46、万年樹の島 〜4階層クリア
「どういうこと?」
俺は、変なことを言ったんだろうか。中村さんは無視するし、スイトは呆れ顔だった。
「リントくん、私の顔はかわいく見える?」
早瀬さんが戸惑いながらも、変な質問をしてきた。
「うーん、ごめん。早瀬さんがかわいいかどうかはわかんない」
「こら、リント! 早瀬さんも中村さんも、キレイなお姉さんだよ」
「だからごめんってば〜。わからないんだって」
ミカトに叱られた。あー、うーん。人間の感覚がわからないな。ミカトやスイトはわかるのか。俺がハーフフェアリーだからかな。
「ふぅん」
あれ? 無視していた中村さんが、俺の方を見てる。でも、すぐにふいっと目をそらした。なんだよ、結局、怒ってるんじゃない。
お食事ダンジョンを出て、俺達は万年樹の島に戻った。なんだか、もやもやするけど、とにかくレベル上げしなきゃいけないよね。
「万年樹のダンジョン、そろそろ4階層のボスを倒せるんじゃない? 魔法ボールもたくさんあるよ」
「確か、5人でパーティ組むといいって言ってたよね、スイト」
「あぁ、だけどもう3人で大丈夫じゃないか?」
「あのときより、だいぶ強くなったもんね。イカ祭りでさ。じゃあ、3人でサクサクっと行こうぜ」
スイトやミカトは強くなったから、余裕の表情だけど、俺はまだまだ全然ダメなんだよな。レベルは高いのに、物理攻撃力が……。
「ミカト、リントがまた暗くなってるぞ」
「うむむ? リントくん、もしや変顔リクエストですかな」
「そんなんじゃないから。もう、ミカト、ぷはははは、や、やめて、ゲホゲホ……」
ミカトが、変顔どアップで現れた。スイトも俺の変化に気づくようになってきたのかな。俺だけが成長してない。
「あはは、リントが笑いすぎてゲホゲホいってる」
ミカトは満足そうな顔をしていた。俺も、いい加減、ちゃんとしなきゃ。
「じゃあ、行こう。1階層から行く?」
「いや、リント、4階層からにしよう。余裕でクリアできるはずだろ」
俺達は、万年樹のダンジョンに入った。4階層は、相変わらず暑い。いや、熱い。今日はたくさんの冒険者がいた。
「なんか、今日は多いね」
「リントは知らないか。いま、4階層はボーナスステージらしいぞ。いつもとモンスターが違うんだよ。爆発する岩みたいなのは少ないし」
「あの岩、俺、絶対怪我するんだよね、あはは」
そういえば、前に来たときは、ミカトは怪我してたよね。
「ミカト、俺、ポーション持ってるから必要なら言ってね」
「ありがとう。でも、俺もガッツリ持ってるよ」
「じゃあ、スイト、怪我したら言ってね」
「あはは、あぁ。ここで俺も持っているとは言わない方が良さそうだな」
「えー……二人とも準備いいね」
ミカトもスイトも笑っていた。なんだか、この3人でいると、気分的にラクだし楽しい。
「よし、行こう! あ、リント、暑いからクーラーよろしく」
「はいはい、了解〜」
二人は、剣を抜いた。
『アイス!』
『ウインド・カッター!』
俺は、氷魔法を発動し、風魔法で砕いた。
『物防バリア!』
そして、3人にバリアを張った。涼しい空気を封じ込めたようになった。偶然だけど、びっくりした。二人も驚いた顔をしてる。
「リント、クーラーつきのバリア? すごい!」
「あぁ、驚いたな。ちょっと冷えすぎな気もするが、動くからちょうどいいか」
「偶然たまたまだよ。俺もびっくりした〜」
「俺達も魔法袋あるから、リントはドロップ品集め係じゃなくて、どんどん倒しちゃって」
ミカトが怖いことを言う。でも、そうしないと物理攻撃力は上がらないよね。
「うん、わかった」
「じゃ、行くぞ」
俺は、二人に遅れないようにモンスターを倒していった。スピードは、やっぱり俺が圧倒的に速い。でも、攻撃力はダメだ。
二人は、何体かに囲まれても一気に倒してる。でも、俺は囲まれると逃げて、一体にしないと倒せない。
でも、前に来た時に比べると、自分の成長がすごくわかって楽しい。モンスターが怖くない。成長してるよ、うん。
周りにいる人達は、結構必死のようだった。ポーションを飲みながらの人が多い。でも、俺達はダメージもなく、体力もそんなに消耗してない。やっぱり体力1万超えたからだよね。
そして、ボス部屋の前にたどり着いた。他の人達は、ボス部屋には入らないようだ。ひたすらボーナスステージのドロップ品を集めている。
「さぁ、準備はどう?」
「ミカト隊長、いけるっす」
「あぁ、大丈夫だ。ふっ、なんかリントが変なテンションだな」
「あはは、確かに頑張りすぎて、変なテンションになってるね」
「ちょっと、俺は普通だからー。体力1万なんだからね」
「はいはい、あはは」
「ここで俺の体力は言わない方がいいよな」
「スイト、言ったらダメだよ。リントが拗ねる」
いまさら拗ねないけど……なんて言っても、からかわれるだけな気がする。
微妙な空気感の中、ボス部屋の扉が開いた。
「うわー、なんだこれ?」
「アイスボールを投げるしかないね」
「火事だから水の方がいいんじゃないか」
ボス部屋の扉が閉まると、まさに地獄絵図だった。部屋の草木も、ボスもすべてが燃えている。
「スイト、火事ってか、これ、全部燃えてない?」
「とにかく、火を消せばボスは弱くなる。燃えてる間は手出しできないらしい。注意をそらすから、どんどん消して」
ミカトは、魔法ボールを投げまくっていた。スイトは、ボスを引きつけている。
俺は、これは、どうすれば……。下手に魔法を使うと……あ、みんなにバリアだな。
『魔防バリア!』
よし、これで大丈夫。あとは火を消すだけだ。
俺は、本能寺の変を思い出した。あのすごい炎を消すことはできなかった。歴史を変えてはいけないし。でも、なんだか、あのとき、罪悪感を感じたんだ。
考えても仕方ないことなのに。切り替えなきゃ……でも、なんだか悔しい。
俺は、ボス部屋の炎を消そうとイメージした。
『ウォーター・シャワー!』
すると、一気に雨が降り注いだ。すごい水蒸気だ。部屋の中は真っ白で何も見えなくなった。
『アイス!』
『ウインド・カッター!』
部屋を冷やすと、ミカトとスイトが、ポカンとした顔で立っていた。
「二人とも大丈夫?」
「あぁ、魔防バリアを張ってくれたから何ともない」
「ボスも消えちゃったね、あはは、リント凄い」
「うん?」
足元には、ドロップ品の万能薬が、人数分の3個、転がっていた。




