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43、国立特殊技能高等学校 〜浮き島から追放された罪人

「別に狙いなんてないよ。高校に編入しなさいって言われて来ただけだからね」


 ミカトが軽く答えても、中村さんはまだ厳しい表情をしている。なんだか変な感じ……妙に真剣にみえるけど? 


「質問を変えるわ。浮き島の罪人じゃないわよね? 罪人なら、ウチのクラスになるわけないもの」


「俺達は、生まれたときから、兄貴が18歳になったら、地上に降りることが決まっていたんだよ」


「えっ? 生まれたときから?」


「そう。俺達は次男だからねー。いらない子なんだよね」


 ミカトは明るく言ったけど、中村さんはハッとした顔をしていた。聞いてはいけないことを聞いちゃったと思ったんだろうな。



 少し沈黙の時間が流れた。



「青空くん達、ごめん」


 中村さんが謝った。でも、事情がありそうだよね。ミカトと目が合ったので、俺は頷いた。そして俺は口を開いた。


「中村さん、何か事情があるんじゃないの? 浮き島から降りてきた妖精は、あまり良い印象はないみたいだよね。中瀬さんも、なんだかそんな感じだったよ」


 すると、中村さんは驚いた表情をしている。


「怒らないの? 普通なら怒るでしょ」


「うーん、だって、中村さんは意味もなく無茶なことを言う人には見えないからさ」


「何よ、なんだか、温室育ちの坊ちゃんみたいね」


「まぁ、浮き島育ちの坊ちゃんだからねー」


「バカじゃないの? 嫌味を言ったのよ」


「うん? 俺はそういうのって鈍いからさ。で? どういう事情?」


「ふぅん……」


 あれ? また、ふぅん、だよ。中村さんは黙ってしまった。でも俺達のことをジッと見ている。何かを調べているのかな?



「知らないんだね。海底都市のこと」


「ん? 魔物工場があるんだっけ?」


「浮き島の妖精が、地上を乗っ取る気なんでしょ?」


「なぜ? 中村さん、話が全然見えないんだけど」


 なぜか、彼女は悲しげな目をした。


「みく、私が話すよ。たぶん、青空くん達は先生が言ってたみたいに、今までの浮き島から追放された罪人とは違うよ」


 早瀬さんがそう言うと、中村さんは頷いた。



「青空くん達、地上にダンジョンがたくさんあるのを知っているでしょ?」


 俺達は頷いた。ミカトが口を開いた。


「人工樹には驚いたけど、楽しいダンジョンだよね」


「えっと、人工樹?」


「ダンジョンは千年樹に宿る精霊が生み出してるでしょ? でもこのお食事ダンジョンは、人工的に作られたみたいだよ。精霊がいないからね」


「そうなんだ。みんな同じだと思ってた」


「見た目はわかんないよね。それで、どうしたの?」


 ミカトが、早瀬さんに、話の続きを促した。早瀬さんは、少し頬を染めて話し始めた。



「たぶん人工樹のダンジョンなのかもしれないけど、ボスモンスターは、海底の魔物工場で育てられてダンジョンに転送されるの。その仕組みを政府に提案したのが、浮き島から追放された罪人なの。政治家が意見を聞く有識者には、その元妖精が何人もいるの」


「へぇ、魔物工場は聞いていたけど、政府や政治家の話は初めて聞いたよ」


 ミカトは俺やスイトの顔を見た。すると今度は、珍しくスイトが口を開いた。


「特殊機関が秘密裏に作られているんだろ? 冒険者に聞いたが、元妖精ばかりがいるらしいな。人間が知らないことを教える機関らしいが」


「そんないいものじゃない! 暗殺屋でしょ。自分達に都合の悪いことを言う人を消してるんだ」


 中村さんが、怒って……いや、辛そうな顔で叫んだ。


「みく、そんなこと言ってると、狙われる」


 女子二人は、辛そうにしていた。俺は急展開に頭がついていかない。スイトは何か聞いていたみたいだけど。



「なるほど、だいたいわかった。ミカトは半分、リントは全くわかってない顔をしているな」


「浮き島から追放された罪人が、この国の中枢部にいることは理解したよ。海底都市の魔物工場から、こないだイカが逃げ出して少し狩ったけど、海で繁殖しているんじゃないかって話も知ってる」


 ミカトは、そう言うと俺の方を見た。うん、俺もそれはわかる。


「二人は、魔物工場を作ったことに反対なんだよね。逃げ出すと危険だし、そもそも、ダンジョンのボスを作り出すという考えが、なんだか命をもてあそんでいるみたいだもんね」


 でも、早瀬さんは首を横に振った。


「ミカト、違うだろ。浮き島から追放された罪人が、政府をそそのかして、国いや地上が滅びるようなことをしたってことだ。だいたい2年連続で大豊作だったことがおかしい。あの頃に、地上に異変が起こったんだ」


「えっ!? あ……」


 ミカトだけじゃない。俺もそのとき、あのイカ祭りがこれからの予兆にすぎないのだと気づいた。作為的に……わざと、なのかな。だとしたら、大変なことになる。


 大豊作によって俺達が生まれた。確かに数百年に一度の豊作が連続するなんて、精霊ルーフィン様もおかしいと言っていたっけ。



「私達が生まれた頃に、海に海底都市ができたらしいよ。魔物工場で魔物を一気に育てるために、科学者が海に成長を促す薬を散布したんだって。季節外れの台風で、その薬が地上にも影響を与えたみたい」


「それで、大豊作なんだ」


 ミカトが呟くと、早瀬さんはコクリと頷いた。


「で、二人は、それを阻止しようとしてこの高校に入学したんだな。親か親戚が政府の関係者か」


 スイトがそう言うと、二人はギクリとしていた。


「話したくないなら、答えなくていい。だが、こっちのことばかり聞かれるのは、あまり感じのいいもんじゃないけど」


 二人は顔を見合わせて、何かを話していた。なんだか、せっかく楽しいダンジョンだったのに、暗い表情だ。


 ミカトがそれに気づき、気分を変えさせようとした。


「まぁ、この話は終わりかな? えーっと……」


「終わりじゃないよ。きちんと話す。私の父親は政治家だった。でも、暗殺された。結花のお父さんは科学者だったけど、事故に見せかけて殺された。全部、浮き島の罪人のせい」


「えっ……」


 俺は驚いたが、ミカトもスイトも冷静だった。予想していたという顔だ。ちょっと、俺だけが鈍いんじゃ……。


「そんなことだろうと思ってた」


「スイトくん、何よ、それ。だいたい、こんな話を疑いもなく信じるわけ?」


「あぁ、嘘をついても誰も得しないからな。それに、この世界の危機が近いことは、わかっていたしな」


「まさか、青空くん達も……」


「いや、逆だ。俺達は、これを片付けるために地上に降ろされたんだろうな」


 スイトは、そう言うと、頭を抱えていた。



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