76、万年樹の島 〜なんだか慣れない
「如月くん、いい感じだったよ」
「ありがとうございます、リントさん」
やはり、彼は心底うれしそうな笑顔を浮かべた。でも、なんだか、偉そうな言い方になってしまったかな。いや、彼は、俺の眷属だから、こういう話し方の方がいいはずだよね。
俺は少し不安になったけど、彼の額の赤い石は、浮き島では下男の印だ。だから、下男だと思って話さなきゃいけないよね。主人が不安定だと、下男は自分の責任だと感じてしまうんだから。
「俺も如月くんって呼ぶ方がいいのかな? あ、俺はミカトでいいから。で、こっちはスイト。それから、中村さんと早瀬さんね」
「ミカトさん、僕は、ケンって呼ばれているので、ケンで大丈夫です」
「あー、そんな丁寧な言葉は、リントだけでいいよ」
「いえ、僕は妖精になったので、王族の方々にそんな態度はできないです」
「でも、なんだか、周りから、おまえは何者だとか思われそうだからさ」
ミカトがそう言うと、彼は困った顔で俺の方を見た。なるほどね、主人からの命令が必要なわけか。
「如月くん、ミカトだけには普通にしていいよ。他の王子には、丁寧にね」
「はい、了解しました」
「ちょ、俺も普通にしてくれていいんだが。おまえらに、エネルギーを供給してるのは、主人だけだぜ?」
彼はまた、俺の方を向いた。いちいち命じなきゃいけないのか。あー、うん、そりゃそうだよね。
「如月くん、スイトも普通に接していいよ」
「はい、了解しました」
「ねぇ、主人がエネルギーを供給って?」
中村さんが、そう、彼に尋ねた。すると、彼は俺の顔を見た。そうだった。精霊ルーフィン様の館でも、下男は、主人のことを尋ねられても何も答えちゃいけないんだった。
「中村さん、そのままの意味なんだよ。主人の魔力を使って彼らは生きているんだ」
「えっ……瀬里奈も?」
「うん、そうだよ。主人が供給できなくなると彼らは生きていられないんだ」
「そ、う……。腐ってたもんね」
「うん、ごめん。他に救う方法がなかった。救えたとは言えないかもしれないけど……。種族も変わっちゃったし」
中村さんは、うつむいた。友達が助かったわけじゃないとわかったからショックなんだ。
「昨日は、泊めてもらったし、きのこさんからは、しばらくは瀬里奈に関わらない方がいいと言われたから、まだ、瀬里奈に何も連絡してないの。種族のことは、仕方ないよ」
すると、彼が口を開いた。
「えっと、中村さん? あのね、そんなに悲しまなくて大丈夫だよ。何がそんなに心配なのかな?」
「わっ、如月 賢太がしゃべった!」
「あはは、しゃべるよ、そりゃ」
「そ、そっか。あの……私の友達が、貴方と同じ状態で……。命が助かったわけじゃないんだって思ったら、なんだか……」
「そうだね、今はまだ僕達は、瀕死の状態かな。供給される魔力は少しずつ体内に溜まっていくんだ。そうしたら、半年くらい離れてても平気みたいだよ」
「半年以上離れたら死ぬの? 離れるって?」
すると、彼はまた俺の方を見た。眷属は、自分の状態の説明はできるんだね。でも、少しでも俺が絡むと判断をあおぐんだ。
でも半年じゃなくて一年って、幼女は言ってたよね? 彼らには半年という説明をしているのかな。もしかしたら、半年で、活動量に制限がかかるのかもしれない。
「中村さん、それはまだよくわからないんだ。たぶん、俺の魔力の問題もあるから。でも、同じ日本の中にいれば、大丈夫だと思う。海外旅行や、タイムトラベルが、離れることになるみたい」
俺がそう説明すると、中村さんはホッとした顔をした。でも、すぐにまた暗い表情になった。
「でも、主人のために……その……」
中村さんは、俺の方をチラッと見て、彼の方を向いた。すると、彼は、ケラケラと笑った。
「あはは、それは心配しなくてもいいんじゃない? 僕も驚いたけどさ。あのとき、中村さんもダンジョンに居たよね。僕達の主人は、ちょっと変わってるんだよ」
「ん? どういうこと?」
「敵に遭遇したら、僕達は主人を守る盾になるのが常識なんだ。でも、僕達の主人は、僕達を盾にするどころか、真逆の行動をとった。僕達に仕事をくれないんだよね。ギブアンドテイクな関係のはずなのに」
そう話して、彼はしまったという顔をした。
「文句ではありません。申し訳ありません」
俺に向かって、胸に手を当てて頭を下げた。いちいちそんなことしなくていいんだけど。
「構わないよ」
俺は、短い言葉を返した。はぁ、なんか慣れないよね。こういうのって。
「ふぅん、そっか。なんだか、よくわからないけど、リントくんでよかったね」
中村さんは、納得したみたいだ。知りたいことを知れたということなのかな。
彼は、アイドルスマイルで、頷いた。中村さんは、ドギマギしたみたいだ。うーん、なんだかモヤモヤする。
「リント、そろそろ紅牙さんがいる時間じゃないか?」
スイトが時計を指差している。もう5時過ぎてる。
「あー、そうだね。じゃあ、お会計して出ようか」
「あれ? 会計の札がないよ?」
ミカトがキョロキョロしている。
「それなら、もう済ませてます。マネージャーが」
「えっ? いいの? やったー」
「あはは、ミカトさんって、なんか動きが芸人っぽい」
彼にそう言われて、ミカトは喜んでいる。変なガッツポーズしてたもんね。早瀬さんも笑ってる。
でも、ご馳走になっていいのかな?
俺達は、紅牙さんがいる買取屋へ行った。
あの話は聞かせたくないからどうしようかと考えていたら、店には幼女がいた。また棚に、まるで人形のように座っている。
その前を通っても、誰も気づかない。
「やっほー!」
「わっ、びっくりした! きのこさん、棚の売り物に化けてたの? 気づかなかった」
「んふふ、でしょー? みんな、びっくりするんだよー」
幼女は、わざとやってるんだ。迷惑な妖精だよね。
「きのこさん、紅牙さんに、魔道具の件で……」
俺がそう言うと、幼女はダルそうな顔をした。
「わかってるわよ。だから、居てあげたんだからね。ほんとに半人前はー。あ、子分連れとは卑怯者!」
何を言っているのかと思ったら、如月くんが、幼女を睨んでいる。子分って、彼のことを言っているらしい。
「みくちゃん、結花ちゃん、ここ、あたしの店なの。欲しい物があるなら、お友達価格にするよっ」
「きゃー嬉しい!」
幼女は、二人を預かるつもりで、ここに居たんだ。
「中村さん、早瀬さん、俺達、奥の買取屋に居るから」
そう声をかけ、紅牙さんの小部屋の扉を開いた。




