4、万年樹の島 〜浮き島に戻るための条件
俺達は、爺さんの言葉を聞こうと静まり返った。妙な緊張感が漂っている。万年樹の中にいるためか、静かになると空気が少しひんやりしたように感じた。
「精霊ルーフィン様から、妖精界フルーツ王国の第二王子の皆様への伝言です。自国が繁栄するような成果をあげること、これが皆様が浮き島へ戻るための条件だそうです」
「どういうこと?」
「詳細は、このダンジョンを出てから、皆様に暮らしていただく屋敷で、お話いたします。次のオリエンテーションの方が来られてしまいましたから」
確かに、幼女が俺達のまわりから消えた。少し離れた場所で、自己紹介をする声が聞こえた。
「ほんとだ〜、きのこちゃんが、あっちに行っちゃったね」
「キウイくん、残念そうだな」
「うん、あはは。でもマンゴーもじゃないの?」
何人かの王子は、あの幼女、いや妖精にデレデレだな。俺はライバル視されてるから、そんな気分にはなれないけど。
「では、皆様、これにていったん終了とさせていただきます。このオリエンテーション階は、初回のみに入ることができる場所です。あ、タイムトラベルの時にも入ることができますが、通常時はもう入れません。必要な採取をしておかれることをオススメします」
「必要な採取って何ですか」
「リンゴ〜、そんなのわかるだろ」
バナナ王子は、いつも、すぐに俺をバカにする。
「俺の考えと違ったら困るし」
爺さんは、やわらかな笑顔で頷いた。
「この階には、モンスターはいません。1階以降でモンスターを倒して得られるドロップ品などが、落ちていると思います。ダンジョンを出た場所に買取店があります。皆様は、資金を全くお持ちではないはず。その店で売って、お金かダンジョンコインに交換されるのが良いでしょう」
(お金かダンジョンコイン?)
「お金は、すぐに必要になりますか」
ミカン王子が不安そうに質問した。俺達は確かにお金を持っていない。いつお金が必要なのかな。
「はい、皆様には屋敷にお部屋は用意しておりますが、それ以外はすべて自費でお願いします。人間社会に慣れていただき、自立していただくためでもあります」
「条件を満たさなかったら、俺達は人間になるからか」
バナナ王子が不満そうに口を開いた。自立のためということは、俺達が、条件を満たせないと言われているようなものだ。
「はい。浮き島に戻る期限が過ぎますと、屋敷からは出ていただかねばなりません。そのときのための資金もこれから稼いでおいていただく必要があります」
「ええ〜、大変じゃん」
そこまで説明を聞いて、彼らは騒がしくなった。でも、当然だといえば当然だな。俺達は、妖精じゃなくなったら、普通の人間として寿命を終えるまで、自分の力で生きていかなきゃいけないんだから。
「また、ご不明な点は屋敷にて承ります。出口は、あの赤い目印がある場所です。では、爺はお先に失礼します」
そう言うと、爺さんは、スゥっとその場から消えた。
「ええっと、とりあえず、モンスターがいないなら、自由行動でいいよな?」
「バナナくん、何人かで、まとまっている方がいいんじゃない?」
「ふっ、リンゴは心配症だな。まぁ、おまえだけ弱いもんな」
「うーん、体力100ってことは、みんなの10倍疲れやすいのかもね。なんで俺だけ……」
「精霊の使徒だから特別なんだろ」
「それなら特別な高待遇にしてほしいよ。特別弱いってどういうこと?」
「でも、リンゴ王子は、魔法を使えるみたいじゃない。そのバランスなんじゃない?」
「そうかな。でも、ミカン王子、魔法ってみんな使えるよね? レベルが上がれば、使えるんじゃないかな」
「人間って使えないんじゃないの?」
「おまえら、くだらないこと喋ってないで、解散だ。あとは自由行動な。俺はガッツリ稼ぐから」
バナナ王子は、さっさと奥へと去ってしまった。まぁ、いつまでも喋っていても仕方ないかな。
みんなそれぞれ、苦笑いを浮かべながらも、自然解散となった。2〜3人ずつで、出口の方へと向かっていった。
「リンゴ王子、俺達も行こうか」
「そうだね、あ、名前の呼び方、地上で王子って付けているのは良くないかも」
「あー、確かにそっか。じゃあ、リンゴって呼ぼうか。いや、まんじゅ爺が、付けた名前にする? 俺は、ミカンだからか、ミカトだって。ほら」
ミカン王子は、腕輪に触れ、ステイタスを表示した。
【名前】 青空 実香斗 (あおぞら みかと)
【レベル】 2
【種族】 人間
【体力:HP】 1,050
【魔力:MP】 10
【物理攻撃力】 510
【物理防御力】 60
【魔法攻撃力】 10
【魔法防御力】 60
【回復魔法力】 0
【補助魔法力】 0
【速さ】 10
【回避】 10
【運】 1
【その他】 なし
「あっ! レベル2になってる。リンゴが言ったように魔力増えてるし、魔法も使えそう」
「オリエンテーションの説明を聞いたからレベルが上がったのかな。日常生活でも上がるのかもしれないね」
「だね。リンゴは? 名前は、リント?」
「うん、リントみたい。バナナ王子もバナトだったし、爺さんの名前の付け方、ワンパターンかも」
「あはは、みんなの名前、知りたくなってきたよ」
「俺は、名前当てをしたい」
「リント、そういうの好きだねー」
俺達は、くだらない話をしながら、ダンジョン内を歩き回り、落ちている物を探した。
「いろいろ落ちてるけど、何がいい物なのか全くわからないね。ん? リント、そのめちゃ古そうな布袋、どうしたの?」
「落ちてたよ。入れ物がある方がいいかと思って。かなり汚れてるけど、穴は空いてないみたいだから」
「ナイスじゃん。よし! 袋があるなら手当たり次第、いろいろ拾っていこう。ゴミなら後で捨てればいいし」
「だね。拾うだけなら、体力低くても余裕〜。ミカトもサボってないで拾ってよ」
「拾ってるよ。リントが拾いすぎなんだよ」
確かに、少し歩くといろいろな物が目に入る。そういえば、俺のステイタス、運も100だからかな。
「俺のステイタス、運はみんなより高かったからかも」
「全部100だっけ? ということは俺の100倍じゃん」
「ふっふっふ、でも、他がひどいからさー」
「じゃあ、リント、レベル上げも一緒にやろうよ」
「いいね、大歓迎!」
ドドドドッ!
突然、地面がグラグラと揺れた。何? 地震?
「リント! 後ろ!!」
(えっ?)