57、氏神様の神社 〜何かおかしいと気づいた
「その殺人鬼は、成長するのか?」
「さぁ、失敗作だから全くわからないらしいよ。でも、人工的に作ったものは、普通はステイタス固定だよ」
スイトの質問に対して、中村さんが答えていた。早瀬さんは父親が科学者だったから詳しいのはわかるけど、中村さんもいろいろなことをよく知っている。
俺には人の悪意がわかるから、中村さんが、適当に話しているわけじゃないことがわかった。
「もし、成長しているなら、今のリントよりも能力は高いんじゃないか?」
「確かに、そうよね。それに使った魔力の回復はしないはずだもの。お湯を作り出すためなんかに、魔力は使わないよ」
「あはは、うん、わかってるって。でも、みく、それも失礼だよ。お湯を作り出してくれたから、その温かいコーヒーが飲めるんでしょ」
早瀬さんは、いろいろと気にするタイプだよね。別にそんなこと、失礼だなんて思わなくていいのに。
「あっ、掲示板見て!」
中村さんが何かに気づいたようだ。俺達は、彼女が指差す方を見ると、ちょっと怖いことが書いてあった。
『4回層の転移魔法陣、不安定、故障中。外へ出られない可能性が高いため、注意してください』
「どういうこと? 故障なんてするのかな?」
「4階層に行かせないための掲示じゃないのか?」
俺は焦ったが、スイトは冷静だった。
「でも、壊れてるなら閉じ込められるかもしれないよ」
早瀬さんも焦っている。
「リントくん、転移魔法は使えないの?」
「みく、そんな無茶苦茶なこと言って。青空くん達はいつも、転移魔法陣を使って登校してるじゃない」
「あ、そっか」
うん? 俺は転移魔法を使えるのかな? 使おうとしたことがないんだけど……。
「リントは、転移魔法は使えないよ。転移できるなら、浮き島に戻れるじゃん。使う能力はあっても、きっと使えないようになってるよ」
珍しくミカトが分析力を発揮した。スイトも頷いている。だよね、転移できるなら、浮き島に戻れるもんね。
そのミカトの話を聞いて、二人は暗い表情になっていた。
「あれ? 二人とも、なんだか暗いよ?」
「ミカトくん、ここでもうやめておこうよ。祭りの治安維持のミッションに戻らなきゃ」
「ちょっと待て。そのおとりは……神社の要請だよな? 誘拐犯が現れたら、誰が捕まえるんだ? そんな話は聞いていないぜ」
「たぶん警察が……あれ? お巡りさん見かけた?」
早瀬さんは中村さんと顔を見合わせた。二人ともおかしいと気づいたようだ。
「結花、このダンジョンに入る前に、巫女さん風のお姉さんに、お茶を飲むかと誘われたよね?」
「うん、声をかけてもらったね」
「おかしくない? 特技高校の生徒かと聞いてから誘ってきたじゃない。祭りの屋台もたくさんあるし、金券もたくさんもらったのに」
「そうかな? あっ、確かに外は暑いのに、お姉さんは急須を持ってたみたいだった……暑いのに熱いお茶?」
俺は、たまゆら千年樹の精霊から聞いた話を、もう一度、整理して話した。そして自分の考えも加えた。
「たぶん、神社の神主以外の人達が、誘拐の手助けをしているんじゃないかと思うんだ。だから、逆にこのダンジョン内にいる方が安全だよ」
「リントの言うとおりだな。この先に行くのが怖いなら、ここで待っていればいい。俺達だけで行ってくる」
うん、俺もスイトと同じ意見だ。二人はここで待っている方が安全だから、その方がいい。
でも、彼女達は、不安そうな顔をした。
「ねぇ、みんな忘れてない? 階層の移動は階段だよ? 4階層の転移魔法陣が使えないなら、3階層に戻ってくればいいじゃん。それに5階層は壊れてないなら、心配はいらないんじゃないの」
「確かに階段ね」
ミカトは、ニコニコしていた。その笑顔で中村さんも早瀬さんも、落ち着いたみたいだ。さすがムードメーカーだよね。
「二人をここに置いて行ってもいいけどさ、5階層にいる何かが3階層に来ないと言い切れるのかな?」
「ミカト、ここはたぶん、たまゆら千年樹の精霊の力が及んでると思うよ」
「その精霊の力って強いのかな?」
そういえばそうだ。精霊の力が強ければそもそも乗っ取られるなんてことはない。
「ミカト、乗っ取られてるってことは期待できないかも」
「でしょ? じゃあ、一緒にいる方が安心だよ。でも、嫌なら置いていくしかない。二人ともどうする?」
「だから、これでもう帰ろうって言ってるんじゃない」
中村さんが怒ってる。不安なんだ。でも……。
「それはできないんだ。リントがここの精霊に頼まれた。だから、俺もスイトもそのサポートをする。俺達は妖精だからね、精霊の願いは叶えてあげないといけないんだ」
ミカトがそう言うと、中村さんの表情から怒りが消えた。俺だけが行けばいいとは、さすがに言わないんだね。
「わかったよ。私達も行くから。でも何の力にもなれる気がしない」
すると、ミカトはやわらかな表情で言った。
「そんなことないよ。俺達は消えたクラスメイトの顔を知らない。中村さんや早瀬さんが一緒なら、捕まってる人達に信用してもらいやすいでしょ」
「そっか、うん、わかったよ」
早瀬さんはまだ不安そうな顔をしていたけど、中村さんの顔つきは変わった。吹っ切れたんだね。
「じゃあ、サクッとここのボスも片付けなきゃね」
俺達は、休憩所を出て、ボス部屋に向かった。
ボス部屋に入ろうとすると、他の冒険者から声をかけられた。
「キミ達、この下の層は転移魔法陣が壊れてるみたいだよ。ボスに挑むのはいいけど、その先には行かない方がいい」
「はい、そうみたいですね。ご忠告ありがとう」
ミカトは、やわらかく受け流していた。
そして、ボス部屋に入ると、やはり二人が瞬殺した。俺なんて、どんなボスなのか見てなかったよ。
「次の層から注意だ。階段を降りたら、まずは動くなよ。それから、リント、すぐにバリアを張ってくれ。このダンジョンは、階層ごとに、いろいろリフレッシュされてしまうみたいだからな」
スイトの言葉に、皆、無言で頷いた。
次の層への階段を降りていて、俺はちょっと嫌な予感がした。なんだろう?
俺は次の層に立ち入った瞬間に、バリアを張った。
『オール・バリア!』
「あれ? さっきとはバリアの感じが違うよ?」
中村さんが気づいた。鋭いね。
「うん、俺にできるすべてのバリアを張ったからね」
「リント、ここまでしなくていいだろ?」
「スイト、ちょっと嫌な予感がするんだ」
4階層は、幻想的な美しい森のような場所だった。




