表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/153

37、安土桃山時代1582年 〜本能寺の変

 長かった酒宴は、やっと終わった。


 俺は、小姓さん達がいる席で、食べ残しの食事を食べていた。お寺だからかもしれないけど、あまり美味しくないと思った。かなり塩辛いものが多かったんだ。


 京だから薄味なのかと思っていたけど、酒の席だからなのかな? そういえば織田信長って味の濃い田舎料理が好きなんだっけ。それに合わせているのかもしれない。



「林斗さん、そろそろ休みましょう」


「はい、かなり長い酒宴でしたね」


「ええ、まぁ」


 蘭丸さんに連れられ、荷物を置いていた部屋に戻った。入ってすぐの場所に布袋が転がっていた。中身は盗られた様子はなかったが、盗もうとしたのかもしれない。部屋は荒らされ、明らかに侵入者の形跡が残っていた。


「林斗さん、荷物は大丈夫ですか」


「はい、転がっていただけです」


「私の方は、やられました。置いていた予備の懐刀を盗まれました。高価な物ではないのですが……。さっき、戻ってきたときは無事だったのに」


「大切なものなんですね」


「はい、家紋入りなので、妙な使い方をされると困ります。今夜は遅いので、明日、殿に相談してみます。やはり、あの商人か、寺の坊主か……」


 蘭丸さんは、頭を抱えていた。



 指輪が光っていることに気がついた。何かの連絡かと思って触れると、フッと引き戻されるような感覚のあと、俺の視点が低くなっていた。そして、コマ送りされていく。何? これ?


 ふすまがスーッと開いて、年配のお坊さん数人が入ってきた。そして俺の顔を触って……。


「うわっ」


「えっ? 林斗さん、どうされました?」


「あ、いえ、大丈夫です。すみません」


 今の映像は、布袋の記憶? そういえば、部屋を出るとき、指輪から光が放たれたんだっけ。


 再び指輪に触れると、俺の顔を触って、投げ捨てられた。音は聞こえない。でも、その男達が、蘭丸さんが荷物を置いていた戸棚をあさり、黒い棒のようなものを抜き取ったのが見えた。



「蘭丸さん、黒いですか? 懐刀って」


「鞘は黒いです。まさか、林斗さんが? いや、そんなわけないですね。貴方はずっと酒宴の席にいたし、ここまでの道がわかっていないようでしたし」


「広すぎてわからないですよ。その黒い棒を盗んだのは、年配のお坊さんです。お坊さんに扮しているのかもしれませんが」


 俺がそう言うと、蘭丸さんは怪訝な顔をした。


「林斗さんは何者なんですか」


「俺は、詳しい話は禁じられていてできませんが、ちょっと特殊なんです」


「物の怪ですか……それとも……」


「うーん、そうだなぁ、霊感が強いと思ってもらえばいいのかな? 物の記憶が見えたんですよ」


「妙な術を……忍びですか? 侵入者……ではないですね。無理矢理お引き止めしたのは殿ですもんね」


 俺は、笑顔で頷いた。


「でも、巻き込まれたから、電撃をくらわない範囲で、手助けしたいと思ってます」


「デンゲキ? なんですか?」


「あ、いえ。こちらの話です」


 蘭丸さんは首を傾げながらも、俺に笑顔を見せた。


「よくわからないですが、坊主ならここから逃亡もしないでしょう。明日、取り返します」


「明日……ですか」


「はい、今宵はもう遅いです。休みましょう」


 そう言って、彼は刀を持ったまま、薄い布団に寝転んだ。




 俺も、布団に寝転んだが眠れなかった。当然だよね。これから何が起こるか知っている。でも歴史を変えるようなことはしちゃいけない。


 隣で眠る彼の寿命は残り数時間だろう。そう考えると、苦しくなった。でも、彼の家紋のついた懐刀が盗まれたんだよね。盗んだ人が、このあと火事で命を落とせば、その遺体が蘭丸さんだと判断されるんじゃないのかな。



 俺が、うとうとしかけた頃、外が騒がしくなった。


「謀反だ!」


 すると、眠っていたはずの蘭丸さんは、さっさと起き上がり、駆け出した。俺も、布袋を背負い、蘭丸さんの後を追った。


「誰の謀反ですか!」


 蘭丸さんが叫んだ。


「桔梗だ、明智光秀だ!」


「そんな、ありえない。なぜ明智様が京に……そもそも謀反など、明智様に限ってありえない。お館様はご無事ですか」


 蘭丸さんは、すれ違う人に問いながら、織田信長を捜しているようだ。蘭丸さんだけじゃない。敵兵も同じく、織田信長を捜している。


 火弓が雨のように降り注いだ。


『物防バリア!』


 自然の火は魔法じゃないから、魔防バリアでは防げない。俺は、自分と蘭丸さんにバリアを張った。


 蘭丸さんは、俺がついてきていることにも気づかないくらい動転していた。ひたすら、親を捜す迷い子のように、必死にあちこち駆け回っていた。


 敵兵に遭遇すると、刀を抜いて応戦していた。でも、あまり強くないみたいだ。


「蘭丸さん、刀を一本貸してください」


 俺がそう言うと、彼は俺がついてきていることに驚いた。


「客人には関係のないことです」


「強がっていると、信長様に会う前に死にますよ」


「……転がっている兵の刀を使って。私は、あとは脇差ししか持っていません」



 俺は、床に転がっていた刀を拾った。甲冑を着た人が斬りかかってきた。俺には敵も味方もない。でも、なるべく死者は、減らしたかった。


 足を狙って刀を振ったが、なかなか当たらない。手が背負っている布袋に触れた。そういえば、あの幼女が、カバンの下の方に触れるとどうのと言っていたっけ。


 布袋の底に手を触れると、手に、金属の塊が出てきた。


(そうか、これって、クナイだ)


 俺は、斬りつけてくる兵の足にクナイを投げた。グザリと鈍い音を立てて、クナイが刺さったらしい。兵はその場に倒れた。


 斬りつけてくる刀や槍は、拾った刀で受け流し、相手の隙をついてクナイを投げる。うん、これがベストだね。


 ダンジョンのモンスターに比べれば、断然、彼らの動きは遅い。数が多くても、弱いから、自分のペースで戦える。


「やはり、林斗さんは、忍びなんですね。そんなに強いなんて。甲賀ですか、伊賀ですか」


「違うと言っても信じてもらえないよね。ちょっと特殊なんです。俺は信長様の命を狙っているわけじゃない。だから心配しないで」


 蘭丸さんは、力強く頷いた。


 ようやく、敵兵に遭遇しなくなった。蘭丸さんは、きっとこの奥だと言って、突き進んで行った。だが、突然、足を止めた。


「どうしたんですか」


「明智様……」


 甲冑を着た一人の男が、歩いてきた。そして蘭丸さんを見て苦悶の表情を浮かべた。そのままスッと横を通り過ぎて行った。


 蘭丸さんは、真っ青な顔をしている。


「お館様!」


 そう叫ぶと、奥の部屋へと飛び込んで行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ