6、万年樹の島 〜頼りになる友
俺達は、赤い灯の扉にたどり着いた。さっきいた人達は、既にダンジョンの外へと出たようだ。
「ミカト、これ、出口だよね」
「うん、たぶんね。もう出る?」
「この袋、まだ全然重くないんだよね」
「リント、まさか、穴とか空いてないよね? たくさん拾ったはずだけど」
俺は歩いて来た道を振り返ってみた。別に何も落ちていないように見える。
「大丈夫だと思うよ。でも、軽すぎるかも」
「リントは、体力なかったよね? 変身するとなんだか凄かったけど。あっ、ダンジョン内だから軽いのかな」
「えー、出た瞬間、めちゃくちゃ重くなったら、俺、倒れる自信あるよ」
「倒れるな、ふんばれ〜! あはは」
俺は、やっぱりミカトと一緒にいるのが、一番楽しい。精霊ルーフィン様の館では、他の王子達とも一緒に育ってきたから、彼らと別に仲が悪いわけではないけど。
彼のミカン王国は、フルーツの妖精の浮き島の中では、第3位の勢力だ。第1位はバナナ王国、だからバナナ王子は態度がデカイ。第2位は俺の兄貴が継ぐリンゴ王国だ。
なんとなく立場も似ているのかもしれない。対等に話ができて、頼りになる友達だ。ずっと友達でいたいと思う。
でも、ミカトは、浮き島に戻る気はないみたいだ。だから、俺が兄貴のために浮き島に戻ると、ミカトとは永遠にさよなら……なんてことになるのかもしれない。
だけど、戻る条件は、具体的に何をすればいいのかわからない。精霊の使徒になったから戻れない、なんてことはないよね?
「おーい、リント、何を呆けてるんだー」
「あ、いや、なんでもない」
「ふっ、なんでもない顔じゃないのはわかってるんだ〜」
「あはは、変顔やめて。ヒャハハハ、腹が痛い」
ミカトは、俺が憂鬱な顔をするといつも変顔をする。人間の姿での変顔は、めちゃくちゃ強烈なんだけど。
「めちゃくちゃウケてる」
「だって、人間の姿で変顔って、破壊力ハンパないから」
俺がそう言うと、彼は満足そうな笑みを浮かべた。
「人間の姿も、悪くないね」
「えー、のっぺりした顔じゃない」
「でも、俺の変顔、破壊力が超強力になった感じじゃん」
「武器なのか? おまえの変顔は」
「ふっふっふ、そうだともリンゴくん。ふっふっふ」
「俺はリントだぞ、ミカンくん。ふっふっふ」
「どっちでもいいじゃん。おまえだって、ミカンって言ってるしー」
「あはは、なんか、アホくさくて楽しい〜」
「俺も〜。こんなことをバナナ王子の前で言ってると、めちゃくちゃキレられるし、他の王子は冷たい目で見るし。リンゴだけだよ、バカ言ってられるのって」
「それって、俺がバカみたいじゃない」
「ふっふっふ、似た物同士なんだよ、リンゴくん」
「えっ? 俺もそう思ってた〜」
「あはは、奇遇だねー。ってか、そろそろ出る?」
「だね」
俺達は、赤い灯の扉を開けた。扉の中は、丸い部屋になっていた。そして、床に魔法陣らしき模様が描かれているのを見つけた。
「ミカト、あれに乗るのかな?」
「転移魔法陣みたいだね。たぶんあれで出口に運ばれるんじゃない?」
ちょっとビクビクしながらも、俺達は床の模様の上に立った。いや、ミカトは平気な顔をしているか。
『外は、夜です。気温は15度、曇り。転移を開始します』
頭に直接響く声が聞こえた。俺は、思わずミカトの服を掴んでいた。転移事故があるかもしれない。もし、ひとりで見知らぬ場所に放り出されたら、戻れる気がしない。
「あはは。リント、地上に降りてくるときも、俺の服を掴んでたよね」
「そ、そうだっけ? ひとりだけ、どこかに飛ばされたら、生きてらんない気がするし」
「そんなこと滅多にないよ。心配症だな〜」
いや、違う。心配というより、俺はひとりになるのがコワイんだ。なぜだかわからない。でも、ぼっちは嫌なんだ。
床の魔法陣が光った。俺は思わず目を閉じた。
「おーい、リント、もう外だよ」
その声に、目を開くと、ミカトのニヤニヤした顔が目に飛び込んできた。
「あぁ、一瞬だったね。地上に降りるときは、もっと時間がかかったけど」
「距離が全然違うじゃん。しかし、リントの意外な欠点を発見したな。転移が苦手なんだ」
「いや、そういうわけでも……。おっと、ここは何?」
俺達が立っている場所は、まるで祭りでもやっているかのような、賑やかな広場だった。たくさんの人がいる。広場を取り囲むように店が並んでいた。
「買取店があるって、まんじゅ爺が言ってたよね。どの店かな? それにもう夜になってたんだね。まさかのモンスターだったからな」
「だね。あっ、ミカト、あれって」
俺は、看板に気がついた。初めての方と書いてある。
「初心者を騙そうって店なら困るけど」
「ミカト、そんなことは心配しなくても大丈夫じゃない? 悪意があればわかるし」
「いや、リントは半分妖精の力が残ってるかもだけど、俺は人間だよ。人間にそんなのわかるのかな?」
「じゃあ、俺がちゃんと見極める。ミカンくん、任せろ」
「ふっふっふ、おぬし、なかなかやるよのぉ〜」
「いや、まだ、何もやってないし」
「あはは、リント、そこは、うまい返しをしないとー」
「ちょ、そんな急に高度な要求しないで。むちゃぶりじゃん」
「ふっふっふーっ」
俺達は、初心者看板の店に近づいた。店の中は、すごい人だ。こんなに初心者がいるのかな?
「あれー? あたしの敵っ!」
人混みで気づかなかったが、幼女がまるで人形のように、陳列棚に座っていた。
「あ、きのこちゃんだ。さっきは大丈夫だった? 樹の外にも出るんだね」
「うん、平気。あたしは屋敷に住んでるの。公私はきっちり分けなきゃね。えーっと、お兄さんは、何のフルーツだっけ?」
「俺は、ミカンだよ。ミカトって名前を付けてもらったんだ。こっちは、リントね」
「そう。半人前の妖精の名前は、どうでもいいの。ミカトくん、買い取り? みんなもう終わったよ」
(おい、幼女! なんだ、その態度)
「そうなんだよ。どこに行けばいいのかな」
「それなら、あっちの小部屋に行ってみて」
「わかったよ。ありがとう」
幼女は、ミカトにはニコニコ、俺にはフンとそっぽを向いた。はぁ……あのスキルのこと、聞ける気がしない。
俺達は、幼女に教えられた小部屋の扉を叩いた。
「初心者か? あ、その服は……追放された妖精か。まぁ、入れや」
部屋の中には、面倒くさそうな顔をした中年の男がいた。
(感じ悪いな……)