表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/153

66、氏神様の神社 〜彼らを救う方法

「中村さん……大丈夫?」


 俺が声をかけても、彼女は振り向かなかった。俺は彼女が触れている何かを見ようと、彼女の前にまわった。


 硫黄のような、何ともいえない臭いがする。そこに居たのは、中村さんと仲が良かったという女性だ。

 でも、顔はきれいだが、胸から下は腐っているように見えた。強烈な腐敗臭がする。だが、死んでいるわけではない。わずかに動いている。



『この人を治すにはどうすればいいの?』


『精霊が守っていた人達すべてですか』


 スキルにそう言われて、周りを見回すと、この層にたくさんあった木はなくなっていて、地面にはたくさんの何かが転がっている。そうか、これ、すべてが人間なんだ。


『そんなことはできるの?』


『精霊が残したエネルギーがありますから、それを利用すれば可能ですが……』


『問題がある?』


『はい、人間ではなくなります』


『えっ……バケモノ?』


『いえ、眷属けんぞくになります』


『奴隷みたいなもの?』


『配下ですね、裏切ることができない関係になります』


『見た目は人間になるの?』


『それは、私にはわかりません』


 そうか、あの腐木の精霊は、木に閉じ込めて彼らの命を守っていたのは、配下を得るためだったのか。


 確かに、無償で長い間、ここを守っていたのは不自然なことだもんね。さっさと帰っていったのは、自分がいなくても俺が配下を作り出すと思っているからだ。


(でも、こんなこと、俺の独断で決められないよ)



「中村さん、人面樹になっていた人を救う方法があるみたいなんだ」


 俺がそう言うと、彼女はパッと振り返った。


「リントくん、どうすればいいの? 今すぐやって! お金なら出来る限り集める」


 あー、そっか、中村さんの父親は政治家だったから、そういう発想なんだ。


 ミカトやスイトは、何か事情があるとわかったみたいだ。複雑な表情をしている。


「お金はいらないし、今すぐにできそうなんだけど、ちょっと問題があるんだ」


「どういうこと? あ、魔力が足りない?」


「いや、精霊が残したエネルギーを使えばいいみたいなんだけど、彼らは人間ではなくなるみたいなんだ」


「えっ? 魔物になるの?」


「姿はわからない。それに、眷属になるみたいなんだ。配下というか奴隷というか」


「さっきの爺ちゃんの?」


「いま、残されているエネルギーは、腐木の精霊のものだから、たぶん……」


 すると、中村さんは、友達の顔を見た。生きているとはいえないような姿だ。顔だけは人間のままだけど、身体は腐って部分的に溶けている。


 魂を喰われていると言ってたっけ。いま、生かしたとしても、そう長い時間は生きられないかもしれないな。


「リントくん、いいよ。それでもきっと、みんなこのまま腐りたくはないと思う」


 ミカトやスイトも頷いている。そうだよね、こんな風に生きたまま腐りたくないよね。


 どんな姿になるかはわからないけど、今よりはマシなはずだ。


「わかった、やってみる」


 中村さんは、立ち上がった。邪魔にならないようにしようと考えたみたいだ。早瀬さんも、ミカトの近くへ移動していた。



『この人達を救いたい。準備を始めて』


【隠れスキル「眷属化」を発動しますか】


(うん? 隠れスキル?)


 俺は目線で、イエスを選んだ。


 戦闘中じゃないのに、文字で聞いてきたけど、何か意味があるんだろうか?


 俺は、ふわっと勝手に空中に浮かび上がった。ちょっと、何? 聞いてないんだけど。


 そして、俺に地面から臭いニオイが上がってきた。

 うえ〜っぷ。ニオイはどんどん俺にまとわりついてきた。


 まさか、眷属化って、俺があの爺ちゃんの奴隷になるんじゃないの? 完全に腐木の気分だよ。


 俺が、臭さの限界を迎えたとき、ニオイはふっと消えた。そして、俺の身体から、地面に向かって強い光の雨が降った。


 一瞬、ミカト達にも当たるかと焦ったけど、キチンとターゲティングされている。地面に転がっている人達を狙って、光の雨が降り注いだ。


 そしてその雨が止むと、俺の身体はスーっと地面に降りた。地面では、あちこちに光の塊が動いていた。光の塊の中で、身体が作られているみたいだ。


【無事、186体の眷属化に成功しました】


 確認ボタンまでが出てきた。俺は一瞬イエスを目線で選択しそうになったが、なぜこんな確認ボタンが出てくるのか、違和感を感じた。


『この確認ボタンは何?』


『最終作業の許可の確認です。目線で選択してください』


 光の塊の中では、ゴソゴソと動いている。あのエネルギーを吸収して身体を完成させる確認?


『ノーを選ぶとどうなるの?』


『作業を中断し、規定に基づき無に帰ります』


『死ぬの?』


『はい』


(ちょ、そんなことありえないよ)


 俺は、目線でイエスを選択した。


【186体の眷属を獲得いたしました】


 もう確認ボタンは現れなかった。ふぅ、うっかり殺してしまうところだった。危なかったな。




 俺は、ミカト達の方へと、移動した。


「リント、終わったのか? 魔力は大丈夫か?」


 スイトは、心配そうな顔をしていた。


「うん、あとは待つだけだよ。どんな姿になるかは不安だけど」


「スキルは、まだ解けないね。解けてリントが倒れたら、すぐにポーションを飲ませるからね」


 ミカトも心配そうにしている。確かに魔力を使い過ぎている気はするよね。


「ほんとだ。いつもならだいたい終われば、勝手に戻るのにな。まだ、終わってないからかも」


「いまも、光の維持をしているんじゃないか? 一気にやるのは無謀なことじゃないのか」


「たぶん、それは大丈夫だと思うよ。ただ、もしかしたら、俺が爺ちゃんの眷属になったかもしれないんだよね」


「えっ? どうして?」


「さっきの俺、腐木になった気分だった。ちょー臭かったんだよ」


「空中で光ってたとき?」


 ミカトの問いかけに、俺は頷いた。そっか、光ってたのか。あまりにも臭すぎてわからなかった。



「あっ! リント、あれ?」


 ミカトが指差した先を見て俺も驚いた。あの人達、顔は人間の顔のままだけど、額に赤く丸い小さな石がついている。そして、俺達の方に歩いてくる。


 天空に浮かぶ浮き島では、生れながらの下男の額には、主人の印がついている。


「ちょ、まさか……」


 驚いたスイトが、魔道具を取り出していた。そして、彼らに向けている。


 その様子に、中村さんや早瀬さんも、驚いていた。スイトが慌てるなんて、普通はありえない。


「スイトくん、いったい、どうなったの?」


 すると、スイトは俺達に魔道具を見せた。


『種族:フェアリー。戦闘力:弱』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ