86、万年樹の島 〜海底都市の爆破、レベル1411
はぁ、ミカトもスイトも、万年樹のダンジョンに……タイムトラベルに行ってしまった。こんな静かな朝は、いつ以来だろう? はぁ……。
食堂で、ぼんやりと朝食を食べた。なんだか、やる気が出てこない。動きたくない気分なんだ。これは、上げたいステイタスが全然上がらないからだよね。
食後のコーヒーを飲みながら、ステイタスを表示してみた。うーん、他は上がるのになぁ。
【名前】 青空 林斗 (あおぞら りんと)
【レベル】 1411
【種族】 フェアリー
【体力:HP】 17,100
【魔力:MP】 67,500
【物理攻撃力】 15,600
【物理防御力】 36,400
【魔法攻撃力】 70,100
【魔法防御力】 36,600
【回復魔法力】 31,000
【補助魔法力】 50,200
【速さ】 21,100
【回避】 37,700
【運】 489
【その他】 精霊の使徒 (Lv.2)、隠れスキル (Lv.1)
【指輪情報】
①万年樹……ランク47、第5階層クリア
②たまゆら千年樹……ランク100、全階層クリア
体力と物理攻撃力だよ。いったい、どうなってるんだ。夏祭りのたまゆら千年樹に行く前より低いままじゃないか。
もう、冬なのにさ。レベルもすんごい上がったのにさ。これ、魔法を封じる魔物と遭遇したら詰んでしまう。
運の数値が高いから、今のところ遭遇したことないけど、クラスメイトがよく魔法を封じる魔物の話や、魔法が効かない魔物の話をしている。
そんな話が聞こえてくるたびに、俺は焦るんだ。
それに、最近、海底都市が崩壊したというニュースを聞いた。地上と繋いでいる一部の魔物工場だけは、結界に守られているらしいけど……。
海底都市を封鎖し、すべての人を避難させたらしいんだ。一部の魔物工場は、地上から遠隔操作をして、ロボットが人間に代わって働いているそうだ。
なんとなくテレビを見ていたら、この夏あたりから、海では全く漁ができなくなったと言っている。
だから海の魚は、ダム湖で養殖するって? えー、ダムでそんなことしたら、水を放流したとき、海水のような塩水が川に流れることになるんじゃないの?
他の国でも、船は危険だからと、船での輸送はほとんどできないみたいだ。原油価格高騰? タンカーの危機? そうだよね、そんな重いものを空輸できないよ。
はぁ、テレビを見ていても、つまらないな。ミカトもスイトも、戦国時代に行くって言ってたっけ。俺がどこも行ってなかったら、やっぱ、話題に入れなくなるかな……。
でも、なぜか動きたくない。変だよね。なんだか鉛のように身体が重くてダルい。俺、体調が悪いのかな? いや、体調というより、動かない方がいいような気がしている。サボり病?
ガタガタガタガタ
(えっ? 地震?)
食堂にいた人達は、慌てて立ち上がっていた。けっこう揺れた。震度4って感じかな? 食器が何枚か割れる音がした。
「み、皆さん、大丈夫ですか」
まんじゅ爺の孫の孫の、優希さんだ。久しぶりに顔を見たかもしれない。
彼女は、俺の方に近寄ってきた。いや、テレビに近寄ってきたんだね。しばらくすると、臨時ニュースが流れた。
「リンゴ王子、さっきの地震って、海底都市の爆破ですよね? こんなに揺れるなんて……」
「うん、そうみたいだね。爆破なんかして大丈夫なのかな」
「ここまで、高速船で15分くらいの距離ですけど、海の中の爆破だから、こんなに揺れるなんておかしいですよ。あれれ?」
彼女は、テレビを見て固まっている。上空高い場所からの映像が、生中継されていた。
海底都市らしき場所は、今も爆破の連鎖が続いている。でも今は、この島は揺れていない。地震速報もない。さっきのあの揺れは、なんだったんだよ?
(えっ? あれ、何?)
映像は、爆破を映しているんだけど、海底都市から、スーッと魚の群れのような何かが、出ていってる。
「優希さん、海底都市から、何かが逃げ出しているよね」
「やっぱり、そうですよね。テレビの人は、気づいてないのかな」
「海がますます危険になったんじゃ……」
そのとき、腕輪がピカピカ光った。これは、幼女が俺を呼んでいる。腕輪に触れると、幼女の声が聞こえた。
『すぐ、万年樹のある草原に来て!』
『わかった』
幼女は、珍しく、簡潔に話している。これはただごとではない。
「優希さん、ちょっと草原に行ってきます。きのこさんに呼ばれたので。あの、たぶん、あまり出歩かない方がいいと思います」
「えっ……さっきの地震?」
「用件はわからないけど、ちょっと行ってきます」
「お気をつけて」
俺は、優希さんに微笑んで、席を立った。
万年樹のある草原に着くと、何が起こっているか一目でわかった。これが、さっきの地震の原因だよね。
大きなカプセルが割れていて、そこからたくさんの魔物が、這い出している。どこから飛んできたのかは明らかだ。
船で15分の距離でも、空を飛べば、たいして時間はかからない。
幼女が、俺の姿を見つけて、すぐそばにワープしてきた。
「他の王子は不在なの。紅牙も不在。半人前、なんとかしなさいよね!」
「きのこさん、無茶振りですよ? ダンジョンの中じゃないんだから」
「わかってるよ。でも、半人前が一番マシなんだから」
「他の冒険者は?」
「万年樹のダンジョンの中にも、湧いてるの」
「えっ……」
「ダンジョン内は、まだいいのよ。でも、コイツらが、万年樹を傷つけたら、万年樹の力が失われるの。ミカトくんとスイトくんは、タイムトラベルから戻れなくなるよ」
「えっ!?」
「だから、なんとかして! 私は、ダンジョン内の指示もしなきゃいけないの。どんどん海から、いろいろな階層に侵入してくるのよ」
「わかった……自信ないけど。とりあえず、万年樹にバリアを張るから」
「それはダメ。外との行き来ができなくなる。万年樹に近寄らないように、土壁だけ出した。強化するなら、土壁を強化して!」
「了解……」
幼女は、スッと消えた。ダンジョンに移動したんだよね。はぁ、もうマズイじゃないか。俺、不調なのに……。
あれ? さっきのダルさは消えている。もしかして、万年樹が俺を足止めしてたの?
俺は、軽装備を身につけ、剣を装備した。
草原にいる魔物は、何十体いるんだよ。でも、仕方ない。やるしかない。
俺は、万年樹のそばに移動した。そして、自分と、万年樹を囲む土壁に、バリアを張った。
カプセルから這い出した魔物は、あちこちに散り始めた。島に散らばるのもマズイよね。
俺は、草原全体に、移動結界を張った。
(よし、準備完了)




