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49、万年樹の島 〜島の観光エリアでバイキング

「えっ……時を越える?」


「あぁ、ダンジョンのスキルを持つバケモノや。精霊のチカラを使わずに、自力でタイムトラベルできるみたいやな」


「自力でタイムトラベル……」


「バケモノが生まれたのがわかったのは最近なんや。すぐに討伐隊が編成されたんやけど、仕留めきれずに逃げられた。過去のどこかに逃げ込んだんや」


「どの時代かはわからないんですか」


「万年樹のチカラを使えば、逃げ込んだ時代がわかる。何度も討伐に行ってるんやけどな……」


「逃げられるんですね」


 紅牙さんは、頷いた。バケモノが自力でタイムトラベルできるなら、追いかけても、絶対すぐに逃げられる。討伐なんて不可能だよ。


「まぁ、とりあえず、今のおまえらにできることは、レベル上げと、学生生活を楽しむことちゃうか。それに、おまえらが悪いんちゃうから、気にすんな」



 そして、木の実以外のドロップ品を買い取ってもらった。



【コイン残高】


 白金貨(1億円) ー 0

 大金貨(1000万円) ー 0

 小金貨(100万円) ー 1枚

 大銀貨(10万円) ー 5枚

 小銀貨(1万円) ー 20枚

 大銅貨(1000円) ー 11枚

 小銅貨(100円) ー 3枚


 日本円換算で、1,711,300円



 今回はあまりコインは増えなかった。いや違う。10万以上増えたから、普通に考えるとすごい稼げたのかも。



「木の実もだいぶ溜まってきたから、そろそろ分けておこうか」


「いや、おまえらは、いつもつるんでるんやから、もっとレベル上がってからにした方がええ。特徴がはっきり分かれてくるから、上がらんもんに使う方がええで」


 木の実を預かってるミカトが分けようと言うと、紅牙さんがそれを止めた。うん、俺もその方がいいと思う。


 分けてしまったら、なんだか別れが近いような気にもなる。そういうのは嫌だ。


「じゃあ、もう少し俺が預かっておくけど……」


 ミカトは、ダンジョンを出ようと言ったときから、ずっと元気がない。俺はミカトが抱えていた過去のミカン王国の妖精の話は、驚いたけどでも、なんだかいろいろとスッキリした。


 戦国時代にタイムトラベルして起こったタイムパラドックスは、何なのか、まだ特定できていない。でも、それがわかると、何かに繋がるような気がする。



「おまえら、飯行くかー? たまにはおごったるわ」


 俺達の微妙な空気感を察知したのか、紅牙さんが珍しいことを言い出した。


「はい! ぜひ」


 俺はいち早く食いついた。


「あはは、なんや、リントはちゃっかりしとんな。ミカトの方がちゃっかり者かと思ってたけど」


「えっ? あ、いえ」


「リントは、けっこうキッチリしてるんですよ。ミカトはお金には無頓着です。この二人はいろいろな面が真逆なんで」


「それを冷静に分析するスイトも、コイツらとは真逆やな。おまえら、おもろいわ」


 スイトは、おもろいと言われたことに戸惑っていた。スイトが戸惑うことはあまりない。ミカトもそれに気づいたようだ。


「スイトは、最近ツッコミも面白くなってきたんだよね」


「いや、別にそんなつもりはないけど」


 ミカトの表情が少し明るくなってきた。よかった。




 紅牙さんに連れられてきたのは、万年樹の島の観光エリアだった。そういえば、俺達は、この島のことは知らない。ダンジョンのある万年樹と屋敷の敷地の狭い範囲しか知らなかった。


「こんな場所、知らなかったです」


「せやろな。万年樹も屋敷の敷地やから、ずっと屋敷と庭をウロウロしとったやろ。屋敷はこの島の西の端や。島のほとんどは、フルーツ畑やけど、本州に近い北側は観光エリアになってるんや」


 ミカトもスイトもキョロキョロしていた。万年樹の近くは小高い丘になっていて、海ははるか下に見えたけど、ここは砂浜がある。


 振り返ると万年樹がそびえたっているのが見えた。かなり離れた場所から見るとよくわかる。ほんとに大きな木なんだ。


「ここから見ると、万年樹って、すごく大きな木ですね」


「スイト、当たり前やろ。日本で一番古い樹なんやからな」



 紅牙さんは、こっちやと言って、大きな店に入っていった。中はすごいたくさんの人がウロウロしていた。


「いらっしゃいませ、お席は2時間制となっております」


 店員さんに席に案内された。席も時間管理のためか、入店順に並ばされるみたいだった。空いてる席もあるのにな。


「ここは、全国の郷土料理中心のバイキングなんや。料理を置いてある場所が日本地図になってるやろ。味付けもその地域の味になってるで」


「へぇ、すごい。じゃあ、旅行気分を味わえますね」


「リント、ミカト、俺達、地上を全然知らないからさ。各地の千年樹巡りもしたいよな」


「じゃあ、どの地域のご飯が口に合うか試さなきゃね」


「あはは、リントって食べ物の話には食いつきがいいよな。普段はミカトの方が興味津々なのに」


「おまえら、適当に取ってこいや。俺の酒のつまみも適当に取ってきてくれ」


 紅牙さんは、メニュー表を手にして、店員さんを呼んでいた。お酒が好きなんだな。



 俺達は、料理を取りに行った。俺は京都の料理ばかり取っていた。なんとなく、まだ本能寺で食べた塩辛い食事を覚えていたから、比較してみたかったのかもしれない。


 紅牙さんの酒のつまみのことは、すっかり忘れていた。


 席に戻ると、紅牙さんはビールを片手に、またメニュー表を見ていた。もう次の酒を頼むのかな?


「なんや、おまえら、俺のつまみは?」


「あっ、忘れてました」


 俺だけじゃなく、気が利くミカトも忘れてたようだ。


「あはは、だって、目移りしてて〜」


「しゃーないな、適当につまむか」


 紅牙さんは、俺達の皿を見ていた。そして、ブッと吹き出した。何がおかしいのかな。


「おまえらの個性がようわかるわ。リントは京都の和食のみ、スイトはいろいろな唐揚げばかり、ミカトは目立つもんを手当たり次第か」


「えー、ほんとだ。みんな全然違う。スイトの皿は茶色くて、ミカトの皿は派手だよね」


「無意識だったが。俺は各地の味の違いを知りたくて……」


「俺は、美味しそうなものを集めたけど? 普通じゃないの?」


「俺は、本能寺で食べた塩辛い料理を思い出してなんとなく」


 紅牙さんは、笑っていた。


「ほんま、おまえらおもろいわ。しゃーない、自分の分は自分で取ってくるわ」



 俺達は、何度もおかわりを取りに行ったが、やっぱり、それぞれの皿は違った。


 バイキングは、いい気分転換になった。店を出る頃には、ミカトもいつも通りの笑顔になっていた。よかった。



次回は、4月4日(土)に投稿予定です。

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