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77、万年樹の島 〜精霊たまゆらの涙の対価

「おう、久しぶりやな」


 紅牙さんの小部屋は、何かを整理しているのか、作業中の人が二人いた。


「紅牙さん、こんにちは。今日は、初めましての人もいるんですけど」


 ミカトがそう言うと、彼は紅牙さんに軽く頭を下げた。


「うぉっ、なんやねん、おまえ、なんちゃらケンやろ? なんで芸能人なんか連れてんねん?」


「彼は、リントの眷属けんぞくになったんで」


 紅牙さんでも知ってるんだ。彼は、やっぱり有名人なんだね。俺達は、三年前は当たり前だけど、浮き島にいたから、地上のそういう情報までは知らなかったけど。


「如月 賢太です。紅牙さん、はじめまして」


「おう。ふぅん、リント、隠れスキルを使ったんか。あー、それで、きのこが半人前が半人前やのに半人前じゃなくなったとか、わけわからんこと言うとったんやな」


 俺は頷いた。



「紅牙さん、あの魔道具の件で……」


 ミカトは、ペンライトみたいな魔道具のことを切り出している。すると、紅牙さんは、作業中の人達を指差した。


「いま、検品中なんや。俺が来る前に、その話をしに来た奴がおるらしいんや。おでこに赤い石は付いていない普通の人間だったみたいやけどな。引き取りに来る奴がいるから、準備してくれって言うとったで」


「あー、それは、僕のマネージャーです。僕が動くとご迷惑になりそうだったので……」


「やっぱりな、もうちょっと待っとれ」


 紅牙さんは、二人の作業を手伝いに作業台へと移動した。



 彼は、そんなにすぐに動いたんだ。


 俺が、眷属けんぞくに、妖精を捕まえて人体実験をしようとする人達を捜して説得させることを思いついたのは、万年樹のダンジョンに入った後だ。なんていうか、彼の行動力がすごい。


 それに、さっき、イベントを思いついたと言ったばかりなのに、テレビ番組って……そんな権限があるのかな?


「あはは、僕、ちょうど万年樹に来たときに、リントさんの考えが聞こえたので、ちょっと先走りました」


「そう、びっくりしたよ」


「僕達は、なんだか競争意識が強いみたいで」


「うん?」


「他の人達も、動ける人は、いろいろと動き回ってますよ。みんな、リントさんの役に立てることがないかと考えてます」


「そうなんだ。助かるけど、無理はしないでほしいな」


 俺がそう言うと、彼は胸に手を当てて頭を下げた。うーん、そんな、感謝されるようなこと言ってないんだけど。



「ケン、さっき、テレビ番組って言ってだけど、そんな企画があるんだ」


 ミカトが、俺が疑問に思ってたことを彼に尋ねた。そうだよね、もともと、そんな企画があったのかな。


「あれは、さっき思いついたんだ。何か面白い特番をしようという話はあったけど、具体的には何も決まってなかったんで。でも、今頃、マネージャーが調整してると思うよ」


「面白いかな?」


「大丈夫、面白くするよ。それに、ダンジョン内にカメラが入るから誘拐の抑止力にもなると思うんだ。他の人の情報だけど、ダンジョン内では、毎日かなりの行方不明者がいるって聞いて……」


「ダンジョンは人工樹の場合は、精霊の加護がないから、モンスターにやられてしまう人も含まれるよ。ミカンの妖精の血をひく人は多いけど、本人も気付いてない人もいるから、行方不明者の種族はわからないと思うよ」


「ミカト、それが、行方不明者は、万年樹のダンジョンに多いみたいなんだ」


「あー、俺がこの辺で、ウロウロしてることが知られているからだね」


 ミカトは辛そうな表情をしていた。もちろん、ミカトだけが狙われているわけでもない。スイトだって狙われてる。


 やはり、万年樹の島には、浮き島の妖精の屋敷があるから、特に狙われるんだろうな。




 紅牙さんが、大きなカゴを俺達の目の前に置いた。


「検品完了分や。これで、妖精狩りしてる奴らを捕まえるんか?」


 紅牙さんは彼に尋ねたが、彼は俺の方を見た。番組イベントのことは、ミカトと話してたのに、やはり、俺が絡むといちいち確認するんだな。


 紅牙さんも、それに気づいたみたいだ。


「あぁ、リントに聞かなあかんねんな」


「紅牙さん、俺もまだ慣れないですけど」


「はは、王族が何を言うてんねん。バナトなんて、いつも偉そうにしとんで」


「あはは、でしょうね」


「リント、妖精狩りしとる奴らはかなり腕が立つで。おまえの下僕はただの妖精やろ。人間よりも非力なんちゃうか?」


「はい、確かに弱いです。なので捕まえるんじゃなくて、説得してもらうんですよ。説得できなくても、情報を噂として流すだけでもいい」


「やめとけって言うても、聞くわけないで」


「脅せばどうですか?」


「コイツらが脅しても怖がらへんで」


「彼らの額の赤い石を使うんですよ。人間以外には見えますよね?」


「人間でも、魔力の高い奴らには見えてるやろ。吹出物に見えるかもしれんけどな」


「額に同じ赤い石を持つ人が何人もいることがわかれば、その主人を怖れませんか?」


「あー、なんや。おまえ自身を使うんか。なるほど考えたな。あのバケモノを怖れて、妖精狩りも、リンゴの妖精には絶対に手出しできへんからな」


「リンゴの妖精では人体実験にならないからじゃなくて?」


「いろいろ考える科学者がおるみたいや。日々、言うてることが変わるし、ようわからんけどな。あのバケモノは、リンゴの妖精を守ってるかもしれんらしいわ」


「えっ……」


「へんてこりんな魔物もどこからか湧いてきたしな」


「変な魔物?」


「あぁ、魔道具にしか探知できない未知の魔物や。目には見えへん。あちこちの千年樹のダンジョンに出没する、妖精狩りを狩る魔物や」


「カルデラ?」


「なんや、知っとったんか」


 俺は思わず、ミカトとスイトを見た。妖精狩りを狩る魔物なら、味方なんじゃないの?


「たまゆら千年樹のダンジョンで交戦しましたよ。逃げられたけど。その、精霊たまゆらのものなんですけど」


 そう言うと、スイトは、黒い玉を魔道具でつまんで見せた。


「まさか、精霊の邪気か?」


「はい、精霊たまゆらの涙です。買い取ってもらえませんか。持ってるだけでも大変なんで」


 紅牙さんは、容器を出した。スイトはその中に、全部入れたみたいだ。


「これを買い取る金は今はないで。預かって売れてからでもええか?」


「それなら、対価は俺達三人の剣が欲しいんですけど」


 すると、紅牙さんはニヤッと笑った。


「わかった。それでは足りんから、この魔道具も100個つけたるわ」


 精霊の黒い涙って、そんなに高価なんだ。俺は驚いた。紅牙さんの剣なんて、めちゃくちゃ高いのにー。



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