5、万年樹の島 〜ダンジョン固有スキル「精霊の使徒」
キャー!!
あちこちで、悲鳴があがった。
ミカトに言われて振り返ると、そこには、3メートルくらいの……バケモノがいた。モンスターなのか? この階には居ないはずじゃないの?
トレントの一種かな。木のバケモノだ。手のように枝を揺らし、近くにいた人を攻撃し始めた。しかも一体じゃない。地面から、何体も次々と出てきた。こ、これはマズイんじゃ……。
「ちょ、どうなってんの。リント、武器は持ってないよね」
「ないよ、でも、万年樹の妖精がいるから……あれ? 幼女は、どこ行った?」
「きのこちゃんは、あのバリアの中じゃない?」
幼女は、オリエンテーションをしていたグループ全員を包むバリアを張っている。ちょっと待て、他の人は守らないのかよ。
他の王子達の姿は見当たらない。みんな、もうダンジョンから出て行ったのか。
ピュッ、シュシュ!
キャー!
ダンジョンの中は、大騒ぎになった。俺達と同じように、アイテム拾いをしていた人達は、一斉に出口の赤い灯に向かって駆け出した。
だけど、その行動が木のバケモノを刺激したようだ。人々に向かって、何かを飛ばし始めたようだ。
「あの木のバケモノ、完全に戦闘モードだよ。風の刃まで飛ばしてる……。リント、逃げなきゃ」
「う、うん……でも……」
『スキル「精霊の使徒」を使用しますか』
突然、頭の中に直接響く声が聞こえた。声というよりは、無機質な感情のない機械音みたいだ。
「えっ? スキルなの?」
『スキル「精霊の使徒」を使用しますか』
聞き返しても、返答はなかった。同じ声が聞こえるだけだ。これは、あの精霊の言葉じゃなくて、スキルを発動する確認なのかな。
わからないけど、この状況では、使えるものは使うしかない。風の刃でどんどん怪我人が増えている。
「使います! イエス、YES、はいっ!」
「リント、何? どうしたんだよ?」
『了解しました。スキル「精霊の使徒」を発動します』
「な、なんか、頭の中に声が……えっ? ええっ?」
俺は、白っぽい淡い光に包まれた。そして、その光が消えると、な、な、何? どういうこと?
俺は、銀色のローブを着ていた。そして、左手には銀色の盾を持っている。ローブをめくると、中は黒いシャツに黒いズボン。腰には銀色の剣が輝いていた。
「わっ、リント、顔が元に戻ってる。でも、髪は銀色になってるよ。一体、何をしたの?」
「よくわからないけど、身体が軽いよ。それにまわりの動きが遅く感じる。ちょっと行ってくる! ミカトは、ここに居て」
「わ、わかった」
俺はミカトに、バリアを張りたいと思った。
ピンッ
甲高い音と同時に、ミカトはバリアに包まれた。これ、もしかして、俺がやったの? いや、精霊のチカラ?
そんなことより、襲われている人達をなんとかしなきゃ。俺は、木のバケモノが集まっている方を向いた。身体が軽い。俺は、駆け出した。
そして、走っていると、次々と勝手に俺に強化魔法がかかっていった。走るスピードがどんどん速くなる。
(よし、この距離なら攻撃が届く)
俺は、剣を抜いた。すると、目に見える景色に文字が浮かんだ。
【ターゲティング、トールギャング】
【弱点、火】
【発動可能】
よくわからないけど、あの木のバケモノは、トールギャングで、火に弱くて何かを発動するかと、聞かれているのかな。
でも、問われたわけじゃないから、返事の仕方がわからない。文字を見ていると、発動可能の文字が点滅した。
(えっ? 可能じゃなくなる?)
【選択完了】
木のバケモノが、俺に気づいた。そして、俺に風の刃を飛ばしてきた。
キン! キン
バリアが完全に弾いている。
俺は、飛んだ。予想以上の跳躍力だ。そして、落下する勢いを利用して、木のバケモノに斬りつけた。
ボゥオッ!
俺が振った剣は、いつの間にか、火をまとっていた。
(うわっ、木じゃなくてゼリー?)
いや、違う。木のバケモノだ。ただ、まるでゼリーにナイフを入れたかのように、何の抵抗もなく、スーッと切れたんだ。
ドーン
木のバケモノは、地面に倒れると、スッと消え去った。一体を斬ると、他のバケモノが、俺を強敵だとみなしたのか、一斉に俺に風の刃を飛ばしてきた。
(げっ! 連携するんだ)
俺は、盾を使った。持っている感覚がないほど、羽根のように軽い盾だ。だが、確実に木のバケモノの攻撃を無力化している。
だが、囲まれた。
一網打尽にしたい。魔法を使おうか。
【ターゲティング、トールギャング】
【火魔法バーニングショット】
【発動可能】
また、文字が浮かんだ。なんだかわからないけど、発動しよう。俺は手を上にあげたくなった。その感覚に従って、俺は剣を鞘におさめ、両手を上にあげた。
ブゥオオォオォッ!
発動可能をじっと見たわけじゃない。選択完了という文字も出ていない。
だが、俺の両手に魔力の源のマナが集まり、そして、まるで火の鳥のような炎が、俺の手から放たれた。火の鳥は、俺を取り囲んでいた木のバケモノを、次々と焼き払っていった。
(す、すごい……)
木のバケモノは、炎に焼かれ、次々と消え去った。
シーンと静まり返ったような気がした。そして、出口に詰めかけていた人達から、ワッと歓声が上がった。
まわりを見渡したが、もう木のバケモノはいない。
俺は、ミカトの方へと戻った。
「リント、今の何? もともとリントは剣術は強かったけど、あんなに速かったっけ? それに、さっきの魔法、いつ覚えたんだよ」
「よくわからないけど、スキルみたい」
「もしかして、精霊の使徒ってやつ? 役割じゃないの? スキル?」
「うーん……」
ミカトと、話していると、だんだん身体が重くなっていくのを感じた。そして、ミカトにかけたバリアがパッと消えた。
「あっ! リント、黒髪に戻ったよ。顔も人間の顔〜」
俺の左手からは盾が消えている。腰の剣も、ローブも消えた。クールだった服装は、元のクリーム色だ。俺達の民族衣装である、妖精の軽着に戻っていた。
「服も、普段着に戻ったね。クールでカッコ良かったんだけどなぁ」
「きのこちゃんなら、わかるんじゃない? 今、リントに何が起こったのか」
「だねー」
俺は、幼女の姿を探した。バリアを解除して、オリエンテーションの人達と話をしているようだ。
彼女はチラッとこちらを見たが、俺を睨んでプイッと顔をそらした。何? その態度。
「あはは、きのこちゃんに、また、あたしの敵とか言われそうだね。仕方ない、俺達もそろそろ出ようか」
「うーん……そうだね」