51、氏神様の神社 〜夏祭りの屋台
「じゃあ、いこっか」
俺達は、巫女さん風のお姉さんから、金券五千円分を受け取り、神社の夏祭り会場へ移動した。
中村さんは白地に赤い花の模様、早瀬さんは紺色に白い花の模様の浴衣を着ていた。二人ともいつもよりも大人っぽく見える。
「お〜、中村さんも早瀬さんも、浴衣になるとガラリと雰囲気が変わるねー。似合ってるよ」
「そう? ミカトくんも似合ってるよ。というか、青空くん達、反則よね」
(ん? 何が反則?)
中村さんと早瀬さんが互いに頷き合っている。
「何が、反則なんだよ。何も悪いことしてないぜ?」
スイトがそう尋ねると、早瀬さんがすこし頬を染めて反論した。
「スイトくんもミカトくんもリントくんも……なんかモデルみたいなんだもん。ずるいよ」
そういえば、平成時代に行ったときも、女性3人組に、モデルかと言われたっけ?
俺は、モデルの意味がよくわからなかった。ファッションショーで歩く人達だよね?
「それって、悪いことなのか? モデルってそもそもなんだよ。服を見せる仕事なんだろう?」
「俺も、タイムトラベル先で、モデルみたいって言われたことあるよ。どういう意味?」
スイトと俺がそう尋ねると、女子二人は驚いた顔をした。ミカトも、わかってない顔だ。よかった。
「俺もモデルがよくわからない。芸人みたいなものかな? それなら嬉しいけど」
そういえば、最近、ミカトはお笑い番組ばかりみている。屋敷の休憩室には大きなテレビがあるんだけど、お笑い番組をやっているときは絶対にミカトがいるんだ。
いつだったか、自分の部屋でみればいいのに、とスイトが言ったことがあった。でもミカトは首を横に振った。他の人がどの場面でどれだけ笑うかを知りたいと言っていたっけ。
ミカトは本気で、お笑い芸人を目指しているのかもしれない。
「モデルを知らないなんて……逆にびっくりだよ。周りの女の子達を見ればわかるでしょ」
中村さんがそう言うので、俺は周りに目を向けた。うん? 別に変わった様子はないんだけど。
「中村さん、別にいつもと変わらないよ? 意味がわからない」
「リントくんは、いつも女の子に見られてるわけ?」
「んー? 俺が普通の人間じゃないから珍しいんじゃないの?」
「あのねー、普通の人は青空くん達が妖精だなんて、気づかないよ」
「えー? そうなの?」
ミカトも驚いていた。なんだ、ミカトも珍しいから見られると思ってたんだ。
「そんなこと、どうでもいいじゃねーか。それより、あっちにスイカがどうのって書いてあるんだが」
スイトが珍しく祭りにテンションが上がっていた。スイトが指差した方を見ると、確かにスイカのマークが見えた。スイカ割り? なんか野蛮なんじゃないの?
この距離だと、スイトやミカトはまだ見えていないと思う。話題を変える方がいいよね。
俺はあちこち見回すと、リンゴ飴、ミカン飴、イチゴ飴の屋台を見つけた。
「あー、あっちに、リンゴとミカンがある!」
「リント、まじか?」
ミカトが食いついた。
「スイト、先にあっちを見に行こうよ」
「二体一では、仕方ないな。ミカトが食いついた時点で諦めたが」
「スイトくん、順番に回ればいいよ。リンゴやミカンってことは、リンゴ飴やミカン飴かな。私は子供の頃は、イチゴ飴が好きだったな」
「え〜、早瀬さん、ミカンは嫌い?」
ミカトがそう尋ねると、早瀬さんはパッと赤くなった。
「嫌いじゃないよ。冬はいつも、親戚の家にいくとコタツでミカンだし〜。す、好きだから」
「そっか、よかった〜」
ミカトがニコッと笑いかけると、早瀬さんはうんうんと頷いている。うーん、もどかしいよな。早瀬さんがミカトのことを好きなのは、みんなわかっている。でも、ミカトにはそういう感覚がなさそうなんだよね。
俺達は、リンゴ飴、ミカン飴の屋台へと近づいた。
リンゴだけでなく、いろいろなフルーツを飴でコーティングしてあるみたいだ。色も様々で、怪しげな色の飴もあった。
俺は、リンゴ飴は知っていたが他は知らなかったな。縁日での屋台の定番だ。普通のリンゴが大きすぎるから、姫リンゴを使ったものもあるんだっけ。
屋台には、リンゴ飴はたくさんの色が揃っていた。姫リンゴが圧倒的に多いな。やはり普通のリンゴは、食べ歩きには大きすぎるんだと思う。
「なんか久しぶりだよ。子供に戻った気分〜」
早瀬さんは、テンションが上がっている。
「でも、リンゴ飴って、中のリンゴがすっぱいから、結局飴を食べて、口のまわりがベトベトになるんだよね」
中村さんは、あまり良い印象がないみたいだった。
「だから、イチゴ飴がいいんだよ。小さくて食べやすいし、そんなにすっぱくないもの」
「ミカン飴は?」
「えーっと……」
ミカトの質問に早瀬さんは答えにくそうにしている。美味しくないのかな?
「ミカン飴は、筋をちゃんと取ってないんだよねー。作る人の怠慢だと思う。私は、葡萄飴がいいのに、あまり売ってないんだよね」
「あー、葡萄飴は、確かに食べやすいよね。でもあまり売ってないよね」
「スイカ飴はないのか?」
「うん、聞いたことないよ。スイカといえば、スイカ割りかスイカくんだよね」
早瀬さんが言っちゃったよ。せっかく俺がスイカ割りからスイトを守ろうとしてたのに。
「スイカ割り? スイカくん?」
「うん、スイカ割りは、どこかでやってるんじゃないかな? 目隠ししてスイカを割るゲームだよ。スイカくんは、アイスキャンディだよ」
「スイカくんは、アイス屋さんで売ってるんじゃない? さっきすれ違った子供が持ってたよ」
「へぇ、そうか」
スイトは、あちこちキョロキョロしていた。スイカくんが気になったみたいだ。よかった、スイカ割り以外のものがあって。
「せっかくだから、リンゴ飴か何か買って、食べながら回ろうよ。金券たくさんあるんだし」
中村さんの提案で、俺達はリンゴ飴を買うことにした。
ミカトは、ミカン飴にすると言い、早瀬さんもミカン飴を買っていた。わかりやすい。
俺はリンゴ飴にしようと思ったけど、種類が多すぎて選べない。中村さんもリンゴ飴を見ているから聞いてみようか。
「小さな姫リンゴのリンゴ飴なら、どの色がいいかな?」
「うん? リントくん、小さなリンゴは、和リンゴだよ。何を間違えてるの? 姫リンゴなんてないよ?」
「えっ? いや、和リンゴは明治時代あたりで、ほぼ消滅したでしょ」
「リント、どうしたんだ? 変な夢でも……あっ!」
スイトが何かに気づいた。何? 夢じゃないよ。




