9、万年樹の島 〜戻る条件の詳細を聞く
今回までが、説明回になります。
俺達が小部屋を出ると、そこにはまた、幼女が居た。
「さっさと、屋敷に行くよ」
「どうしたの? きのこちゃん」
「まんじゅ爺が、早く二人を連れて来いってうるさいの」
俺達は、急かされながら店を出た。この店のある広場は、屋敷の一部らしい。広場の奥に、大きな門があった。
「皆様が、食堂でお待ちです」
門に居た番人らしき人にそう言われ、幼女の後を追った。そして、幼女が食堂らしき部屋の扉を開けると、バナナ王子の声が聞こえてきた。
「どういうこと? 条件の詳細はいつ話してくれるんだ?」
爺さんは、俺達の姿を見て、やわらかな笑みを浮かべた。
「皆様が揃われたので、ダンジョン内でのお話の続きをいたしましょう。バナナ王子、皆様が戻る条件は、皆様が司るフルーツが、今以上に繁栄するような行動と成果です。。何をすべきかは、自分自身で探していただく必要があります」
「意味が全くわからないです。具体的に何をすればいいか、ヒントはないんですか」
「キウイ王子、条件は、皆様それぞれ違うのです。おそらく正解はひとつではないでしょう。以前、確か千年以上前ですが、知名度のないフルーツの王子は、その名が知られるように宣伝活動をされて、浮き島に戻られました」
「知名度がある者は、どうすればいいのですか」
「ミカン王子、残念ながら難しいかと。浮き島で大きな勢力を持つ王族が司るフルーツは、地上での知名度も高く、また生産量も安定しています。以前お会いした王子は、これ以上の繁栄をさせる方法が見つからず、断念されました」
「タイムトラベルは、俺達のその条件と関係あるんですか」
「イチゴ王子、過去に災害で生産量が激減したフルーツの王子は、過去に戻ってその災害から守ったことで、やはり浮き島に戻られました」
「じゃあ、現代だけじゃなく、過去にも調査に行かなきゃならないのですか?」
「メロン王子、歴史に関する情報は簡単に入手できます。皆様に何が必要かは、爺にもわかりません。皆様への応援特典として、万年樹の精霊様は、タイムトラベルのスキルを与えられたのです」
「そもそも、なぜ、ダンジョンなんですか? 別に入る必要なかったんじゃ……」
俺がそう聞くと、爺さんが口を開く前に、幼女が口を挟んできた。
「あんた、バカでしょ。ダンジョンの中じゃないとダンジョンの指輪は見えないって、あたし言ったよね?」
「えーっと、そうだっけ?」
「コラーっ! 先輩に向かってその言葉使いは何だ〜。あたしの方が偉いんだからねっ」
(あー、うざいな)
「ねぇ、きのこちゃん。俺達は、指輪を渡すために、万年樹のダンジョンに入れられたの?」
「バナナくんだっけ? ダンジョン内で説明しちゃえば、オリエンテーション階クリアになるからじゃない? 一石二鳥じゃん」
なぜか幼女は、他の王子には親しげに可愛らしい笑顔を向けている。だが、俺にだけライバル視だ。
「皆様、人間社会のレベル制は、今年から全員強制ですが、上流階級では二年前から試験導入されております。世間では、レベル至上主義になりつつありますので、レベルが低いと、協力いただけないこともあるかと……。そうなると、皆様が浮き島へ戻る条件の障害になります」
「ダンジョンで、レベル上げをしろってこと?」
「はい、バナナ王子、日常生活でも経験値が得られ、レベルは上がりますが、ダンジョンの方が圧倒的に効率が良いのです。ですから、各地では少し困ったことになっております」
「どういうことですか?」
「はい、スイカ王子、人々がダンジョンに押しかけているのです。千年樹では、樹の精霊のチカラでダンジョンを作り出していますが、日本には40ほどしかありません。そこで、人工樹のダンジョンを、人間が科学の力で作り出しているのです。毎月のように数が増えて、今では千年樹のダンジョンよりも人工樹のダンジョンの方が多いのです。人々の娯楽施設のようなものまで存在します」
「楽しいならいいのでは?」
「あんた、バカね! 科学者が各ダンジョンのウリにしようと、魔物をどんどん作り出しているの。海底都市に魔物工場が増えると、海が汚染されてしまうの」
「えっ? そんなことになると、海の精霊のチカラが失われるんじゃ……」
「リンゴ王子、貴方には、精霊の使徒のスキルと称号が与えられていますよね。これから起こる危機を回避することが、精霊の使徒に与えられた使命です。万年樹の精霊が与えたということは、万年樹に何かの危機が近いのかもしれません」
「そういえば、そんな感じの声が聞こえました」
「リンゴ、頑張れよ」
「えーっ、俺ひとりで? そんなむちゃぶり」
「他の皆様も、他人事ではないですよ。もし、この国が崩壊するような事態が起こると、皆様の条件を満たせなくなります。今よりも繁栄させることが条件なのですから、国が滅ぶと繁栄どころか衰退しますからね」
「それなら、俺達も精霊の使徒にすればいいのに」
「マンゴーくんだっけ? 一人の精霊が生み出す使徒は一人だけなんだよ。あたし、万年樹の精霊の使徒だったの。その後、万年樹の妖精になったの」
そう言うと、幼女は、俺をキッと睨んだ。いやいや、俺は浮き島に戻るんだからさ。
「なんで、リンゴなんだよ。チカラがあるのは俺の方なのに」
「バナナ王子、おそらく、チカラではなくフィーリングが合ったのだと思いますよ。リンゴ王子には、精霊様の感情や異変を察する能力があるのではないでしょうか」
俺は、首を傾げた。そんな能力なんてないよ。フィーリングって言われても、地上に降りたのは初めてだけど。
「ふぅん、そっか。じゃあ、いいか。リンゴは、精霊との橋渡し役みたいなものだな。でも異変が起こるのはいつなんだ?」
「バナナ王子、爺にはわかりません。ですが、その異変がもし、魔物がもたらすものならば、皆様の戦闘力を上げていただかないと、太刀打ちできません」
「なるほど。リンゴなんて、ステイタス、めちゃくちゃ弱いもんな。俺が殴ると、死ぬんじゃない?」
(えっ……)
「バナナくん、ダンジョン内では死なないから安心していいよ。でも、ダンジョンの外なら普通に死ぬからね」
「きのこちゃん、笑顔でさらりと……。あっ、あと、タイムトラベルって、どうやればできるの?」
「タイムトラベルができるくらいまで、レベルが上がったら教えるよ〜。それまで、お・あ・ず・け」