53、氏神様の神社 〜たまゆら千年樹のダンジョン、レベル899
「おとり? まじか」
ミカトが信じられないという顔をしている。俺も信じられない。いったい何なんだよ。
「この祭りはあちこちから監視されてるから、大丈夫だとは思うけど……去年も一昨年も、消えたのは二日目なのよ」
「それって、今日ってこと?」
「今まで通りならね」
「だから、普段の服なのか。浴衣だと逃げにくい」
「スイトくん、まぁ、それもあるかな」
「他にも理由があるのか?」
「うん……浴衣の人ばかりが消えたから」
あれ? 俺はちょっと違和感を感じた。
浴衣は、神社が用意したものだ。そして、俺達の高校の生徒が着ていた。もちろん他にも浴衣を着ている人達は多い。でも、浴衣の模様とかで、判断できるんじゃないの?
「中村さん、去年もどこかのクラスが、治安維持のミッションを受けていたのかな?」
「うん? 去年は希望者だったよ。浴衣が欲しい子が行ってた。人数制限は特にないから」
「去年も浴衣がもらえたの?」
「うん、この神社に出入りしている和装屋さんが寄贈してるらしいよ」
やはり、おかしい。高校の生徒が狙われているんじゃないのかな。神社がグルなのかはわからない。でも、知らずに協力しているなら、知らせないと……。
「リント、おまえ、聴けるだろ? 精霊の声」
「えっ? スイト……うーん……あっ! あの樹は」
「あぁ、千年樹だろうな。みんな、いくぞ」
「な、なによ、スイトくん。ダンジョンに行くつもり?」
「来ればわかる」
俺達は、祭りの会場から神社の境内へと戻った。巫女さん風のお姉さんが、休憩に来たと思ったらしく、声をかけてきた。
「皆さん、特技高校の生徒さんですよね? 浴衣には着替えてないんですね。お茶飲みますか?」
「えっ、お茶?」
早瀬さんが引き寄せられていたが、中村さんがそれを制した。
「結花、ミカトくん行っちゃうよ?」
「えっ、あ、ほんとだ。すみません、あとにします」
俺達が千年樹にたどり着いたとき、早瀬さんは立ち止まって、巫女さん風のお姉さんと話していた。何の話をしてるんだろう?
俺は、千年樹に触れた。
そして、強く念じた。
『千年樹の精霊、居ませんか? 聞こえませんか?』
ブワンと強い風が吹いた。その瞬間、俺の視界から、ミカトやスイトが消えた。すべての音も消えた。これは……。
『万年樹の精霊の使徒か。ワシを呼んだのは』
『よかった、はい、リントと申します。あの、教えていただきたいことが……』
『ふぅむ、ちょうど良いところに来た。アレを退治してくれるかの?』
『あれとは?』
『この樹に邪気を閉じ込めた愚か者じゃ。おまえさんの目的と合致しているであろう?』
『俺はまだ何も話していませんが……』
『おまえが樹に触れたときに読み取ったのじゃ。消えた者を捜したいのであろう?』
『えっ、一年前や二年前ですよ?』
『この樹に閉じ込められておる。嘆かわしいことじゃ。この神社は、神主以外はすべて腐っておる。それに気づかぬ阿呆な神主のせいで、千年樹が、けがされているのじゃ』
『わ、わかりました。あの……あれ?』
視界と共に、音が戻ってきた。
「ちょっと、リントくん、何してるの? 光ってたよ、蛍みたいに」
「中村さん、ちょっと樹の精霊の声を聞いていたんだ。みんな、ちょっといいかな?」
俺は、今聞いた話を説明しようとすると、声が出なくなった。なぜ?
『リント、阿呆だな。神主以外は、敵だと教えたであろう』
(あっ……巫女さん風のお姉さんも)
「リント、なんだよ? 口をパクパクさせて」
「あー、うん、とりあえず、みんな、ダンジョンに入るよ」
「えー、どうしてよ。祭りの二日目なのよ」
中村さんは、猛烈に反対した。普通はそうなるよね。だけど、ミカトとスイトは、何かあると気づいてくれたみたいだ。
「なんかよくわからないけど、千年樹の見学しようよ」
「うーん、ミカトくんがそう言うなら……」
「あー、もう、結花ってば、仕方ないな」
「じゃあ、みんな幹に触れて」
俺達5人は、スーッと、千年樹のダンジョンへと移動した。
「ちょっと、ここ、難易度高いわよ」
千年樹のダンジョンに入ると、ダンジョンの指輪が現れた。その情報を見て、中村さんが叫んだのだ。
【名前】 青空 林斗 (あおぞら りんと)
【レベル】 899
【ダンジョン名】 たまゆら千年樹
【ダンジョン難易度】 やや難
【ダンジョンランク】 1
【クリア階層】 なし
【ダンジョン固有スキル】 精霊の使徒、タイムトラベル
【トラベル歴】 1991年、1582年
たまゆら千年樹という名前なんだ。あっ! もうすぐレベルが900じゃない。コツコツとレベル上げしてる成果だよね。最近なかなか上がらなくなってきたけど。
ダンジョンランクって、万年樹はゼロから始まったような気がする。そういえば、ここはオリエンテーションがない。その差なのかな? ま、いっか。
腕輪のステイタスも、確認しておこうかな。
【名前】 青空 林斗 (あおぞら りんと)
【レベル】 899
【種族】 ハーフフェアリー
【体力:HP】 22,900
【魔力:MP】 23,600
【物理攻撃力】 15,900
【物理防御力】 13,500
【魔法攻撃力】 25,100
【魔法防御力】 13,900
【回復魔法力】 4,600
【補助魔法力】 12,800
【速さ】 13,500
【回避】 15,200
【運】 301
【その他】 精霊の使徒 (Lv.1)
【指輪情報】
①万年樹……ランク40、第4階層クリア
②たまゆら千年樹……ランク1、クリア階層なし
うーん、物理攻撃力が上がらない。指輪の情報が勝手に追加されてる。人工樹は指輪がないから、まだ二つ目なんだよね。
「おい、リント、ステイタスを見て暗くなってないで、事情を話せよ。千年樹の精霊から、何を聞いたんだ?」
俺は、みんなに、さっきの話を伝えた。
「えっ? ってことは、生きてるの?」
「みく、人間の姿のままだとは限らないよ。何かの実験でバケモノになってしまっているかもしれない」
「そう……よね。一年もずっとここの中に閉じ込められているなら、ミイラやゾンビになっているかもしれないし」
「邪気としか言っていなかったんだよね。バケモノに変わってたら、バケモノって言うんじゃないかな」
ミカトがそう言うと、二人は少しホッとした表情を見せた。
「とにかく、この中を捜すしかないな。リント、手がかりはないのか?」
「まだ何も聞いてない。この樹に閉じ込められているっていうことしかわからないよ」
「じゃあ、捜すか」
俺達は、剣と盾を装備した。




