45、国立特殊技能高等学校 〜リントの爆弾発言?
「なになに? リントくん、ニマニマしてますなぁ」
そう言いつつミカトの方がニマニマしながら、俺のステイタスを覗こうとした。ミカトはいいけど、女子に見せてと言われると嫌だな。俺は、スッと表示を消した。
「個人情報ですからね、ミカトくん」
そう返すと、ミカトはニッと笑った。
「で、何をニマニマしてたんだ? リント」
スイトまで、俺をニマニマ扱いする? まぁ確かに、少しにやけていたかもしれない。
「俺、体力1万超えたんだよー」
「へぇ、まだ超えてなかったっけ。物理攻撃力は?」
「そこは聞かないで……」
せっかく気分がよかったのに、一気にスーッと冷めていった。上がらないんだよね。戦国時代では蘭丸さんに強いって言われたんだけどな。
あっ、蘭丸さん……その後、どうなったんだろう。万年樹の妖精は、タイムパラドックスが起こったって言ってたっけ。俺が知ってる歴史と、何が変わったんだろう?
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどいいかな」
俺は、女子二人に聞いてみようと思った。ミカトやスイトには聞いたけど、彼ら自身もタイムトラベルしてたから影響を受けなかったかもしれない。普通の人に聞く方がいいと思ったんだ。
「何よ、変な質問には答えないよ」
なぜか中村さんは、機嫌が悪い。早瀬さんはもう切り替えてるのかな。ミカトやスイトの過去を覗いた罪悪感があるのかもしれない。協力的な感じだった。
「わかることなら答えるけど」
ミカトやスイトは、不思議そうな顔をしていた。俺が女子に話しかけるのは不思議だよね、きっと。
「1582年に本能寺の変があったでしょ。あの後、織田信長と森蘭丸の消息ってどうなったんだっけ」
「は? なんかバカにしてる?」
「リント、いきなり歴史クイズ?」
中村さんは怒り、ミカトはキョトンとしていた。ちょっと中村さん、気が短すぎないかな。
「クイズじゃなくて、タイムパラドックスが起こったみたいなんだ。どの部分なのかがわからなくて」
俺がそう言うと、中村さんは固まってしまった。驚きすぎでしょ。早瀬さんはあまり驚いていない。
「リントくんは、タイムトラベルのスキルがあるわけ? それって、超高いスキルだし……」
「うん、あるよ。中村さん、高いってどういう意味? もしかして売ってるわけ?」
「売ってるよ。都庁の近くのスキル屋で。でもタイムトラベルは、なかなか取得できないから手放す人が少ないし、数十億円はすると思う」
「数十億円?」
俺は、その価値がわからない。俺の所持金って現金は2万円ちょっとだ。その何倍なんだよ。
「スキル屋なんてものがあるのか」
スイトは、店に興味を持ったらしい。確かに、スキル屋って、見てみたいかも。
「話がそれていますよ、皆さん。リント、そこは変わってないんじゃなかったっけ?」
「うん、でも、ミカトやスイトは万年樹にいた時間かもしれないから、普通の人に聞いてみたくて」
「万年樹から出たら、誰かが起こしたタイムパラドックスはバッチリ反映されるはずだよ? だよね、スイト」
「あぁ、そう聞いたけど」
やはり、そうか。織田信長と森蘭丸は、その後の消息は不明なんだ。堺にたどり着けなかったのかもしれない。
「私は歴史はよくわからないけど、その名前は知ってる」
なるほど、中村さんは歴史が苦手なのか。
「みく、森蘭丸までわかってる?」
「うーん、ギリギリ聞いたことがあるような気がする」
早瀬さんは、首を傾げていた。中村さんは、目を合わさないようにしているようだ。そっか、蘭丸さんのことを知らないんだ。俺もあんなに若いとは知らなかったし、似たようなものだね。
「死体は見つかってないから、いろいろな推測があるから面白いよね。京都から大阪に逃げたっていう説が、最近の有力説らしいよ」
「えっ? 早瀬さん、それ、詳しく聞かせて」
「亡くなった父の友達で、歴史学者をしているおじさんがいるの。信長の謎を解くって、いつも言ってるの。おじさんによると、信長は、大阪で商人になったって。海外とも貿易をしてたから、あんなに堺が発展したんだって言ってた」
「そっか、堺が……よかった。たどり着いたんだ」
俺はホッとした。さすがだな。あっ、でも、商人になった説は、タイムトラベル前からあったような気がする。ということは、これじゃないか。
「早瀬さん、他にはないかな? 変わった話か何か」
「うん? うーん、茶器を集めたりお茶会をしたりする文化人の面もあるとか?」
「それは有名な話だし、他には?」
「変わったところ? 盆栽をするとか?」
「あー、そっか、織田信長として聞いても、変わってないか。本能寺の変の後だもんな。その後は、歴史上に名前が出てこないよね?」
「うん、そうだね。本能寺の変で死んだことになってる」
やはり、そっか。そもそも、彼らの生死は、俺が心配なだけで、浮き島に戻る条件とは全く関係ないよね。
「リントの歴史クイズは、終了だね。そろそろ混んできたし、お腹もいっぱいだし、出る方がいいんじゃない?」
確かにミカトが言うように、混んできた。
「そろそろ解散しようか」
解散が決まり、俺達は、お食事ダンジョンから出た。出口のコインに交換する機械のとこで、ミカトは、中村さんに余ったカプセルを渡していた。
「二人のカプセルをほとんど開けてもらったから、あげるよ」
「ミカトくん、いいヤツじゃん」
ミカトは、俺達にも目で合図をした。うん、俺も渡さなきゃね。スイトも渡していた。女子二人は嬉しそうな顔をしていた。
ふぅん、中村さんって、あんな無邪気な笑顔もできるんだ。上から目線でキツイ人かと思ってたけど、意外な面もあるんだな。
よく見ると、かわいいかもしれない。まだ人間の、女の子の顔に見慣れてないけど、うん、無邪気な笑顔はかわいいかも。
あれ? 俺、何を考えてるんだ? なんだか変だよね。うーん……ま、いっか。でも、ちょっと確認しとこうかな。
「中村さんって、かわいいって言われるタイプ?」
「は? リントくん、ケンカ売ってる?」
「いや、そうじゃなくて、確認したかっただけなんだ。俺、まだ人間の女の子の顔を見慣れてなくって……中村さんって無邪気に笑うとかわいいなって思ったから、これで合ってるのかわかんなくて」
あ、あれ? 中村さんに無視された。
「リント、合ってるかって何?」
「うん? 人間の感覚がわかんないから、中村さんの無邪気な笑顔がかわいいで合ってるかの確認だよ?」
「リントが、また爆弾発言をしてるぜ」




