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68、氏神様の神社 〜事件の真相

「精霊たまゆら様、俺がリンゴの妖精だということも、わかっていますか?」


「チッ! ワシは妖精などに、かしずかぬぞ」


 彼の身体には、ユラユラとした黒い影が見える。さっきスイトが魔道具で調べたみたいだ。この影が邪気なんだな。


 精霊は、けがれてしまうと精霊ではなくなる。


 そうか、このダンジョンに、無の怪人を追う人達が現れたんだ。そして、何か事件があった。だから、タイムトラベルができないように、精霊は、転移事故を起こしたんだ。


 4階層で会った男は、無の怪人は精霊が守るダンジョンには入れないと言っていたけど、入れないんじゃなくて、入らないんだ。


 無の怪人、リンゴのバケモノは、ダンジョンの機能を使わなくてもタイムトラベルができるんだから。


 万年樹のダンジョンでさえ、人工魔物が侵入する。千年樹の精霊に、無の怪人が入れないようにするチカラなんて、あるわけがない。



「精霊たまゆら様、邪気が濃くなっていますよ。そのままだと、精霊ではいられなくなる。邪気の理由を話してくださいませんか」


「なんだと? 妖精のくせに偉そうに」


 うーん、なんだか、俺にビビってるみたいだ。弱いのかな。腐木の精霊が守りに来るぐらいだもんね。爺ちゃんは、俺のことは全く怖れてなかった。逆に信用してくれたみたいだった。


 でも、たまゆら千年樹の精霊は、俺を敵視してるフリをして、実は怖がってるんじゃないかな?


「精霊たまゆら様、もうさっきのような無茶なことはしないでください。俺達を殺すことなんて、貴方にはできませんよ?」


 俺は、ちょっとハッタリをかましてみた。


「わ、わかった。わかっておる。偉そうにするでない」


(意外に、あっさり……)



 スイトが、口を開いた。スイトもわかったんだ。


「精霊たまゆら様、俺はスイカの妖精スイトです。率直に聞きます。俺達に助けてほしいのですね」


「ワシは、妖精なんぞに……」


「そう、それなら、俺達はここから出ます。もうこの千年樹には近寄らない。他の妖精にも、近寄らないように忠告しておきます」


「はぁ? 勝手にワシのダンジョンから出られると思うなよ?」


 すると、スイトは精霊に冷たい視線を向けた。この視線、怖いんだよね。見捨てられそうな恐怖感に襲われるよ。


「邪に堕ちた精霊の目には、これはどう映るんだろうな。これを封じるチカラがあるとでも?」


 スイトは、魔道具を取り出した。帰還石だ。鉱石の精霊の加護が備わっている。鉱石の精霊は、精霊の格でいえばかなり高いはず。つまり、チカラが強いんだ。



 すると、精霊たまゆらは、崩れるようにその場に座り込んだ。小さな声で何か言っている。やめてくれ?


「くそっ、なぜ妖精なんかに……」


 あれ? そういえば、この千年樹には妖精はいないのかな? 万年樹には、俺を敵視する幼女がいる。でも、ここには妖精の姿はない。


「精霊たまゆら様、ここには妖精はいないのですか? どの千年樹にも妖精がいるはずですが」


 俺がそう尋ねると、まさかの展開になった。精霊がポロポロと涙をこぼし始めたのだ。だが、その涙は黒く、地面に落ちるまでにコロコロとした丸い球体に変わった。


 俺の足元に転がってきた球体に触れようとすると、スイトがそれを制した。


「リント、素手で触るな。邪気の玉だ」


「えっ? わかった」


 足元には、黒い玉がいくつも散らばっている。その玉はだんだん硬くなっていくように見えた。

 鹿のフンみたいだったのに、ギュッと凝縮されて縮んだのか、小さくなっていった。なんだか、宝石みたいだな。キラキラし始めている。


 スイトは、魔道具を使って、硬くキラキラし始めた玉を回収していた。邪気の玉を放っておくのは危険だもんね。




「ふぅ、恥ずかしいところを見られてしまった」


 精霊たまゆらは泣き止むと、その声は柔らかくなっていた。そして、スイトが黒い玉を回収し終えるのを待っているようだった。


「ふむ、真っ黒じゃのう。硬化したなら、もはや元には戻らないはずだ。集めて何に使うのだ?」


「邪気を含んだ精霊の涙は、薬として、いろいろ使えるんですよ。非常に貴重で高価なものです。今回の迷惑料として、いただいておきます」


「腹黒いやつじゃ」


 スイトは、冷たい視線で精霊を睨んでいた。きっと、スイトは、これをここに置き去りにすると逆に危険だからすべて回収したんだ。


 このままにしておくと、これを求めて、大量の冒険者がダンジョンを荒らしにくる。そうなると、チカラの弱い精霊のダンジョンは、きっとまた何か事件が起こるもんね。




「精霊たまゆら様、お話いただけますか」


 俺がそう言うと、彼はやっと話し始めた。


「ワシは、些細な口論で妖精を失った。じゃが、妖精がいないとダンジョンは、人間達が好き放題するようになったのだ」


(口論……ケンカ別れなんだ)


「十数年前から、タイムトラベルをするバケモノ狩りが始まった。ワシのダンジョンは5階層までしかないから、どんな時代にも行きやすく、人間達は頻繁にやってくるようになった」


(千年樹だから、千年以内のタイムトラベルだよね)


「ワシは放っておいた。するとバケモノが現れたのだ。ワシがバケモノ狩りに加担していると難癖をつけ、千年樹を滅ぼすとな。知らぬことだと説明しても聞かぬ。バケモノは樹の霊力を吸い取るのじゃ。ワシは急速に衰えていった」


(だから弱いんだ)


「ワシは、やめろと……やめてくれと頼んだが、バケモノは聞き入れなかった。だから、ワシは、転移事故を起こし、転移魔法陣を壊したのじゃ。するとバケモノは、ワシをさげすみ、ののしり、そして高笑いの声を残して消えていった」


(はぁ……)


「転移事故の後は、人間が減った。減りすぎたのだ。さらに、転移魔法陣は海底都市のどこかと不定期に勝手に繋がるようになった。最下層には、妙な魔物が出入りするようになったのじゃ」


(だから、ボス部屋に結界か)


「すると、ますます人間は寄り付かず……人間が来なくなるとダンジョンは朽ちていく。だから、ワシは仕方なく神社の巫女を使って人間を誘導し始めた。じゃが、妙な魔物が巫女を操るようになり、人間の魂を喰うために、誘拐まがいのことを始めた。あとは、知っているだろう」



 スイトは、呆れた顔をしている。こんなダメな精霊もいるんだね。すると、スイトは口を開いた。


「精霊たまゆら様、ご自分がやるべきことは、おわかりですね?」


「な、なんじゃ」


「ケンカ別れした妖精に謝り、戻って来てもらえるよう説得しなさい。そうすれば、すべて収まるはずです」

 


次回は、5月2日(土)に更新予定です。

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