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93、平安時代993年 〜宿屋での食事、そして

「お食事が出来ました」


 さっき、カブを渡した人とは別の宿の人が、食事を運んできてくれた。焼き魚のいい匂いがする。

 すると、イビキをかいていたヤスさんが、ガバッと起き上がった。すごいセンサーだね。


「おぉ、早かったな。いただくとするか」


「はい、いただきます」


 テーブルはないけど、一人前ずつのお膳が目の前に置かれた。宿の人は、ごゆっくりと言って忙しそうに出ていった。


「おぉ、白米じゃないか。さすが京の宿屋だな」


 ヤスさんは、料理を見て目を輝かせていた。俺から見ると、質素に見えるんだけど、話を合わせておく方がいいよね。


「すごいご馳走ですね」


「あぁ、ほんとに、こんなに贅沢なもんを食べたら、バチが当たりそうだな」


 俺は意味がよくわからなかったけど、あいまいな笑顔を浮かべておいた。


 さっきのカブは、煮物と、お浸しになっている。そして、川魚なのか、見たことのない焼き魚がひとつ、そして汁物とご飯がついていた。


 味は薄味だけど、素材の味を引き立たせているのかな? 俺もお腹が空いていたみたいで、一気に平らげた。


「リント、よほど腹が減ってたんだな。焼き魚は、内臓は苦いだろう? そのまま食って大丈夫か?」


「えっ? あ、一気に食べてしまいました」


 確かに、魚は苦いと思った。ヤスさんは、内臓を残している。そうやって食べるのか。焼き魚なんて、ほとんど食べたことがないから知らなかったよ。


 でも、俺の食べ方も、腹が減っていたと解釈されたみたいだから、まぁ、大丈夫だよね。魚をあまり食べたことないのかとは尋ねられなかったし。


「しっかし、美味いなぁ。生き返ったよ。特にこんな美味いカブは、初めて食べたよ。一緒に旅をしていた男に食べさせてやりたかった」


「山賊に襲われたんでしたよね」


「あぁ、今朝、夜明け前に出立したんだ。山賊が一番少ない時刻だからな。でも何も取られなかったから、ついていたと言うべきだろうが。仁助は大丈夫だっただろうか……」


 ヤスさんは、心配そうな表情を浮かべた。いい人だね、この人。俺は、どう返事すればよいのかわからなかった。


「あはは、悪い。困るよな、そんな知らないことを言われても。リント、もう少し眠って行くか? おそらく、安倍晴明様は、昨夜の妖怪騒ぎで朝まで仕事をされただろうから、きっと、いま行っても会えないと思うが」


「もう、近くまで来ているんですか?」


「一条の方にお住まいがあるようだが、三条付近にも別宅があるそうだ。妖怪騒ぎが収まるまでは、三条付近におられると思うよ」


「ここは、三条付近なのですか?」


「さっき、私が声をかけたのが四条大橋の手前だっただろう? ここは、三条と四条のちょうど真ん中あたりかな」


「そうなんですね。京の地理はよくわからなくて」


「あはは、だろうな。慣れるとわかりやすいのだがな。リントは、どこから来たんだ?」


 万年樹の島は、東京だよね? でも、この時代の東京って何て名前だろう?


「東の方です」


「そうかい。大きな湖があるらしいじゃないか」


「あー、はい、それよりも、東の方です」


「随分、長旅なんだな」


 俺は、あいまいな笑顔を浮かべた。ヤスさんは、特に俺の出身を詮索する気はないみたいだ。世間話なのかな。



 食事が終わる頃に、俺がカブを渡した人が、何かを持って来てくれた。緑茶だと思ったけど、違った。なんだかよくわからないけど、口の中はさっぱりした。


「お姉さん、すごく美味しかったですよ」


 ヤスさんは、気さくに話しかけている。


「そう言っていただけると、料理人も喜びますわ。お二人は、安倍晴明様を訪ねて来られたのでしょうか」


「あはは、あぁ、わかりますか」


「はい。ここで昼食を召し上がる身なりの良い旅人さんは、弟子入り志願の方が多いものですから。本日は、三条のお住まいにいらっしゃると思います」


「情報をありがとう。もしかして、よく尋ねられるのですか」


「ええ、安倍晴明様のお札をいただいていますからね。それを見て、入って来られる旅人さんもいらっしゃるんですよ」


「私も、見ましたよ。しかも、式神が守っているようでしたからね。ゆかりの宿屋だと思いました」


 俺には、全くわからない話だった。式神? 神様? でも、ここで尋ねるのはまずいような気がする。


「当宿では、病を癒す式神が守ってくださっています。安倍晴明様のお弟子さんの式神ですけどね」


「へぇ、そうですか。お弟子さんでも式神を操れるとは……素晴らしい。私とは次元が違うな」



 そのとき、外が急に騒がしくなった。


「怪我人を運んで来た! 薬師か治癒できる方はいませんか!」


「まぁ、大変だわ。式神がいるけど、荷が重いかしら」


 宿の人は、俺達を見た。ヤスさんは力強く頷いた。


「私は、いくつか薬を持っている。傷薬もある。提供しよう」


 そう言うと、彼は立ち上がった。俺も行く方がいいよね。




 宿の人について行くと、中庭には、三人の人を乗せた台車が止められていた。そして、幼い女の子が何かをしていた。


 女の子は、手を台車の上の人に向けていた。その手は、淡い光を帯びている。へぇ、魔法だ。いや、魔法じゃなくて、これって霊力かな? 淡い光は治癒の光のようだ。


 ということは、あの女の子が式神? でも、生命反応がないよ? 死んでいる神様?


 女の子は、一人に光を当てていたけど、諦めたのか、手の光は消えた。


「これ以上やると、私が消えちゃう……ごめん、無理。ん? 何? キミ?」


 彼女は、俺に気づいた。なんだか睨まれている。まるで幼女のようだね。すべてを見透かしたような目だ。



「あぁぁ、仁助!? 嘘、目を開けてくれよ」


 女の子が治療していた男に、ヤスさんは駆け寄った。彼は三人の中で一番出血がひどい。ヤスさんは薬を持っていると言っていたけど、薬を塗ってなんとかなる感じではない。


「怪我人なら、少しは治せると思います」


 俺がそう言うと、ヤスさんは驚いた顔をした。そして、女の子は、片眉をあげた。生意気な顔だな〜。幼女に見えてきた。


「キミ、何者?」


「俺は、リント。旅人です」


「できるものならやってみなさいよ。いま、安倍晴明様を呼んだから。それまで繋げれば合格よ」


「ちょっと変わった術を使うので離れてください」


 俺がそう言うと、人々はサッと離れた。でも、女の子は離れない。ジッと俺を見ている。神様なら、まぁ、いっか。


 でも、なるべく、さっきの真似をしよう。俺は手を光らせて、傷口へ近づけるという演出を入れることにした。


『チャージ・シャイン!』

『ヒール!』



次回は、6月6日(土)に投稿予定です。

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