59、氏神様の神社 〜連続殺人鬼の動機
俺達の目の前にいる男は、嬉しそうに目を輝かせた。
「精霊が寄越したギフトってどういう意味?」
ミカトは警戒しながらも、笑顔で尋ねた。
「そのままの意味だよ。精霊は僕に協力しているんだ。住む場所と食事を与えている」
「おまえが勝手に居座っているんだろ」
スイトはケンカ腰だ。男は、スイトのことをすごい目で睨んだ。呪い殺すつもり?
俺は、胸の鼓動がありえないほど速くなった。バクバクと、その音がこの部屋に響き渡っているんじゃないかと思うくらいだ。頭もチリチリとしてきた。ちゃんと呼吸ができていなくて、酸欠になっているのかな。
(コイツは、無理だ。勝てない)
「ギフトって、奴隷にでもするつもり? こっちは5人だよ」
「奴隷なんかいらないよ。3人は……妖精だろ? ここの精霊は、従順なんだよな」
俺達は、こんなに危機感が高まっているのに、女子二人は、全く動じていない。何の話かもわからないのかな。
「ねぇ、冗談はいらないから。ここに住んでるなら、私達のクラスメイトがどこに閉じ込められているか知らない?」
中村さんは、その誘拐犯に何を聞いているんだよ。
「うーん? 会いたいなら連れて行ってあげるよ」
「ほんと? じゃあ案内……」
「中村さん、ダメだ!」
「な、なによ。口を押さえて……勝手に触らないでよ」
俺は、バチンと殴られた。ちょっとひどいんじゃない?
「おまえ、バカだろ。誘いを承諾したら、術にかかる。おまえ、乗っ取られるぜ」
「何を言ってるのよ。スイトくん、ちょっとおかしいよ?」
スイトがカチンときているのがわかった。女子二人には全く危機感がない。怖がらせちゃいけないと思ったけど、逆効果だな。
「中村さん、早瀬さん、よく聞いて! ここは精霊の力が及んでいない。死んだら、戦闘不能でダンジョンの外に放出されるんじゃないんだ。本当に死ぬんだ」
俺がそう言うと、二人は一気に緊張した。
「なんだか面白い話だね。僕、ちょっと退屈だったから、話に混ぜてよ」
男は、あくまでも、普通の人間を装っている。中村さんと早瀬さんは、戸惑っているみたいだ。
ミカトが話を続けた。
「キミは、なぜここに住んでいるの? それに、俺、キミを見ていると頭の中がビリビリしてくるんだよね。何者?」
「ふぅん、妖精は、そりゃ怖いだろうね。僕はもともと妖精を殺すために生み出されたみたいだもん」
そこまで聞いて、みんなの頭の中に浮かんだのは同じ人物だ。早瀬さんは、一瞬で青ざめていた。それを、中村さんが支えている。
「科学者を殺してる連続殺人鬼って、キミのことなんだね。妖精じゃなく、なぜ科学者を狙っているわけ?」
「へぇ、そんなに僕って有名なんだ。嬉しいな。あはは」
「科学者に恨みでもあるわけ?」
「うん? もう科学者は不用だよ。いま必要なのは、魔力を持つ人間だな」
「意味がわからないんだけど。人間を食べるわけ?」
ミカトがそう言うと、男の目つきが変わった。何? 怒ったわけ?
「僕は、バケモノじゃないよ。人肉は食べない。魔力を持つ人間の血をもらうだけだもん」
「吸血鬼!?」
中村さんは叫んで、ハッと口をふさいだ。
「違うよ。僕には牙がない。でも魔力を補充しないと生きていけないからね」
ミカトは、慌てて口を開いた。
「キミは、そもそも薬を打たないと長く生きられないんじゃないの?」
男が今にも襲うんじゃないかと感じて、話題を変えようとしたみたいだけど……。男の目が嬉しそうに輝いた。
「いい質問だね。その鍵は壊したよ」
「また、意味がわからないんだけど。鍵って何?」
「僕の命を縛る鍵だよ。科学者達は、頭おかしいよね。自分達が神にでもなったつもりなのかな?」
「どういうこと?」
「さっき言ってた薬だよ。科学者達は、自分達の血清からそれを作っていたんだ。だから、殺した。その家族もね。その血が途絶えると、僕は自由になったんだよ。変な呪術でも使っていたんじゃない? あはは」
早瀬さんは震えていた。早瀬さんの父親も殺したのか。ミカトは、彼女の様子に気づいて、話を続けた。
「科学者の顔はわかっていても、家族の顔なんてわからないだろ? どうやって見つけたんだよ」
「うん? そんなの簡単だよ。血の匂いだよ。僕、鼻がとてもいいみたい。科学者と、その親と子は同じ匂いがするからね、全部殺したよ。だから、僕は自由になれたんだ」
(全部殺した?)
じゃあ、早瀬さんが生きているということは、彼女の父親を殺したのは、コイツじゃないんだ。あ、そっか。反対派に殺されたんだっけ。
「それで、生きられるようになって、何をしているんだよ」
「うん? そうだなぁ。面白いことかな? もう準備もできたし、この5人も入れたら僕の食料庫は完璧だよ」
「俺達は、おまえの飯になる気はない」
スイトは、剣を構えた。無理だよ、コイツには攻撃なんて通じない。スイトもわかっているはずだ。でも、逃げる方法がないこともわかっている。
「えー、キミ達も僕と遊びたいの? 話で納得してくれるかと思ったから、たくさん話したのに」
「おまえを捕まえて、警察に突き出してやる」
「僕は、そんなの怖くないよ」
あれ? 一瞬、男の思考が見えた。俺達をサーチしたんだ。そして、俺を見て何かが揺れた。何? 俺の何かが怖いのか?
スイトとミカトは同時に、男に斬りかかった。でも、男には攻撃が届かない。何かの強力なバリアで守られている。
ニヤニヤと笑っているだけだ。俺も魔法で援護した。だけど、どの属性を放っても効かない。
「バケモノじゃねぇか……」
スイトは、冷や汗をかいている。ミカトも、今まで見たことがないような表情だ。男は、俺達を殺す気はない。食料にする気だ。俺達の心が折れ、諦める様子を楽しみにしているのか。
(でも、さっきのアレは?)
俺は口を開いた。
「あのさ、キミが素直にここから去るなら、見逃してあげてもいいよ。生きたいなら、普通に人間として社会に溶け込む努力をすればいいじゃない」
「ちょ、リント、何を言ってるんだよ」
スイトには睨まれたが、でも俺の意図が半分くらいはわかったみたいだ。
「何を言ってるのかな? 僕を見逃す? ここから出たら、また食料を集めなきゃいけないじゃない」
「さっき、俺を見て一瞬、ビビったよね。それは、俺がリンゴの妖精だから? それとも精霊の使徒だから?」
そう尋ねると、男から笑顔が消えた。
なるほどね、わかった。コイツにも怖いものがあるんだ。だから、ここにいるのか。
次回は、4月18日(土)に投稿予定です。




