかいをかけられる日々。
ブスメイクもバレてましたし、なんやかんやで気が付いたら外堀がっちり埋められてました―――
元々は会話文有りで普通に書いていたのですが、お茶会にたどり着く辺りで長くなりそうな気配だったので、この形になりました。
気が向いたら、連載にするかもしれません。