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92、平安時代993年 〜旅は道連れ

 遠くから、何十人という人の視線を感じた。みな、怯えた表情で、俺を見ている。どうして怖がってるんだろう?


 そういえば、この着物は、しゃんとしていると言われた。学がありそうだとかも言われたよね。そっか、身分差が激しいんだ。


 さっきの人よりも、ここに住む人達は、みな痩せているように見える。服装も粗末なものだ。彼が川沿いを歩くように進めたのは、土手の上よりも安全だということなのかな。


 俺以外にも、川沿いを行き来する人は少なからずいる。農家っぽい人が多いけど、旅人風の人もいるようだ。


(この野菜……)


 行き交う人も、俺の持つ野菜をチラチラ見ている。これがあるから、余計に見られるのかな。


 でも、いま、魔法袋へ入れるのはマズイよね。俺は腰に小さな布袋を下げているだけだから……こんなカブみたいな野菜を収納するところを見られたら、俺、バケモノ扱いされそうだし。



 さらに上流へと歩いていくと、大きな橋があった。その橋の下には、着物ではなく、布を巻き付けているだけの人達が集まっていた。


 旅人風の人達は、その橋の手前で、土手に上がっていってる。橋の上には、多くの人が歩いている。ん? 武士がいるの? あ、そっか、そりゃいるよね。


 俺が川沿いを歩いていたら、後ろから駆け寄る音が聞こえた。


「ちょっと、そこの若いの、土手に上がらなきゃ」


 振り返ると、俺とよく似た感じの着物の男性がいた。俺はくすんだ白い着物に草色の袴だから、色合いは違うけど。


「北へ行きたいので、さっき川沿いを歩いていけばいいって教えてもらったんですけど」


「その橋の付近は、上を歩く方がいいよ。橋の下に乞食がいるだろう? 下手すりゃ身ぐるみはがされる。ん? 若いの、荷物は? 盗賊に襲われたのか」


「えっ、あ、えっと……」


 俺がどう返事をするべきか悩んでいたら、その男は、ハッとした顔をした。


「わ、悪い。狐にやられたんだな。記憶はあるか? 昨日はどこに泊まったか覚えているか?」


「えっと……」


 俺が頭をポリポリかいていると、その男は同情したのか、なんとも言えない表情で頷いている。なんだか、盛大に勘違いされている。でも、未来から来たとも言えないしな。


「どこへ向かっているのかは覚えているのか?」


「あの、安倍晴明様の所へ……」


「おぉっ、やはりそうか。その身なりからして、そんな気がしたのだ。私も、弟子にしていただこうと、はるばる京へやってきたのだ」


「そうなんですね。俺、全く場所がわからなくて……」


「共に参りましょうぞ。なかなか弟子はとってもらえないそうだが……。おぬしは、若いから良いがな」


 そういう男は、確かに若くはない。三十代半ばってとこかな? この時代って平均寿命はどれくらいなんだろう? あまり長くはないんだろうな。だから、焦っているんだよね。


「私は、菅原 保兵衛と申す。ヤスと呼んでくれ。兄さんは?」


「俺は、青空 林斗です。名をそのままリントと呼ばれています」


「ほう、珍しい名だな。しかし、ここ数日の記憶が消されてしまっただろう? 京は、妖怪や怨霊が多いから、夜の移動は危険なんだよ」


「夜だけなんですか?」


「昼間は、怨霊は出てこない。妖怪は、鞍馬の方へ行くと昼夜関係なくうろついているらしいよ」


「そうですか」


 俺は、ヤスさんに促されて、土手を上がった。橋の下の人達のことが気になったけど、俺は食べ物は、この野菜しか持っていない。お金もないよね……。彼らもだけど、俺、大丈夫かな?



「よかったよ、旅は道連れって言うもんな。京の近くまで一緒だった男とは、山賊に襲われて逃げる際に、はぐれてしまったんだ。目的地は同じだから、互いに無事なら会えると思うのだがな」


「その方も、ご無事だといいですね」


「あぁ、そう願っているよ。あっ、そのカブ、料理してもらわないかい? この街道沿いには、宿屋が並んでいるからな」


「でも、俺、お金ないです……」


「それは、心配しないでいい。そのカブも貰い物だろう? 陰陽道を志す若者は、宝だからな。それに、私はそのカブを食べてみたい。京の野菜は美味いと評判だからな」


「じゃあ、はい。お願いします」


 俺がそう返事をすると、ヤスさんはニコリと笑った。そして、目についた大きな宿屋に入っていった。



 何か交渉をしているみたいだったけど、すぐに、部屋に通された。店じゃなくて、宿屋の部屋で食べるの?


 俺、ついて来て、よかったのかな? はっきり言って、見知らぬ人なんだよね。




「あー、疲れた。私は、少し眠る。食事ができたら起こしてくれ、リント」


「はい、わかりました」


 俺は、宿の人に、カブを渡した。なんちゃら院のカブですねと言われたけど、よく聞き取れなかった。俺は、出会った人からの頂き物だと、適当に説明しておいた。


 ヤスさんは、ゴロンと寝転がった瞬間、すごいイビキをかいて爆睡してしまった。


「旅の人、随分、お疲れのようですね。昨夜は、京のあちこちで妖怪が騒がしかったので、寝不足な人が多いようです」


「そうだったんですか。俺は、昨夜の京のことは覚えていなくて……」


 俺は、ヤスさんの勘違い話に、合わせることにした。嘘はついていない。昨夜はこの時代に居なかったんだから。


「やはりそうでしたか。荷物がないから、山賊に襲われたのかとも思いましたが……狐でしたか。お気の毒です」


「あ、いえ……」


 俺は、なんだか罪悪感を感じていた。でも、未来から来たとは言えないから、これでいいよね。お金がドロップしなかったのは、万年樹はこうなるとわかってたんだ。


「すぐに、食事の支度をして参ります。兄さんも、お疲れならお休みください。この宿は、安倍晴明様のお札をいただいているので、狐も怨霊も入ってこられませんから」


「はい、ありがとうございます」



 俺は、すんごいイビキを聞きながら、窓から外の様子を眺めた。ここからは川は見えない。その代わりに、広い街道が見えた。


 武士もいるけど、ほとんどは俺よりも軽装の人が多い。短めの着物と、その下には股引みたいなものをはいている。袴の人は少ないんだ。だから、しゃんとしているって言われたのかな。


 俺は頭には何も巻いてないけど、頭に手拭いを巻いている人や、帽子みたいなものをかぶっている人も多い。


 でも、ほんと、誰も魔力を持ってないみたいだ。戦国時代もそうだったけど、あの時代には妖怪や怨霊って話は聞かなかった。


 魔力がなくて、どうやって対抗するのかな。あっ、それが、陰陽道っていうものなのかな?



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