83、国立特殊技能高等学校 〜ミカトの収集癖
「ミカト、寒くないのか?」
「スイトは、寒さが苦手なんだね〜。俺は平気〜」
俺達は、ほとんど毎日、一緒に万年樹のダンジョンに行っている。夏祭りの騒動以降は、俺達はヒマだった。
クラスメイトは、試験が続いて勉強に必死なんだけど、俺達は高校生くらいの知識は既に習得している。だから、試験は受けに行っているけど、あまり失点をすることがなかった。
だから、授業の出席も特に強制されないから、結局、ダンジョン生活をしていた。
いつも万年樹にばかり行くのは、ミカトがやはり狙われているからだ。あちこちウロウロすると迷惑になるからと、万年樹の浅い層で、アイテム集めをしているんだ。
5階層から先は、まだ行っていない。モンスターが強くなるから、ミカトが襲撃者から逃げるときの妨げになるって言うんだ。
でも、たぶん、早瀬さんが勉強で忙しいから、試験が終わるのを待っているような気もするんだよね。5階層を一緒にクリアしたとき、この続きは、またの機会にって言っていたし。
それに、少しずつだけど、俺の眷属達の活動の成果が出始めている。彼らの活動によって、襲撃者がなくなるのを待っているのかもしれない。
ミカトと早瀬さんの関係は、相変わらずだった。見ているともどかしいんだよね。でも、早瀬さんはおとなしいから告白するようなタイプじゃないし、ミカトはあまり恋愛感情自体がわかってないみたい。
中村さんは、早瀬さんにたまにその話をしているみたいだけど、最近、彼女達は小川さんも含めて三人で行動しているようなんだ。たまに、学校に行くといつも三人一緒にいるところを見かける。
だから、なんとなく、中村さんにも話しかけにくくなってるんだ。小川さんが俺の眷属だからということもあるけど、何より、女子が三人いると、なんだか立ち入れない結界のようなものがある気がして……。
「おーい、リント、何をボーっとしているんだ?」
「うん? また小川さん達の方を見てるね。リント、眷属が気になってるの?」
「へ? 俺、見てたっけ」
「学校に来ると、いつも小川さん達の方を見てるじゃん。まぁ、小川さんってすごい美人だもんね」
ミカトは、小川さんのことを気に入ってるのかな? 早瀬さんが、ピンチじゃないか。
「ミカト、違うだろ。リントは、中村さんを見てるんじゃないのか? 髪色を金髪に染めてるし、声も態度もデカイから目立つしな」
「うーん? まぁ、いいか。そんなことより、お食事ダンジョンに行こうぜ〜。やっほ〜い」
「ミカト、今日は剣術と魔術の試験を受けに来たのを、忘れてないか?」
「大丈夫だよ、スイトくん。俺は、腹八分目という究極の術を知っているのだ。ふっふっふ」
「ミカト、知っているだけだろ? 調子に乗って食いすぎると、こないだみたいに腹痛くなるぜ?」
「あー、俺は、過去は振り返らないことにしているんだ」
「はぁ……ちょっと、リント、おまえも何とか言えよ。また、ボーっとしてさ〜」
「スイト、学校にはリントの眷属がいるからだよ。いろいろ気になるんじゃないの?」
俺は、なぜか女子三人組が気になる。でも、それは俺だけじゃないみたいだ。クラスの他の男子も、中村さん達をチラチラと見ていることに気づいていた。
「おーい、リント、聞いてる?」
「へ? あ、うん、ごめん。ちょっとボーっとしてた。確かに最近は寒くなったよね」
俺がそう返事すると、ミカトもスイトも、一緒きょとんとした。えっ? 何? 俺は寒くないって言う方がよかった?
「リントくん、リントくん、何分前の話題かな? タイムスリップしちゃってるよ」
「ミカト、それを言うなら、時間が数分前で止まってる、だろ。いつものことじゃないか」
「じゃ、お食事ダンジョンに行くぞー」
「えっ? う、うん」
「やった、リントも行きたいって言ってるよ? スイト」
「はぁ、もう、食いすぎるなよ?」
「やっほ〜い」
お食事ダンジョンは、もうほぼ制覇している。たぶん、星三つの高そうなレストランのランダムレアだけが、まだほとんど出てないんじゃないかな?
「ミカト、試験の前に、まさかいくつもカプセルを開けないよね?」
「食べ残しは厳禁だぜ? 一人一個だけにしておけよ」
「えー、そんな〜。じゃあ……早瀬さーん! みんなでお食事ダンジョンに行かない?」
ミカトは、女子三人組を呼ぶとき、最近は早瀬さんを呼ぶ。いつも、二人で行きたいのかと思ってしまうんだけど、本人は無自覚だと思う。
「えっ? でも、午後から剣術や魔術の試験だよ?」
「カプセルはあるんだ。だから大丈夫。時間はかからないよ」
女子三人は少し相談して、了承してくれた。でも、たぶん、カプセルがあるかではなく、ミカトがいっぱいカプセルを開けようとするんじゃないかを心配しているはずだ。
うん? スイトが小川さんとアイコンタクト?
ふぅん、なんだかあやしいよな。そういえば、スイトって、いつもクールだけど、こういう話はしたことなかったよね。
6人で、校庭のお食事ダンジョンへ入った。ミカトがコインを管理してて、カプセルに交換した。
ミカトは、お金には無頓着なのに、お食事ダンジョンのコインは、しっかり把握できてるから、俺達はいつも余ったカプセルはミカトに渡していたんだ。
「えっ! ミカトくん、6個だけ?」
「うん、スイトが一人一個って言うからさー」
「あはは、それで私達にも声をかけてくれたのね。ありがとう」
ミカトと早瀬さんが楽しそうに話している。でも、そこは、利用されたと怒っていいはずなんだけど。
「ミカトくんが、制覇しちゃったら、もうお食事ダンジョンに誘われることもなくなりそうね」
中村さんは、さすがよくわかってる。
「中村さん、そんなことないよ。こないだ人気メニューの投票をテレビでやってたんだ。ベスト10のメニューを食べたら、番組の協賛で、ミニ盾がもらえるらしいよ」
「ミニ盾?」
「俺まだ、5位しか持ってないんだ」
そう言うと、ミカトは、キーホルダーを見せた。
「ちょっと、ミカト。おまえ、次はミニ盾を集めるなんて言い出すんじゃねぇよな?」
「うん? もう集め始めてるよ」
スイトが、こりゃダメだと小さく呟いた。
だけど女子三人は、それを聞いてホッとした顔で笑っていた。みんな、ミカトのコレクターっぷりを楽しんでるのかな。
でも、中村さんは笑いながらも、呆れた顔をしている。うん、だよね。さすがだよ、中村さん。
次回は、5月23日(土)に、更新予定です。




