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79、万年樹の島 〜精霊の加護のかき氷

 ミカトとスイトが、やっと買取屋から出てきた。


「あっ、待たせてた? ごめんねー」


「ミカトくん、別に大丈夫だよ」


 早瀬さんは、素早くミカトに気遣いをしていた。ミカトは、やわらかな笑顔を返している。俺はちょっと居心地が悪い。ほんと、さっさと付き合ったらいいのに。



「リント、いま、綺麗なお姉さんと話してたよね? 確か、食堂で見たことあるような気がするけど、知り合い?」


 ミカトが綺麗なお姉さんと言ったからか、早瀬さんは、かき氷の屋台の方を向いた。気になるんだよね。


「まんじゅ爺の家族みたいだよ。何世代か違いの孫だって。きのこさんが、かき氷の屋台を手伝えと言ってさ。俺を彼女に引き合わせたんだよ」


「そうなんだ。リントって、ほんと、きのこちゃんに気に入られてるよね」


「気に入られてるというより、下僕扱いされているような気がするよ」


「あはは。でも、きのこちゃんって、たぶん凄くエライ妖精だと思うよ。精霊にも文句言ったりできる妖精ってそうはいないし」


「ん? 精霊に文句?」


 ミカトは、しまったという顔をした。スイトがミカトを小突き、かわりに話し始めた。



「紅牙さんが、リントには内緒って言ってたんだけどな。きのこちゃんが、腐木の精霊に、この島への出入り禁止を命じたらしいぜ」


「へ? たまゆら千年樹の最下層で、あのダンジョンを守っていた精霊だよね?」


「あぁ、あの精霊も邪気にまみれてるみたいだ。万年樹のチカラを落とそうとして、いろいろ悪さをしているらしい。たまゆら千年樹では、救済できたのに、わざと術を解いただけで帰ったらしい」


「えっ? 捕らえられていた人を?」


「そうだ。放置して死なせたら、あの精霊の養分になるはずだったらしい。リントが救おうと無茶をして失敗すれば、万年樹の精霊が、離れた地に霊力を送る負担を強いられるから、どっちでも腐木の精霊は喜んだはずだって」


「ん? 俺、失敗してないよ?」


「あぁ、まさかリントが、隠しスキルが使えるレベルだとは思わなかったらしい。しかも成功させるなんて強運だって、笑ってたそうだ」


「えー……もしかして、俺を潰そうとされた感じ?」


「あぁ、だから、腐木の精霊には気をつけろって」


「なぜ、俺には内緒なの?」


「リントは、すぐに顔に出るからじゃないか?」


「スイト、たぶん、きのこちゃんはリントにはそういうドロドロとした話を聞かせたくないんだよ。リントは、疑うことを知らないからさ」


「えー……」


 スイトの説も、ミカトの説も、どっちも俺がダメダメってことじゃないか。はぁ、まぁ、否定はできないけど。




「ちょっと! 半人前、遊んでないで手伝ってきなさいよ」


 買取屋からたくさんの人が出てきた。幼女の説明会は終わったらしい。


「きのこさんの屋台なんですよね? きのこさんは手伝わないんですか」


 俺がそう反論したが、幼女は聞いていない。俺の腕をつかんで、かき氷の屋台へと引っ張っていった。すごい怪力だよね、幼女のくせに。


「ちょっと、ミカトやスイトには頼まないの?」


「あの二人は、一応、ここでは人間でしょ。半人前は妖精なんだからねっ」


 よくわからない説明だよね。ミカトやスイトに助けを求めようと思ったけど、二人はケラケラと笑ってる。中村さんや早瀬さんまで笑ってるよ。


 なんだよ、俺だけ……ぼっちじゃないか。



「は〜い、コイツを使っていいからねー」


 幼女は、俺を屋台の裏側に連れていった。そこには、汗だくになっている人達が7〜8人いた。


「きのこちゃん、彼は浮き島の王子じゃないのか?」


「うん、でも、地上の妖精の地位も得たから、あたしの後輩なの。アホほど魔力あるから、氷づくりは任せていいよ」


「そうなのか? 助かります、えっと……何王子だったかな」


「俺はリントです。リンゴ王国です」


 俺がそうこたえると、彼らは軽く頭を下げた。みんなまんじゅ爺の家族なのかな。でも、すごく汗だくだし疲れた顔をしてる。


(手伝いしようかな……なんか、可愛そうだし)



 俺は、作業台を確認した。さっき、ユウちゃんと呼ばれていた人が言っていた壺らしきものが、10個ほど並んでいた。


 この壺に水魔法で水を入れたら、万年樹の精霊の加護が備わるんだっけ。それから、氷魔法で氷にすればいいんだよね。


 作業している人を見ていると、氷魔法で氷にすると、ふわっと壺から氷が浮き上がっていた。中身が空中にワープするのかな?



「リンゴ王子、ご説明します」


「あ、いえ、さっき、説明は聞いたので、だいたいわかります。間違えたら指摘してください」


「かしこまりました」


 すぐ横で、幼女が腕を組んで仁王立ちしている。俺が逃げないように監視しているつもりなのかな?



 俺は、壺に手をかざした。


『ウォーター!』

『チェンジ・アイス!』


 壺に水を入れ、それを氷に変えた。いきなり氷の方が楽なのに、水の状態じゃないと加護を付与できないみたいだから、仕方ないよね。


 氷は、ふわっと空中に浮かび上がった。


「これで、大丈夫ですか?」


 付いてくれていた人に確認をすると、なんだか驚いた顔をしていた。うん? 間違えたのかな。


「それで合ってるから、ガンガン作りなさいよ。アンタが作業を止めさせたから、氷が足りなくなってきてるんだからね」


 だったら、おまえがやれよと言いそうになったけど、必死に我慢した。一言でも文句を言うと、十倍にして返されるからな。


 俺は、幼女を睨み、そして作業に戻った。


『ウォーター!』

『チェンジ・アイス!』


 浮かび上がった氷は、別の人が屋台へと運んでくれる。完全な流れ作業だ。


(壺ひとつずつって面倒だよね)


「あの、使ってない壺、いいですか?」


 俺は、予備っぽい壺を指差して尋ねた。


「えっ? どうするんですか?」


「ひとつずつ作るのは手間なので、いくつか一緒に作ろうと思って」


「はぁ、ど、どうぞ」


 俺は、空いていた壺、3個を近くに移動させた。


『ウォーター!』

『チェンジ・アイス!』


 よし、うまくいった。一気に4つの氷がふわっと空中に浮かび上がった。


「す、すごいですね。魔力は大丈夫ですか、こんなに即発動したりして……」


「たぶん、大丈夫だと思います」


「氷づくりは、コイツに任せて、疲れた人は順番に休憩していいからねー」


 幼女は、まるで自分の手柄みたいに、胸を張ってふんぞり返っている。はぁ、もう、ほんっとに、俺の扱い悪すぎるよね。


 俺は、黙々と氷づくりを続けた。



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