63、氏神様の神社 〜精霊の思惑
「自爆して自滅というのは?」
『たまゆらがな、ここをタイムトラベルに使われたくなくて、転移事故を起こしたのじゃ。そうしたら、不安定な魔法陣だと悪評がたち、誰もタイムトラベルに使わないと考えたらしい』
「なるほど、ここの精霊は人を寄せつけたくなかったんですね」
『うむ、じゃが、転移事故に巻き込まれた奴が何かの魔道具を使って、いびつな経路でここに戻ったようじゃ。そのせいで、地上の妙な場所と、不定期に勝手に繋がるようになったのじゃ。たまゆらは、阿呆なのじゃ』
なんだかよくわからない仕組みだけど、ここの精霊がわざと起こした転移事故から戻ろうとして、冒険者が何かしたってことかな。
普通、事故なんかが起こったら、戻ろうとするよね。冒険者の行動は、ごく当たり前の行動だと思う。
だから、この腐木の精霊は、この千年樹の精霊のことを愚かだ阿呆だと言ってるんだ。
スイトは、声も聞こえないみたいだ。俺が話したことから内容を推察しようとしている。
俺は、なんとか説明した。上手く伝えられていないかもしれない。スイトは、首を傾げている。
(俺自身がよくわかってないからな)
突然、腐木の精霊がいる木から、ふわっと光の塊が出てきた。そして、その光は人の姿に変わった。
「わっ! 人が現れた。こんな場所に転移?」
この姿は、スイトにも見えるみたいだね。
「おぬしが明後日の方向を見ておるからじゃ。この銀色頭にしか話ができんのは、不便じゃからな」
「スイト、ここに葉のない木があるんだよ。このお爺さんは、そこから出てきたんだ。腐木の精霊様だよ」
「おい、小僧、わしは爺ではないぞ。たまゆらよりも、うんと若いのじゃ」
どう見ても、仙人のような爺ちゃんなのに、若いとか言われても……。こんな複雑なタイプにどう返事すればいいのか俺にはわからない。スイトも無理だと思う。ミカトがいないと……。
「あはは、すみません。あの、なぜ人の姿に?」
「おぬしらの伝言ゲームは、まどろっこしいのじゃ。あっちに離れておるのも、仲間じゃな」
「えっ? あ、はぁ」
「隠さずともよい。ここで話しておったことは、すべて聞こえておる。でっかい声にする魔道具はやかましくてたまらんわい」
「あ、拡声器……すみません」
すると、突然、ふっと俺達は、ミカト達の近くにワープした。ミカト達は驚いてるけど、俺も何が起こったのかわからない。
「あ、えっと、リントの能力?」
ミカトが、混乱している。俺は頭をふるふると横に振った。
「阿呆か。銀色頭に、そんなことができるわけないのじゃ。わしの能力じゃ」
「えっと、お爺さんは……」
「誰が爺じゃ? わしは、たまゆらよりも、うんと若いのじゃ」
「ミカト、この人は、腐木の精霊様だよ。この層を守ってるみたい」
「千年樹の精霊のダンジョンに、他の精霊?」
「たまゆらが、愚かなことばかりするからじゃ。わしが守らねば、他の千年樹にも影響がでてしまうから、仕方なく守ってやっているのじゃ」
そして俺は、腐木の精霊から聞いた話を、ミカトと、中村さん、早瀬さんに話した。途中、何度も爺ちゃんに訂正されたから、ほとんど、腐木の精霊が話していたんだけど。
「なるほど、状況はわかりました。腐木の精霊様、人の姿になって、俺達の前に姿を現されたのは……」
ミカトが、爺ちゃんに問いかけた。さっきは、伝言ゲームがと、はぐらかされたけど、きっと目的があるはずだ。
「ふむ、おぬしらは、ここにいる人間を外に連れて行ってくれるのじゃな?」
「俺達は、行方不明になった人達を捜しにきましたから」
「じゃあ、連れ出してくれるのじゃな?」
「はい、もちろんです」
ちょっと待って。ミカトは、にこやかに話しているけど、爺ちゃんはなんだか……。スイトも、気づいたみたいだ。嫌な予感しかしない。
「じゃあ、あの石室の中の奴らを討伐してくれるのだな? じゃないと、出られぬぞ」
「4階層に戻れば、外に出られるので」
「何を言っておる。それでは変わらぬではないか。また、人間が、ここに続々と運ばれてくるから、わしは帰れないではないか」
爺ちゃんの狙いは、それか。ここを守っていくのはもう嫌だから、俺達になんとかしろと言うために、人の姿で現れたんだ。
スイトは、ミカトに、残念な人を見るような眼差しを向けている。ミカトも、爺ちゃんの策略にハマったと気づいたのか、スイトに苦笑いを向けていた。
そして、スイトに目配せをした。ミカトのギブアップだね。ミカトに代わって、スイトが口を開いた。
「ここに人間を運んでいるのは、誰ですか」
「うん? あの石室の中にいる奴が、ダンジョン近くにおる人間を乗っ取っておる。そして、ここにどんどん送り込ませておるのじゃ」
「何のために? 食べているわけでも……」
「いや、食っておる。わしは、送り込まれた人間を生かしておいてやることしかできん」
「食っているって、あの石室から出られないのでは?」
「出られなくても近くにいれば、操れる魔物もいるぞ? 食われているのは、メンタルじゃ。ここにいる人間は眠っているじゃろ。もはや起きていられないほど、魂が消耗しておる」
「人の魂を食う魔物……」
スイトは、俺の顔を見た。ちょっと待って、俺、そんなの無理なんじゃないかな。
「おぬしらの関係はわかった。銀色頭の小僧は、決断力がない。だから、精霊の使徒には最適じゃな。勝手に暴走はせぬだろい。あー、いや、なるほどな、別の理由もありそうじゃな」
「腐木の精霊様、俺が精霊の使徒に選ばれた理由がわかるんですか」
「小僧、知りたいか?」
「は、はい。あ、いや……」
(しまった。これって……)
「ハッハッハ、妖精は単純だから扱いやすいのぅ。ちょちょっと、討伐してこい。おお、そうじゃ。石室から飛び出してしまうと危険じゃな」
そう言うと、爺ちゃんはふわっと二つ光を放った。
「ちょっと、何するんですか!」
ミカトは怒った。でも、理由はわかっている。安全のためであり、そして人質でもある……。
「こうしておけば、一瞬で食われることもないだろう」
中村さんと早瀬さんは、木になっていた。だが、そのことに気づいていないみたいだったが、早瀬さんが中村さんの方を向いて叫んだ。
「みく! 人面樹になってる!」
中村さんは、俺の方を見て、ボーっとしていた。ショックが強すぎたみたいだ。
「リント、ミカト、やるしかないな」
俺達は、頷いた。
その瞬間、俺達は石室の前にワープしていた。




