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94、平安時代993年 〜安倍晴明との出会い

 俺は右手を光らせるという演出付きで、怪我人の治療をした。ヤスさんの知り合いの怪我はひどかった。でもこれを一気に治すと、バケモノ扱いされるよね。


 俺は、ゆっくりと時間をかけて、治癒魔法を使った。余裕で一瞬で完治させられるけど……ここは魔法のない世界だからね。


 そして、命に影響のないところで治癒魔法を止めた。あとは、眠れば体力の回復とともに治っていくはずだ。


 俺はさらに、他の二人も、少し治癒魔法を使った。この二人は、たいしたことはないので、出血を止めたところでやめた。


 傷口は三人とも残してある。もちろん、消せるんだけど、やり過ぎるとマズイとわかっていた。うん、不思議じゃない程度に、なんとか助けられたね。



「あぁぁ、リント、なんでことだ! すごい力じゃないか! ありがとう、本当にありがとう!! 仁助、私がわかるか? ヤスだ、菅原 保兵衛だ」


「お、おぅ、ヤスか。俺は……助かったのか」


「よかったよ、よかった。ほんとに、リントありがとう」


 ヤスさんは、すごく大げさに感謝してくれた。でも、式神の女の子もパチパチと拍手してくれている。


 それがキッカケになり、宿の人達にもみんなに拍手された。ちょっと、俺、こういうときって、どうすればいいかわからない。




 そこに、一人のお爺さんが入ってきた。70歳近くだろうか? でも、凛としていて、なんだかすごいオーラがある。魔力ではなく、何かよくわからない強いチカラを持っているみたいだ。


 あー、霊力かな。ってことは、幽霊? でも、万年樹にも霊力がある。なんだろう? 俺はそもそも霊力の意味がわかってないんだよね。


 付き人っぽい人もやってきた。こちらは30代くらいかな? 人の良さそうな柔らかい雰囲気の女性だ。


 お爺さんは、まず俺を見て、少し警戒したみたいだ。でも、すぐに状況を把握したようだ。怪我人に近寄り、その身体に手を当てていた。すると、傷口がスーッと消えた。


(この人は、もしかして……)


「安倍晴明様! おぉ、完全に傷口も消えて……。ありがとうございます」


 ヤスさんが、お爺さんに礼を言っていた。やっぱりそうなんだ。安倍晴明って、若いのかと思ってたから、俺はなんだか変な気分だった。イメージと違うんだよね。


 式神の女の子が、安倍晴明の付き人っぽい女性の近くに寄っていった。彼女が、女の子に触れると、女の子は、白い紙になった!? えっ? あっ、式神って、陰陽師が使う術!? でも神様?


 彼女はその白い人形型の小さな紙を拾うと、懐に仕舞った。和紙か何かでできているのかな? でも、普通に女の子だったのに、びっくりだよ。



「いや、私ではなく、その若い男がほとんど治療を終えていたようだ。弟子の式神からは、瀕死の怪我人がいると聞いていたが」


 俺が驚いた顔をしていたのだと思う。安倍晴明は、不思議そうに俺を眺めている。あっ、そうか、この時代で陰陽師の術は、みんな知ってるんだよね。


 俺が式神が紙になったことにびっくりしたから、彼は何かを察したのかもしれない。


 そもそも、成り行きで彼を訪ねることになったけど、俺の目的は、リンゴの妖精と波長の合う怨霊を減らすことだ。陰陽師もきっと、わざわいから京を守っているんだよね? ということは、彼と共に行動するのが最善なのかも。


 だけど、無の怪人と呼ばれるバケモノは、京の怨霊を取り込んでいるのかな? たぶん、実験で殺された地は、東京だよね?




「あ、あの、安倍晴明様、私は菅原 保兵衛と申します。助けていただいた仁助と共に、京を目指して参りました。仁助とはぐれてから出会ったのが、その若者、青空 林斗です。我らは、安倍晴明様の弟子にしていただきたく……」


 俺が黙っていたからか、ヤスさんが紹介をしてくれた。


 ヤスさんが、話してくれて助かった。ジッと安倍晴明に見られてたんだよね。


 彼は、俺が何者かを探っている感じだ。彼に見つめられると、なんだか動かない方がいいような気になる。ヘビに睨まれたカエルって、こんな感じなのかな?



「ほう、私の弟子に? その若い男もか? そんな風には見えないが。青空 林斗といったか。何のために京に参った? そもそも、その力はいったい何だ?」


 安倍晴明が、俺をまっすぐに見ている。ヤスさんが、なんだか動揺していた。そっか、安倍晴明の目つきは、また警戒しているんだ。


 この人には、ごまかしは通用しないみたいだな。でも、こんな宿の中で話していいことなのかわからない。



「安倍晴明様、俺は、ある者を捜しています。そのために、ここに来ました」


「ある者とは?」


「俺のまわりの人達から、無の怪人と呼ばれる者です」


「無の怪人? そのような者は京では聞かぬが……」


「存在自体が知られていないのかもしれません」


 俺がそう言うと、彼は無の怪人が普通の人間ではないことを察したみたいだ。スーッと冷ややかな目をしている。俺がなぜ、普通の人間ではない者を捜しているのか、怪しんでいるみたいだ。


 いや、俺が普通の人間ではないことが、わかったのかもしれない。より一層、警戒を強めている。


「その者を見つけてどうするのだ?」


「はい、無の怪人と呼ばれる者に、この地の怨霊が取り憑かないようにするのが俺の目的です。奴に取り込まれる怨霊を減らしたい」


「無の怪人は、妖怪か?」


「いえ、怨霊だと思います。怨みを持って死んだ者達に、多くの怨霊が取り込まれ、バケモノが生まれてしまったようです」


 すると、安倍晴明は、疑わしそうな目をしていた。俺の話が信用できないのかな。妖怪は騒ぎになってるけど、怨霊の被害はないのかな?


「そのような話は聞いたことがない。それほど厄介な存在が

 いるなら、私の耳に入らないわけがないはずだが」


(あー、なんか、俺が嘘つきになってる?)


 まわりの人達も、俺を怪しいと思ってるみたいだ。さっきは、好意的だった人達なのに、今は、俺からジワジワと離れる人もいる。


 安倍晴明は、ジッと俺を睨んでいる。そういえば、この時代で魔力を持つのは、海外の妖怪だと思われてるんだよね。


 宿の人達は、適当にごまかせても、このお爺さんはごまかせない。仕方ない、話すか。未来の話は禁止事項だけど、未来から来たことは話しても大丈夫だったよね。



 俺は、思わず大きなため息をついてしまった。そして、安倍晴明の顔をまっすぐに見た。


「無の怪人は、今から約千年後に生まれるバケモノです。奴には、時代を自由に行き来する能力があるんです」


 シーンとした。また、嘘だと思われたかな?



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