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61、氏神様の神社 〜ダンジョン最下層

「な、なぜ殴るかな」


 中村さんは、ハッとしてうつむいた。何? 


 俺は、中村さんに、無の怪人というバケモノだと思われているのかな? どう弁解すればいいんだろう。


「あはは、中村さんは大丈夫そうだね。リントも気にしないように。じゃあ、最下層に進もう」


 ミカトは、俺の顔をチラッと見たあと、明るくそう言った。ミカトには中村さんの考えてることがわかってるのかな。俺には全くわからない。


「うん、そうだね。みく、大丈夫だよね」


「大丈夫……かな」


 いつもの中村さんとは違う。俺の方をチラッと見て、すぐに目線をそらした。怒った顔をしてる。でも、なんだろう? 俺が怖いのかな……だよね。俺も、このスキルは、バケモノスキルだと思うし、それに……はぁ。



 あの男が消えたあと、外への転移魔法陣が現れた。たぶん5階層への階段も、うん、すでにスイトが扉を開いている。


 俺達は、たまゆら千年樹のダンジョン、最下層の5階層へと、階段を下りていった。




「何これ……」


 さっきまで笑顔だった早瀬さんも、最下層に足を踏み入れた瞬間、一気に動揺していた。


 俺は、さっきスキルを使ったときに、この5階層の様子は見えていた。でも、遠視で見えるのと、近くで見るのでは、その印象は全然違う。


「リント、これはどうする? 俺にはどうにもできないぞ」


「うん、精霊に頼むしかないと思うよ」


 この階層は、深い森のようになっている。4階層は幻想的で美しかったが、ここは怪しい雰囲気の森だ。


 そして、ほとんどすべての木には人の顔がついていたんだ。人面樹というより、人が木に取り込まれている感じだ。


 おそらく、あの男は、捕まえた人間を木に閉じ込め、そして木の養分を人間に吸収させて生かしていたんだ。


 木の幹には不自然に削られた場所がある。そこは樹液がにじみ出している。触れてみると魔力を感じた。


 あの男は、人間の血が必要だと言っていたが、木と一体化させれば、この樹液が血液の代わりになっているのか。この樹液をすすっていたんだな。



 中村さんは、一本の木の前で呆けた顔をしていた。その木には、女性の顔がついている。親しかった子が消えたと言っていたけど、彼女がそれなのかな。


「みく、これって、瀬里奈じゃない?」


「うん、そうみたい」


 早瀬さんは、木に向かって呼びかけていた。でも、その顔は眠っているようだ。この女性だけじゃない、木についた顔はみんな眠っているのか、目を閉じている。




『たまゆら千年樹の精霊、聞こえますか?』


 俺は精霊に呼びかけてみたが、返事はない。あたりを見回し、霊力のある木を探した。だが、どの木にも強い霊力はない。


 だけど、ボス部屋には、何が居る。完全に結界を張っているみたいだ。だけど、揺れ動く何かが見えたんだ。


(あの男、かな? でも、気配が複数?)



「リント、どうした?」


「うん、スイト、ボス部屋に何かいる。完全に結界が張られてるから何かはわからないけど」


「さっきの男か?」


「一人じゃないみたい。複数だよ。なんだろう。もうあの男は、このダンジョンにはいないと思う。それに、あの男の食料は5階層にあるのに、アイツは4階層で暮らしていたみたいだよね」


「あぁ、それは妙な気がしたんだ。4階層の景色が気に入ってたのかもしれんが」


 スイトと話していると、ミカトが近寄ってきた。中村さんと早瀬さんは、木をぼんやりと見つめている。まだ、ショックから立ち直れないんだ。


「ちょっとちょっと、それって、さっきの連続殺人鬼よりヤバイのがいるってこと? 無の怪人って呼ばれてた怨霊?」


「ミカト、さっきの殺人鬼が、そのバケモノは精霊の守るダンジョンには入れないって言ってなかったか?」


「そっか、だよね。確かに」


 うん、ボス部屋の中にいるのは、リンゴの妖精のバケモノではない。なんだろう。結界が張ってあるのに、嫌な感じがする。この5階層の、ただのボスなのかもしれないけど。


「リント、結界はどっち側だ?」


「ん? スイト、意味がわからない」


「ボス部屋の内側に張ってるのか、外に張ってるのか。内側なら、ボス部屋を覗かれたくないからだろうが、外側なら、ボス部屋から何かが出てこないように封じているってことになるだろ」


「あっ、なるほど。でも、近寄らないとわからないよ」


「じゃあ、二手に分かれようか。ミカト、女子二人についてて。俺は、リントとボス部屋を確認する」


「えっ、どうして?」


 即座に、中村さんが抗議した。


「わかってるだろ。リントは、もしものときに、4人も守れない。だが、俺一人ならなんとかなるだろう」


「でも、じゃあ……」


「それはダメだ」


「ちょ、スイトくん、私まだ何も言ってないじゃない」


「中村さん、リントに一人で確認して来いって言おうとしたんでしょ。ダメだよ。リントの病気が出ちゃうよ」


(いやいや、俺、一人でできるけど)


「ミカトくん、何? その病気って」


「言わない。リントが怒るもん」


 まぁ、確かに、誰かが一緒の方が安心だけどさ。そんな、病気ってほどの大げさなものじゃないし。ただ、ぼっちが嫌なだけだからさ。



「リント、いくぞ」


「う、うん」


「ミカト、俺らが引き込まれて戻れなくなったら、4階層に戻って外に出ろ」


「スイト、わかってる。そんときは、紅牙さんに助っ人を頼んで戻ってくるから」


「あぁ」


 スイトは、なんだか先読みしているみたいだ。そこまで危険なことでもないと思うけど。慎重だよね、こういうときのスイトって。




 俺達は、ボス部屋に近寄った。ミカト達は、肉眼では見えない距離まで離れている。

 スイトは、拡声器みたいなものを取り出していた。そして、見たままの状況を、拡声器を使ってしゃべってる。ミカト達にも状況がわかるようにしているんだね。


 結界は、ボス部屋の外に張ってあった。


 中からは、時々、何かがぶつかった振動だけが伝わってきた。この結界は、音も遮断しているみたいだ。


「スイト、中にいるのは、魔物みたいだね」


「あぁ、ここの神主以外の奴らが、ここに学生を誘拐して送り込んだなら、コイツらの餌にする気じゃねぇか?」


「えっ? 学生は、さっきの男が、捕まえていたんじゃないの?」


「精霊からのギフトって言ってたじゃねぇか。あの男は、ここの仕組みを利用してただけなんじゃないか?」


「そうなのかな」


「あの男に、人間を木に閉じ込める能力があると思うか?」


「ん?」


「精霊がすべて、善だとは限らないぜ」




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