56、氏神様の神社 〜情報の整理
「リント、グッジョブ! さぁ、次、行くぞ〜」
「うん、行こう」
俺達は、さらに3階層へと進んだ。確か、4階層から乗っ取られてるんだよね。ここで、休憩するんだっけ。
(しかし、なんだか……)
これまでに聞いたこの国の危機になりそうなことが、多すぎる。たくさんの危機が起こっているのか、それとも繋がっているのかな?
浮き島から降りた罪人が、いろいろな中枢部に入り込んでいたり、また、妖精が一部の人を暗殺をしていると、中村さんが言っていた。
紅牙さんからは、海底都市の魔物工場から逃げ出した人工魔物が、海に生息しているという話も聞いた。
その魔物工場のせいで、海底都市は、いま大変な状態になっているんだっけ。
ミカトやスイトからは、ミカンの妖精が狙われていることや、妖精を捕まえて新たな人工魔物を作ろうという動きがあること聞いた。
それに、その実験で最初に殺されたのがリンゴの妖精だということ、その悪ふざけの首謀者がミカンの妖精だと聞いた。
さらに、その恨みを持ったまま死んだリンゴの妖精達が、この地にもともといた怨霊と結びついてバケモノになったんだっけ。タイムトラベルのスキルを持つから、捕まえられないと紅牙さんが言っていた。
そしてこのバケモノを、別の浮き島の妖精が利用しようとしているって言ってたっけ。
(もう、ごちゃごちゃだよ)
夏祭りの治安維持ミッションに来たら、高校生が消える事件のことを聞いた。さらに、千年樹の精霊から、ダンジョンに居座るバケモノをなんとかしてくれと頼まれた。
これは、また別の事件なのかな。でも、特殊な技能を持つ高校生を誘拐し、このダンジョンに閉じ込めているなら、その目的は、妖精の実験に繋がりそうな気もする。
普通の人間なら、千年樹のダンジョンに隠さないだろう。ダンジョンを使おうという発想自体が、人間ではない者の仕業にみえる。
もし、すべてが繋がっているなら、どこから解決すればいいのかもわからない。
俺の、精霊の使徒という使命は、万年樹を守ることだと思う。万年樹は、千年樹を守っている。ということは、俺の使命はとんでもなく……。
「おーい、リント。休憩にするぞ」
「リントくん、大丈夫? モンスターに攻撃されても気付いてないみたいだけど」
「えっ? 早瀬さん、そうだっけ? ちょっと考えごとをしていて……」
「休憩だって。3階層でしか休憩できないから、飯食うぞって二人が言ってるよ」
「うん、わかった。あれ? 早瀬さん、俺のこと怖いんじゃなかったっけ」
「あ、いえ、ごめんね。でも、リントくんは違うってわかってるから大丈夫。頭ではわかってるんだけど……怖くないから、ごめんね」
「いや、うん、気にしなくていいから。魔法攻撃力も魔力も、そんなにいうほど高くないから」
俺達は、ミカト達が待つ休憩所へ向かって歩き始めた。早瀬さんと話してる間に、置いていかれてしまった。
「どれくらい?」
そう聞き返して、早瀬さんはハッとした顔をした。ステイタスは、個人情報だもんね。でも、教えてあげる方が安心するのかな?
「魔法攻撃力は、25,000くらいだよ。魔力値はそれよりもっと低いよ」
「えっ!? うそ……」
「うん? こないだ見たときは、それくらいだったんだ」
すると、早瀬さんは何かを振り払うように頭を横にふるふるしている。あれ? 安心してない? それっきり、早瀬さんは黙ってしまった。
ミカト達と合流して、休憩所に入った。ダンジョン内には3階層はそれなりに冒険者がいたけど、休憩所には誰もいない。
「ここ、誰もいないね」
「天然樹のダンジョンは、流行ってるとことの差が激しいらしいぞ。ここは、パンやおにぎりの自販機しかないからだろ」
スイトは、ぐるりと見渡して、ため息をついていた。そして、自分の魔法袋から軽食を取り出している。
「みんな、軽食は持ってる? ちょっと食べておこうよ。持ってない人は、スイトにもらって。いつもたくさん非常食を持ち歩いてるから」
うん、確かにスイトは、最近はミニスーパーじゃないかと思うくらい、いろいろな物を持ち歩いている。
巨大な魔法袋を手に入れたからだと言っていたけど、用心深い彼のことだから、何も考えていないミカトや俺のために、用意してくれているんだと思う。
「私達も、1週間分くらいの非常食は持ち歩いてるよ、ね? みく」
早瀬さんがそう言って中村さんを見たが、中村さんは苦笑いをしていた。
「その調子だと、なさそうだな。ミカトもないだろ? ない奴は、食べていいから。リント、お湯を作ってくれ」
スイトにいつもの耐熱ボトルを渡された。
「了解〜」
俺は、水魔法を使って空中に水の玉を浮かべ、ヒート魔法を使って温めた。ふつふつと沸騰してきたところで、耐熱ボトルにいれた。
その間に、スイトは紙コップを用意していた。
「好きな飲み物を選んでいいぞ」
「わっ、味噌汁まであるんだ」
中村さんは、味噌汁が好きなのかな。
「スイトは、ミニスーパーみたいなもんなんだよ。俺はたまごスープにしようかな。リントは、コーヒーかな? スイトは……あ、はいはい、コーンスープね」
ミカトは俺の返事を聞かずに、いつものように作り始めた。まぁ、うん、コーヒーでいいんだけどね。
「三人がいれば便利ね。無人島でも生きていけそう」
「みく、それって失礼じゃない」
中村さんは味噌汁ではなく、コーヒーを、早瀬さんは日本茶を選んでいた。
俺達は、スイトが出した軽食を適当に食べた。俺は、さっきの早瀬さんの反応がやっぱり気になってきた。
「早瀬さん、さっきのあの無言って……安心させようと思ったんだけど、もしかして逆効果だったかな」
「ん? 何? リントくんと結花の内緒話?」
「いや、俺の魔法攻撃力の話。聞かれたから答えたら、早瀬さんが黙っちゃって……」
中村さんは、早瀬さんをチラッと見た。早瀬さんは何か弁解しようとしたが、言葉が浮かばないようだ。
「リントくん、2万超えなのね」
「うん、こないだは25,000くらいだったよ。魔力値はそれより低いけど」
「あのね、ウチの高校だと、魔法攻撃力が1,000を超えると上級者。3,000を超えると指導者レベルだよ。魔力値も同じ」
「そ、そっか」
じゃあ、ミカトやスイトも指導者レベルなんだ。
「科学者を狙ってる殺人鬼は、魔法攻撃力25,000くらいあるみたい。魔力値はそれより低いはずらしいけど」
「えっ……俺と同じ!?」




