85、国立特殊技能高等学校 〜剣術の試験
「いいんですか?」
「あぁ、構わない。卒業までに一度、おまえの通常戦闘力をみたいと思っていたからな」
「先生、リントをなめてますよね。リントに補助魔法を使わせたら、先生、下手すると怪我しますよ」
スイトが変な忠告をしていた。すると、先生は好戦的な笑みを浮かべた。
「へぇ、それは面白い。じゃあ、俺も妖力をまとうことにするよ。ギャラリーは少し離れてくれ」
ちょ、ちょっと、何? 妖力って言った?
「あ、あの先生、補助魔法だけでそんな大げさなことには……。妖力って、先生は妖怪なんですか?」
「ふっ、俺は、半分以上妖怪だな。と言っても、人間に近い鬼人だから、たいして妖力はないけどな」
(鬼!?)
俺はちょっと、ひきつっていると思う。なんだか怖いんだけど……。これが妖力? 緑色のオーラのようなものを先生はまとっている。
観客が盛り上がって、ワイワイ騒ぎ始めた。なんか、妖怪vs妖精って声も聞こえる。俺が補助魔法を使っても、弱いものは弱いんだけど。
「リント、補助魔法なら何を使ってもいいみたいだぜ」
「ん?」
スイトが、指差した先を見ると、魔法の得意なクラスメイトが、結界みたいなものを張っていた。校舎が壊れないようにという配慮なのだと思うけど……そっか、それだけ、先生が妖力をまとうと強いんだ。
「俺、リントが勝つ方に賭けようっと」
ミカトが、賭けに参加している。お食事ダンジョンのコインを出してるよ。
「ちょっとミカト、せっかく星三つのカプセル大量に集めたのに、何してんの」
「ん? みんな、お食事ダンジョンのコインを賭けてるじゃん。一気に増やすチャンス〜」
ミカトがそんなことを言うから、他の人達にも、俺に賭ける人が出てきた。ちょっと何やってんの? みんなのコインが……。
「じゃあ、私もリントくんが勝つに賭ける」
中村さんまで、便乗している。ちょっと待ってよ。彼女は、ニヤニヤしていた。悪ノリしてるよね。知らないよ? コインを失って責任取れって言わないでよね。
「まだ、リントはヤル気を出してないぜ。じゃ、俺もリントが勝つに賭けようか」
スイトまでがそんなこと言ってる。えー、これで負けたら、俺、呆れられて、万年樹のダンジョンに一緒に行ってくれなくなるんじゃ……。
(マズイよ、俺、ぼっちになるじゃないか)
「先生、補助魔法なら何を使ってもいいんですね」
「ふっ、構わんぞ〜。木刀だから、なんなら剣を強化してもいいぞ。ただし、木刀を燃やしたらアウトだからな」
「えっ? 魔剣を使ってもいいんですか? 補助魔法じゃないですよ?」
「魔法を飛ばさないなら構わんぞ。言っておくが、氷を使っても、俺には効かないからな」
ん? 氷なんて使わないよ。たぶん先生の弱点は火だからね。
「わかりました。じゃあ、俺、勝ちますよ?」
「クックッ、楽しみだ」
俺は、木刀を受け取り、所定の位置へ立った。はぁ、なんか、やだなー。めちゃくちゃ見られてる。他の先生まで来たんだけど。
「では、始め!」
俺は、合図と共に、先生に向かって走りながら、次々と魔法を唱えた。
『スピード!』
『オール・バリア!』
『チャージ・ファイア!』
そして、先生の懐に入り込み、全力で打ち込んだ。火を纏った木刀を、先生は慌てて受け流そうとしたみたいだけど、スピード差が大きい。一瞬で勝負はついた。
「リント、やっほ〜い!」
俺はミカトに笑顔を向けた。ミカト以外は、なぜかシーンとしていた。えっと……別に反則してないよ?
「コラ! 木刀を燃やしたら……ってあれ? 燃えてない」
「バリアを張りましたから、燃えませんよ」
先生は、俺に負けると思ってなかったのか、悔しそうな顔をしている。でも、俺も少し意外だった。妖力をまとわれると、近寄るにはかなりエネルギーが必要だった。何なんだろう?
「魔剣は、さすがに禁止にすればよかったな。あははは。妖精に負けたとか、恥ずかしいじゃねぇか」
「でも、先生が受け流そうとしなかったら、俺、届かなかったかもしれません」
「なんだ? もしかして、妖力に押し返されてたのか? いや、そこまで非力じゃ……」
「……非力ですよ。近寄るにはかなりのエネルギーが必要でしたし……。正面で受けようと構えられたら、かなりスピードが落ちると思います」
「なるほどな。おまえは、加速度を利用して戦う形か。物理攻撃力が弱いとは思えない一撃だったが」
「スピードも、補助魔法で倍にしましたからね」
先生は、楽しそうな顔に戻っていた。まさか、もう一回やろうとか言わないよね?
「先生、リントの成績、甘くつけてあげてくださいねー。それから、もう一戦やりたいなら、3対3ならいいですよ。俺達、3人だと強いんですよー」
ミカトが、先生を煽ってる。
「いや、それをやるには、校舎が壊れたら大変だからな。卒業時のイベントにとっておこうか」
「あー、先生が逃げた〜」
「ふっ、それまでに強い助っ人を探すから、戦略的撤退というやつだな。クックッ。楽しみが増えたぜ」
「そのときは先生も、ちょっとは本気を出すんですか」
スイトが変なことを言ってる。先生は、さっきも、本気でかわそうとしたんだよ?
「あはは、青空 翠斗、おまえには敵わないな」
先生は、楽しそうに笑った。うーん、スイトは、わかっていてそう言ったのかな。本気じゃなかったってことを聞いて、まわりの学生達も、なーんだって言ってるし。
スイトは、大人だよね。ふぅ……俺、そんな配慮なんて、できないよ。
とりあえず、剣術の試験が終わってよかった。
俺達は、その後の人達の試験を見学していた。
「リント、やっぱり補助魔法があると全然違うね」
「うーん、ないと全然ダメだからね」
ミカトは褒めてくれるけど、俺はこれではダメだとわかっている。魔法を封じられると何もできないからなー。
「リント、剣術なら、別の時代で習ってきたらどうだ? 俺も、伸び悩んできたから、戦国時代に行ってみようかと思っているんだ」
「スイト、それ、楽しそう。俺も戦国時代に行きたい! 三人で行く?」
「ミカト、タイムトラベルは、一緒には行けないぜ? たぶん、同じ時代を選んでも会えないと思う」
「えっ? こないだは、海底都市に行ったじゃん。あっ、でも会ってないね」
「あぁ、タイムパラドックスの関係があるからな。一緒にはいられないだろう」
「じゃあ、後から報告会かな。リントも行くでしょ?」
「あー、うーん。眷属のことがあるから、短期間なら、可能かな」
「よし、じゃあ、明日決行だね!」




