55、氏神様の神社 〜劣等感と疎外感
たまゆら千年樹のダンジョン、2階層へと進んだ。
「ミカトくんとスイトくんって、すんごい強いね」
「1階層のボスを瞬殺したわね、驚いた」
早瀬さんも中村さんも、まださっきの衝撃でボーっとしていた。だよね、二人は強いんだよ。
「毎日、レベル上げしてるからね。でも、レベルはリントが一番高いんだよ」
「俺、レベル高くても、ダントツで弱い」
「ステイタスの上がり方って個性があるから。リントくんは魔導系が高いんだっけ」
「あー、うん。物理攻撃力より、魔法攻撃力の方が高いけど……」
「えっ!? それって、魔法攻撃力、まさかの5桁?」
中村さんが、なんだか妙に驚いていた。いや、早瀬さんもかな。二人は物理攻撃系なのか。
「な? リントもすごいだろ」
「う、うん。魔法攻撃力が5桁だなんて、人間離れしてる。普通は使える人でも、3桁でしょ」
「中村さん、それを言うと、リントの病気が出るからやめて〜、あはは」
「病気?」
ミカトはニヤニヤと笑っている。確かに、俺は仲間はずれやぼっちが苦手だから、人間離れと言われただけで、拒否されたような強い疎外感を感じてしまう。
でも中村さんはわかっていないみたいだ。それどころか、心配そうにしている?
「ミカト、病気扱いしないでよねー。だいぶ耐性はついてきたから」
「ふっふっふ、嘘はいけないよ、リントくん」
「嘘じゃないよ。劣等感にも慣れてきたし」
「リント、何を勘違いしている? 俺達は、リントのバリアがあるから無双できるんだぜ?」
「そうなの?」
「あぁ、別のパーティに参加すると、思うように戦えないからな」
スイトにそう言われると嬉しい。なんだか、俺って認められたい願望が強いのかもしれないな。
その様子をミカトは、知らんぷりしながらも気にかけてくれているのがわかった。俺は二人には、ほんとに世話をかけてしまっている。俺が一番、子供だよね、しっかりしないと。
「やっぱり、青空くん達って、絆というか、なんかすごい繋がりがあるよね。三人だけの世界というか」
「中村さん、それは、俺達が浮き島では、生まれたときからずっと同じ館で育てられたからかもね」
「あー、そうだったわね。それに妖精だから、少し感覚が違うわよね」
ミカトは、中村さんの言葉を肯定的に受け止めつ、ニコニコしていた。でも、違うよ。中村さんは、自分達とは別の得体の知れない種族だって言ってるんだ。
でも、なんだろう? 中村さんは、それが辛いみたいだ。理解したいのにできない壁のようなものにイラついてる?
「さぁ、そろそろ二人は落ち着いたか? サクサクとクリアするぞ。リント、全員に魔防バリアよろしく」
「了解〜。スイト、物防はいらないの?」
「風系のモンスターばかりだよ」
「わかった〜」
『魔防バリア!』
俺は、全員にバリアを張った。すると、スイトとミカトは競うように駆け出した。俺も、強くなりたいよ。
「なんか、あの二人で、全部攻略できそうね」
中村さんも、俺と同じく、自分はいらないんじゃないかと思っているようだ。
「うん、でしょ? バケモノより怖いよね。俺、いつも置いてけぼり気分なんだよね」
「あはは、リントくんも、私達から見ればバケモノ級だけど」
「あー、あはは」
「ちょっと、みく、またそんな言い方しちゃダメでしょ」
早瀬さんがオロオロしている。うん? もしかして俺のことが怖くなったのかな? 魔法攻撃力が5桁だという話から、なんだか視線が変わったんだよね。
「結花、何ビビってるの? あー、リントくんの魔法攻撃力のことか。ハーフフェアリーだからでしょ」
「そうかな。じゃあいいんだけど……魔力が高い者には気をつけろって言われてたから」
「早瀬さん、何が心配なの?」
「ううん、気にしないで。さぁ、行こう」
早瀬さんは、剣を抜いた。そしてモンスターに向かって行った。モンスターを倒しながら、早瀬さんは、ミカト達に追いつこうとどんどん走って行った。
なんだか、俺から離れようとしているようにも見える。気のせいだとは思うけど。
「とりあえず、私達もボス部屋へ向かわなきゃね」
「そうだね。あのさ、中村さん、さっきの話なんだけど、俺は早瀬さんに怖がられてるのかな」
俺達は、歩きながら話をした。モンスターはすでに倒されていて、なんだかダンジョンじゃないような感じだ。
「結花の亡くなった父親が科学者だった話は知ってるよね」
「うん、そうだったね」
「新種の種族を作り出す研究をしていたんだって。その中で、失敗して制御出来なくなった危険種は処分していたみたいだけど、魔力の高い種に逃げられたらしいよ」
「ふぅん。危険なの?」
「実験中の種族は、特殊な薬を打たないと、長くは生きられないようになっているらしいんだけど、なぜか生き続けているみたい」
「うん?」
「理由はわからないらしいんだ。見た目も人間と変わらない。特徴は人間離れした魔力があること。その種が、科学者ばかりを狙って、その家族まで殺してるみたいなんだよ」
「何かの復讐なのかな」
中村さんは、一瞬つらそうな顔をした。そっか、中村さんの父親も殺されたんだっけ。でも、政治家だよね?
「たぶんね。ニュースでは、連続殺人鬼って報道されてるだけだから、特殊な種族だとは知られていないのよ」
「知られると、パニックになるね」
「うん、でも、狙うのは科学者ばかりだとわかってきたから、科学者には知らされているよ」
「それで、俺が疑われたんだ」
「疑われたわけではないと思う。ただの条件反射じゃないかな。結花がこの高校に入学したのは、その殺人鬼から守るためみたいだし」
「自宅から通ってるんじゃないの?」
「ん? 家から通ってる。でも、この高校は特殊だから、何かあれば高校が動くもの。今回みたいに、おとりに使われることもあるけどね」
「そっか」
あっ! ミカトが呼んでる。
「おーい、ボス部屋前で待ってるんだけど〜」
「ごめん」
俺は中村さんと、ミカト達の方へと走った。
ボス部屋に入ると、様々な属性の幽霊みたいなバケモノがいた。ミカトとスイトが斬っても、すぐに元に戻る。
「リント、出番だよー」
「赤には水魔法、青には雷魔法、黄色には風魔法、緑には火魔法でよろしく」
「うん、わかった〜」
俺は、水の玉、火の玉を浮かべ、左手に雷、右手に風をまとった。
『ターゲティング!』
そして、スイトの指定どおり、それぞれの幽霊に魔法を放った。
四体のボスは、ドロップ品を残して消え去った。




