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80、万年樹の島 〜妖精の道しるべ

 夜なのに、今日は随分と蒸し暑い。氷づくりにも飽きてきたんだけど、まだ必要なのかな?


「リンゴ王子、氷はもう大丈夫です。ありがとうございました」


「ん? 屋台は終了?」


「いえ、まだすごい行列ですが、氷をストックするケースがもう満タンになっていますので」


「魔法袋?」


「いえ、魔法袋に入れると、加護の淡い光が消えてしまうので、保冷ケースに入れているんです」


「魔法袋に入れると、精霊の加護が消えてしまうんですか?」


「それは大丈夫なんですが、光らなくなるので、お客さんから加護が付与されていないとクレームがくるんです」


「そうなんですね。じゃあ、俺は友達のとこに戻りますね」


「はい、ありがとうございました」


 俺は軽く会釈して、屋台の裏側から広場へ戻った。




「あっ、リント〜、もう終わり?」


 みんながどこにいるか捜そうとしたら、かき氷の列から声が聞こえた。どの列かな。あっ、居た!


 俺は、ミカト達に近寄っていった。すぐ後ろに並んでいる人に嫌そうな顔をされたんだけど……。割り込むと思われたのかな。


「リントの分も買うつもりだったから、休憩してていいよ」


 ミカトが、まわりの視線に気づいて、そんなことを言った。


「えー、うん」


(でも、なんだか俺だけ……)


「あー、わかった! その顔が病気の顔だ〜」


 中村さんが突然、嬉しそうに叫んだ。何が病気の顔なんだよ。なんだか、俺はすっごいショックなんだけど。


「中村さん、リントが泣きそうになったじゃん。リントには、この系統の耐性がないんだよね」


「あっ、ごめん。そんなつもりじゃなくて」


「みくってば、もう、告白しちゃったら?」


「ばっ、バカなこと言わないでよね。言えるわけないでしょ」


(何? 告白って)


 もしかして、中村さんは、人に言えない秘密を抱えているんだろうか。俺が彼女の方を見ると、フイッと目を逸らされた。放っておけということかな。なんだか、いろいろ、グサリと刺さる。




 順番が回ってきて、かき氷を買った。なぜか、ミカトが全員の分を出してくれた。女子におごってあげるためかな?


 かき氷は、ほんのりと光っていた。なるほどね、この光があるから、確かに万年樹の精霊の加護があるんだと実感できる。


「これ、何味かな?」


「ミントっぽいよねー」


「あー、それだよ、結花。万年樹の味なのかな?」


 中村さんが変なことを言ってる。万年樹の味? そういえば、黄緑色のシロップがかかっている。万年樹の葉を使っているのかな?


 さっぱりとしていて、美味しい。何個でも食べられそう。これって、さっき俺が作った氷だよね。なんか、不思議な感じ。


「これって、リントが氷を作ったの?」


「えっ? うん、そうだと思う。他の人が作った分かもしれないけど、どうして?」


「だって、リントの魔力っぽさが残ってるよ」


「ん? そんなのわかるの?」


「ミカト、適当なことを言ってるだろ。俺も、リントの氷だってわかるけどな」


「何? エスパー?」


 でも、ミカトとスイトは、互いに顔を見合わせて笑っている。ん? からかわれてる? 俺がムッとしていると、スイトが、自分のかき氷の容器を見せた。何?


「リントのと違うだろ? 俺の容器はチカチカ光ってる。でも、リントの容器は光っていない。だから、ミカトはわかったんだよ」


「あー、反射?」


「そうだよ」


 すると早瀬さんが、不思議そうな顔をして口を開いた。


「反射って何? 私の容器は光ってないけど」


「それ、貸して」


 ミカトが、早瀬さんの空容器を持つと、容器の内側が光った。


「わっ! ミカトくんが持つと光った」


 早瀬さんだけでなく、中村さんも驚いている。


「俺達、浮き島の妖精の道しるべかな。触れると、他の妖精の魔力の痕跡がわかるんだよ」


「へぇ、面白い〜。ホタルみたいに光るんだ」


 そういえば子供の頃、反射を使って、迷い子さがしをしてたっけ。俺は迷い子にはならなかったけど、バナナ王子はよく捜索されていたよね。




「そろそろ、帰らなきゃ。明日、学校だから」


 中村さんがそう言い出した。確かにそうだよね。


「じゃあ、屋敷の転移部屋から帰る? 転移屋もあるけど、夏祭りで混んでるから」


「うん、使わせてもらえるなら、嬉しい」


「大丈夫だよ。きのこちゃんが強引に、ここに連れてきたんだしさ」


 ミカトは、任せろと言っていた。転移部屋は、たぶんいつでも大丈夫だよね。


 広場の転移屋の前には、すごいたくさんの人が並んでいる。これに女子二人を並ばせるのは、この時間だと不安だ。まぁ、順番がくるまで、一緒にいてあげてもいいんだけど。


 まぁ、転移部屋が無理なら、幼女が転移させてくれるんじゃないかな。そういうところは、彼女は信頼できる。責任感は半端なく強いと思うんだ。



 屋敷に戻るときに、リンゴ飴の屋台を通った。また、中村さんはリンゴ飴を買っていた。家の人へのお土産かな?


 氏神様の神社の祭りは、たくさんの種類のリンゴ飴があったっけ。あのとき、姫リンゴのことを、和リンゴと言ってたよね。


 俺が安土桃山時代に行ったときの行動で、タイムパラドックスが起こったと幼女が言っていた。


 俺は、織田信長に会ったときに、和リンゴの話をしたことを思い出した。本能寺の変のあと、逃げて隠れていた小屋を野生の和リンゴが守ってくれたっけ。


 やはり、堺に行った彼が、和リンゴを忘れないでいてくれたのかな。その影響で、今、この時代に和リンゴが食用として残っていると考えると……やっぱり、タイムパラドックスは、和リンゴなんだよね。


 俺が浮き島に戻る条件も、和リンゴなのかな。和リンゴをもっと普及させなきゃいけないのかな。


(でも、どうすればいいんだ?)


 そもそも、和リンゴは、リンゴ飴にしか使われていないみたいだし……。




 屋敷の転移部屋は、管理人の風馬さんがいた。それぞれの家の近くに転移させてくれるみたいだ。


「きのこちゃんから、待機命令が出てたんですよ。お嬢さん達をちゃんと送りなさいってね」


「ふうちゃん、ありがとう。絶対いると思ってた」


 ミカトは、風馬さんとも親しげに話していた。ほんと、ミカトってすごいよね。



「じゃあ、また明日ねー。いろいろとありがとう」


「うん、家の近くに転移してもらえると思うけど、気をつけてね」


「青空くん達、おやすみ」


 中村さんと目が合った。俺も、おやすみって返事をしたけど……なんだか、離れがたい気がした。


 そういえば、随分、長い時間、一緒に居たからかな。



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