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90、万年樹の島 〜バケモノだらけ

 俺は、万年樹のダンジョンから、いったん外に出た。紅牙さんは、他の階層の人工魔物を片付けに行った。あとは任せとけって言っていたし、紅牙さんは、めちゃくちゃ強いから大丈夫だよね。


 草原は、もう、いつものように穏やかだった。さっきは、しおれていた草花も、キラキラと輝いている。


 俺は、スゥハァと深呼吸をした。あれ? これからタイムトラベルに行くのに、なぜか気分が浮き立っている。


 ひとりで行かなきゃいけないのに、もし失敗してしまったら、眷属けんぞく達も、生きていけなくなるのに……俺は緊張しすぎておかしくなったのかな?



 俺は万年樹の幹に触れた。何もまだ念じていないのに、スゥーっと、ダンジョン内へと導かれた。幼女が既に、万年樹の精霊に伝えていたのかもしれない。


(えーっ……何、これ……)


 ダンジョン内は、幽霊みたいなバケモノ、そして絵巻に出てくるような妖怪みたいなバケモノ、それに何かに憑かれたような人間がウヨウヨしている。


 たぶん、行き先で遭遇する可能性のある敵に似せてるんだと思うけど、紅牙さんは怨霊って言ってなかったっけ? 怨霊なんて、目に見えないんじゃないの? 


 こんなバケモノだらけの中を、ボス部屋までたどり着くのは、かなり気合いが必要だよ。この階層に全種類を集めたからすごい数なんだね。


(でも、やるしかない)



 スキルを使いたいとこだけど、呼びかけても反応はない。そういえば、タイムトラベルのときって、スキルを使ったことないよね。


 俺は、この階層は、トラベル先の訓練を兼ねているから使えないってことだと察した。


 剣を抜き、バリアを張った。


『オール・バリア!』



 幽霊みたいなバケモノは、斬ってもすぐに復活する。妖怪みたいなバケモノは、倒しやすい。憑かれた人間は、どうすればいいかわからなくて避けた。


 最初のドロップ品はいつものように、布袋だった。そして、着物や履き物、さらに日本刀のようなものもドロップした。剣と違って、日本刀って刃が薄くて鋭いんだ。


 さらに、また短刀や、日本刀、ちょっとどれだけ刀だらけなんだよ。よくわからない武器もドロップした。


 怨霊が大量発生した時代に繋がるんだよね? なんだか、この武器の量を見ると、ちょっとゾッとしてきた。



 幽霊みたいなバケモノは、魔法に弱いことがわかってきた。剣に火をまとわせて斬れば、復活しない。


 逆に、妖怪みたいなバケモノは、火をまとわせた剣で斬るとパワーアップする奴もいる。身体から放つオーラの色が属性みたいだ。同じ属性だと吸収してしまうのかな。


(気をつけなきゃ)



 ボス部屋にたどり着いたけど、石室の扉はやはり開かない。たぶん、憑かれた人間を倒さなきゃならないんだ。


 なんとも言えない抵抗があるんだよね。


 でも、そっか、怨霊かな。リンゴの妖精に怨霊が大量に入り込んでるって言ってたっけ。だから、いろいろな人に取り憑くのか。


 人間を殺すのは……ん? あれ? 生命反応がない? 憑かれた人間の戦闘力を見ようとしたけど、体力値がない。魔力っぽい何かの反応はあるんだけど……。


(死人に取り憑いてる?)


 そういえば、リンゴの妖精も殺されたんだよね。そうか、人間に見えるけど、死人なんだ。


 俺は、剣に火をまとわせて、憑かれた人間を斬った。断末魔のすごい叫びをあげながら、ドロップ品を残して消えた。


 すごい叫び声……怨めしさがこもっていて、俺は背筋が凍った。いつまでも耳に残っている。うわぁ〜……。



『その声に惑わされると、取り憑かれます』


『あっ、スキル?』


『はい』


『どうして? ここでは、出てこれないんじゃ?』


『万年樹の精霊のチカラが及ぶ範囲であれば、可能です。ただ、最大限のチカラを発揮できるのは、万年樹の通常ダンジョン内のみ。タイムトラベル階層では、念話しかできません』


『そっか、ありがとう。助かったよ。気分が切り替わった』


『その怨霊は、すべて倒してください。ドロップ品が貴重なものです。怨霊が出現しなくなる限界まで倒してください』


『わかった』



 憑かれた人間のドロップ品は、小さな麻袋だった。また、兵糧丸なのかな? 触れると、団子状の何かが入っていることがわかった。


 でもスキルが貴重だというんだから、トラベル先で必須のものなんだよね。


 俺は、階層にいるバケモノをすべて倒そうと思った。前回の戦国時代の教訓からも、ドロップ品は、トラベル先で会う人が必要なものかもしれない。だから、少しでも多く集める方がいいはずだ。


 次々と倒すうちに、俺は、剣にまとわせる魔法の属性の切り替えができるようになってきた。


 基本は、火をまとわせているけど、火を吸収する妖怪には、瞬時に氷に切り替えた。魔法の発動スピードが上がっていった。反射神経だね。


 それと同時に、相手の属性も、出会った瞬間に判断できるようになった。オーラを隠されても見えるかもしれない。


 だから、剣にまとわせる属性の切り替えも、落ち着いてできるようになってきた。そして、同時に囲まれたときも、どの順番で倒せば効率がいいかもわかってきた。


(よし、もういいかな)


 俺は、拾い損ねたドロップ品を集めながら、あたりを見回した。もう、バケモノは出てこない。タイムトラベルは、本来、ここまで狩り尽くす方がいいのかもしれないな。




 ボス部屋に、再び近づくと、扉はスーッと開いた。


 中に入るとボスはいない。代わりに、幼女がいた。また、着替えを手伝いに来たのかな?


「半人前、珍しくキチンとドロップ品を集めたわね」


「スキルが教えてくれたからね」


「ふぅん、やはりね。そうだと思ったわ」


「着替えの手伝いに来てくれたの?」


 俺がそうたずねると、幼女はダルそうな顔をした。何?


「自分のことは自分でしなさいよね。さっさと着替えなさい」


 俺は、布袋から着物などを取り出して、今着ている服を脱いで着替えた。と言っても、簡単に着替えられるようになってるんだけど。へぇ、戦国時代よりも、なんだか楽かも。


 短めのくすんだ白い着物に、草色の短めの袴。袴は膝下でくくるんだね。その下には、ももひきみたいなのをはいている。そして草履。


 着ていた服や剣などは魔法袋にまとめた。すると、指輪にスーッと吸い込まれるように消えた。うん、前回と一緒だね。


「これでいいかな?」


「ドロップ品、一つ食べて行きなさいよ」


「うん? 貴重品ってスキルが言ってたよ」


「今、全回復した数値が基礎になるのよ。早く食べなさい」


「兵糧丸じゃなくて、回復薬なのか」


 俺は、小さな麻袋の中身を口に放り込んだ。



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