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98、平安時代993年 〜精霊は知っていても妖精を知らない

 安倍晴明が、すごい顔で睨んでいる。


「そなたは、妖怪の変異種だ。我々に対抗しようと、霊力に強い緑の光を持っておる」


 また、緑とか言ってる。意味がわからない。彼は見たままの色を言っているみたいだけど、彼の目には魔力は緑の光に見えるらしい。


 そして、彼らが使う霊力が青だっけ? 確かに最初は青い火を使っていたけど、さっきの蝶はオレンジ色に見えたんだけど。


 俺は、陰陽師の能力なんてわからないから、なんとも言えないな。でも、助けたのに敵視されるのは、やはりおかしくない?


「安倍晴明様、先程も言いましたけど、俺は妖怪ではないです。今は人ですよ。そして色の話はわからないですけど、俺が使うのは魔力です。未来では、陰陽師よりも魔導士の方が数は多いんです」


「魔導士などと……」


「別に信用してもらわなくていいです。知らないものには誰しも恐怖を感じる。受け入れたくない現実から目を背けたくなる。自然なことです。少なくとも、貴方が魔導士と出会うことなどないでしょうから」


 俺がそう言うと、彼は少し黙った。怒ったのかもしれない。相変わらず睨んでくるから、感情の動きはよくわからない。



「魔導士とは……海の向こうの魔女のことか?」


 なんだ、魔女を知ってるんだ。どうして? ヨーロッパとの交流なんてないはずだけど?


「なぜ、西洋の話をご存知なんですか」


「ほう、西洋と呼ぶのか。精霊が話しておった。海の向こうの魔女と呼ばれる存在が、この狐に憑いているのではないかとな」


 狐に憑いている? 魔女の怨霊がってこと?

 彼は精霊を知ってるんだ。ちょっと意外だな。


「精霊ですか?」


「知らぬのか。大地には精霊という目に見えぬ神が宿っておる。我らが使うチカラは、精霊のチカラを借りているのだ」


 ちょっと待って。精霊は神扱いされているの?


「貴方は、精霊をあがめているのですか」


「当然だ。神仏には邪気が集まるが、精霊は清いのだ」


 邪気にまみれたら精霊は、精霊ではなくなるからね。当たり前のことだよ。


(どうしようかな)


 このガンコ爺さんは、プライドが高く、自分の考えを曲げない。説明しても理解する気がない。きっと、俺のことを信用していないからだ。


 でも、俺は、この広い川の環境を改善したい。ただ、そのためには、この時代の権力者の意識改革が必要かもしれない。


 大きく歴史を変えるようなことは禁じられている。でも、川沿いの住人が生きていけるように、怨霊が大発生しないようにするには、怨霊と関わる陰陽師の協力が必要かな。


(はぁ、こういうのは苦手だけど……)



「安倍晴明様、いま、おっしゃった言葉に偽りはありませんね?」


「なんだ? そなた、妙な術を使うつもりだな? 私にはかからんぞ」


「そんなことはわかっています。俺が貴方を操れるなら、こんな議論なんてしてませんから」


 俺がそう言うと、彼は少し気を良くしたのか、得意げな表情を見せた。


 この時代だからこそ、やはり協力してもらうには、俺が上だと思わせないと無理だよね。嫌だけど、仕方ない。


「私は、何者にも動じないからな」


「そう、ですか。では、俺が何者かを知っても大丈夫ですね」


「妖怪だと認める気になったか。京に来た目的を言え」


 安倍晴明は、少し霊力が回復したのか、自分をガードする蝶を再び出した。血の気の多い爺さんだよね。


「またですか。さっきも貴方を助けたのに、そんな態度ばかりでウンザリです。俺は、空に浮かぶ浮き島の妖精です。そして、今は事情により、人として地上にいる」


「はぁ? 妖怪でなく、ヨウセイだと? 何が違うのだ。そうか、緑の光を持つ妖怪をヨウセイと呼ぶのだな」


(精霊は知ってて、妖精を知らないの?)


「違います。俺達は、精霊に仕える種族です。いま、俺は、万年樹の精霊の使徒を務めています。この時代に来たのは、あることを解決するためです。万年樹のチカラで送り届けられたので、俺がこの地を指定したわけじゃないんです」


「私が精霊を崇めていると言ったから、そんな大嘘を並べるか」


 彼は、めちゃくちゃ怒っている。精霊をバカにされたとでも感じたのかもしれない。


「それなら、精霊の声を聞けばいい。貴方には、その能力があるのでしょう? 俺は残念ながら、同じ属性の……古樹の精霊の声しか聞こえないので」


 俺がそう言うと、彼は何かの術を唱えた。


 周りの草花から淡い光が、瞬きはじめた。草花の精霊? いや、違うか。土の精霊だ。草花に精霊が宿っているなら俺にも聞こえるはずだからね。


 その淡い光は、俺の周りを取り囲むようにチカチカと光っている。そんな風にピカピカされても、俺には聞こえない。



 だけど、だんだんと彼の表情が変わってきたことはわかった。へぇ、本当に土の精霊と話せるんだ。


 もしかしたら、精霊の方から積極的に働きかけてるのかもしれない。土の精霊も、この地がこれ以上汚されることは避けたいだろうし。



 フッと光が消えた。



 すると、驚いたことに、爺さんが……土下座している。ちょ、ちょっと、何してんの?


「あ、あの、安倍晴明様?」


「無礼の数々、申し訳ない、青空 林斗殿。貴方のことをこの地に招いたのは、この地の精霊なのですね。樹木の最高精霊の使徒であり、ある果物の妖精国の王子だと教えられました。公家よりも位が高いお方だと……」


「俺は、公家の方々がよくわからないので何とも言えませんが。とりあえず、理解してもらえたようでよかったです。土の精霊と話されたんですね」


「いや、精霊の種類はわからないが、必要なときにこたえてくれる声はたくさんの種類があるようです」


 急に、彼の言葉遣いが変わった。


「あの、話し方は、普通にしてもらえますか。安倍晴明様のような方に、敬語を使われるとちょっと……」


「そういうわけには……」


「いや、俺、そういう扱いをされるのが嫌いなんです」


 俺がそう言うと、やっと、彼は立ち上がった。


「わかった。ならば普通に話そう。青空殿には、知らぬことはないと思っていた私の愚かさに気づかせていただいた。感謝いたす。この地の精霊の願い叶えるため、私も微力ながら、力を尽くしましょうぞ」


「ありがとうございます。では、約束してください。戦う意志のない妖怪を殺さないと」


 俺は、狐と呼ばれる少年二人を見ながら、彼にそう言った。一瞬、カチンときたみたいだけど、彼は頷いた。


「では、少年二人に話を聞きましょうか」


「少年ではない。邪悪な狐だ」


 そう言いつつも、彼は自分を守らせていた蝶を消した。武装解除かな?



次回は、6月13日(土)に投稿予定です。

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