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78、万年樹の島 〜万年樹の夏祭り?

 俺は、紅牙さんから魔道具100個を受け取った。すると、すぐさま、ケンは俺の方を向いて、ひざまずいた。これは、下男が主人から指示を受けるときの仕草だ。


 その様子を、紅牙さんは面白そうに見ていた。そっか、ミカトやスイトは、精霊ルーフィン様の館で見慣れているけど、紅牙さんは初めて見るんだろうな。


 俺は、魔道具を彼に渡した。それを彼は、うやうやしく受け取った。そんな大層なものではないんだけど。


「全部、如月くんに預ければ、いいよね」


「はい、すべてお任せください。今回は、僕がリントさんとの繋ぎ役を務めます」


「わかった。いろいろな人が来るより、その方が俺も助かる」


 俺がそう言うと、彼はアイドルスマイルを浮かべた。おそらく彼には、そんなつもりはないのだとは思う。でも、俺には真似のできない笑顔だよね。


「では、僕は、これで失礼します」


 彼は、手を胸に当てて俺に向かって頭を下げた。そして、ミカト、リント、そして紅牙さんに軽く頭を下げて、小部屋から出て行った。



「リント、なんかオモロイことになってるんやな」


「まぁ、はぁ……」


「おまえが死んだら、眷属けんぞくも死ぬで。わかってるやろけど、気ィつけなあかんで」


「はい」


「おまえらの剣、ちょっと時間もらうけど、なんか希望あるんやったら言うといてや」


 俺は剣についてはよくわからない。でも、ミカトやスイトはあれこれと話していた。長くなりそうかな。俺は、紅牙さんに軽く会釈し、二人に合図して、小部屋から出た。




 小部屋を出ると、初心者向けの買取屋は、とても人が多かった。一瞬、ケンのせいかと思ったけど違った。もう既に、ケンの姿はない。他の眷属に魔道具を届けに行ったのかな。


 この人混みの原因は、幼女だった。買取机の上に立って、何か話してるみたいだ。俺が部屋から出てきたのを見つけると、こずるい笑顔を浮かべた。


(嫌な予感がする。無視しよう)


 中村さんと早瀬さんの姿を捜すと、店の外に出ていた。いつもは何もない場所に、屋台のような店がいくつか並んでいた。彼女達は、それを見に行ったみたいだ。


「ちょっと、半人前、こっちに来なさーい」


 俺も外に出ようとしたところを、幼女に阻まれた。無視して、出ようとすると、ふわっと飛んできた。


「コラー! 無視するなー」


「きのこさん、俺の友達が外にいるので失礼します」


「じゃあ、アンタ、確定だからねーっ」


「はい? 何がですか?」


「今日から万年樹の夏祭りだよ? かき氷係に決まってるじゃないの」


「意味がわからないんだけど」


「ウチの店も屋台を出すの〜」


「そうですか、頑張ってください」


「協力しなさいよね、あたしには借りがあるでしょ」


 あー、面倒くさそう。まぁ、確かに借りはいろいろあるんだけど。だからって、なぜ、かき氷屋なんだよ。


「このたくさんの人達から、バイト募集すればいいじゃないですか」


「何を言ってんのよー。みんなは、夏祭りの説明に集まってるお客さんだよ? 屋敷が主催する祭りなんだから、手伝うのは当然でしょ」


「はぁ……」


「ふふん、半人前は、かき氷係ね。一応確認するけど、ダンジョンの外でも、ちゃんと氷魔法は使えるよね?」


「さぁ? かき氷の氷は魔法で作るんですか?」


「当たり前じゃない。科学を使ってたら間に合わないんだからね。じゃ、外に行って」


 幼女は、無理矢理、俺をかき氷係に決め、今度は外に出ろと言って、店の扉を開けた。ほんとに、自分勝手だよね。



「ユウちゃん、コイツを使って〜。アホほど魔力を持ってるから〜」


 ユウちゃんと呼ばれたのは、屋敷で見たことのある若い女性だった。確か、食堂にいたっけ? 屋敷で働いている人だ。


 そう言うと幼女は、扉をバタンと閉めた。アホほど魔力って何なんだよ。俺は、そんなに魔力が高いわけじゃない。


 はぁ、幼女にステイタスを見られたんだっけ。かき氷係ができる程度の魔力があるってことか。ついてないな。




「あ、あの、リンゴ王子ですよね? 私は、青空 優希と申します。まんじゅ爺の孫の孫の孫くらいです。王子にお手伝いなんて、していただいてもよろしいのでしょうか?」


 とてもおとなしそうな人だ。俺より少し年上かな? 突然の幼女の無責任発言に戸惑っているようだ。


「俺も、何がなんだかわからないんですが、きのこさんには借りもありますので……」


 そう話すと、彼女は、ふわっと笑った。笑顔になると少し幼い印象になる。まんじゅ爺に似ているかは、わからないけど、彼女も妖精の血をひいているんだね。


「助かります。きのこさんの屋台は、毎年忙しくて大変なんですよ。氷づくりが間に合わなくなってきて、いつも誰かが魔力切れで倒れてます」


「そんなに作るんですか?」


「はい、万年樹の精霊の加護があるこの壺に水魔法で水を入れて、それを氷魔法で氷にして、あとはかき氷機を使います」


「そうすると、万年樹の精霊の加護付きのかき氷ができるということですか?」


「はい、そうなんです。だから、多くの冒険者が殺到するんですよね。もう、今も、叔父達が氷を作ってますが」


 ユウさんが指差した方を見ると、すごい行列ができていた。しかも、列の進みが速い。たくさんの人が、分業しているんだ。かき氷機も、5台ほど見える。完全な流れ作業ができあがっていた。


「なんだか、すごい人ですね……」


「はい、まるで戦場のようでしょ、ふふっ」


「どこからこんなに大量の人がわいてくるんでしょう?」


「さぁ? 不思議ですよね。お願いしてもいいのでしょうか」


「あ、ちょっと待ってください。俺、友達と一緒なので……」


 俺がそう言うと、断られたと感じたのか、彼女はぺこりと頭を下げて、屋台へと戻っていった。そして、乱れ始めた列の整理にあたっていた。



「あっ、リントくん、買取は終わったの?」


「今のお姉さん、知り合い?」


「えっ、あ、うん。ミカトとスイトは、まだ、剣の話をしてるけど。あれ? それ、どうしたの?」


 早瀬さんは、小さな苗木を持っていた。リンゴの苗木だ。


「屋台で売ってたよ。この島って、いろいろな果物を栽培してるでしょ。その農家の店みたい。ウチの庭に植えようと思って」


「それ、リンゴだから、結構、背が高くなるよ?」


「うん、説明も聞いたよ。栄養剤も買ったから、年に何度か収穫できるみたい」


「へぇ、そっか。中村さんは、リンゴ飴?」


「うん、この島のリンゴだって。すごく美味しいよ」


「そっか」


 中村さんにそう言われると、なんだかとても嬉しかった。ちょっと俺、変だな。



次回は、5月16日(土)に、投稿予定です。

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