30、万年樹の島 〜大量の人工魔物の討伐
「さっきよりは倒しやすくなったな」
「このイカ、かなり経験値を稼げる感じだよね〜」
「ミカト、イカじゃなくてクラーケンだぜ」
「クラーケンってイカでしょ?」
「いや、タコじゃないのか?」
「どっちにしても、醤油をつけて焼いたら美味しそう」
スイトとミカトは、楽しそうだ。でも、俺はそんな二人に置いて行かれないように必死だった。二人はどんどん強くなっていってるけど、俺は自分の成長を感じない。
「ちょっとリントが辛そうだな。少し休憩するか」
「そうだね、イカ焼きの話をしてたらお腹減ったよね」
俺はとりあえず頷き、二人についていった。1階層の食堂に入った。いつも並んでいるけど、今日はバケモノがたびたび襲撃するせいか、かなり空いていた。
「ここ初めてだよね。空いてる日もあるんだ」
食券を買って、調理場に持って行くと、トレイに料理をのせて渡された。ほとんど待ち時間がないことに驚いた。
料理はイマイチだったけど、椅子に座れたことで俺はすごく幸せを感じた。やっと元気が出てきた。スイトやミカトと比べても仕方ない。どんどん強くなる二人が羨ましいけど、でも、だからってイジイジしちゃダメだよね。
「リント、やっと顔がマシになったな」
スイトがそう言った。ほんとによく観察してる。気遣いは嬉しいけど、またなんだか自分のダメっぷりに落ち込んできた。せっかく浮上したのになぁ。
「うん? リントくん、浮き沈みが激しいですな。これは、ひさびさに変顔リクエストということですかな?」
「ちょっと、ミカト、食べてるときに変顔はダメだよ」
俺が慌てて制すると、ミカトはニヤリと笑った。これは、やる気だ。
「ミカト、食事中にふざけてないで、食べ終わってからにしろよ。子供か」
スイトに叱られて、ミカトは思いとどまったらしい。
なんだか、ウジウジと考えてる自分がバカらしくなってきたな。あはは。
二人とも、俺の様子を気にしてくれている。うん、暗い顔をしてちゃいけないよな。
食べ終わって、コーヒーを飲んでいると、急に人が増えた。団体客かと思ったら、違うようだ。みんな、バケモノの話をしている。
「リント、ミカト、また出たみたいだな」
「食堂にいると外の様子が聞こえないんだね。この人達って食堂に避難してきたのかな。リント、行ける?」
「うん、ご飯食べたから大丈夫」
「よし、じゃあ、行くか〜」
「おう!」
俺達が食堂から出ようとすると、冒険者に呼び止められた。
「今は出ない方がいい。外からバケモノが入り込んでるんだ。俺達みんなレベル50以上あるのに、無理だった」
すると、ミカトが返事した。
「大丈夫、俺達が片付けてくるよ。行こう」
(なんかカッコイイセリフ)
一気に、食堂に居た人達の注目が集まった。は、恥ずかしいじゃないか、ミカトくん!
そして出て行くと、後ろから拍手が起こっていた。ちょっとこういうのって困るよね。
「なんか、俺達、期待されてるよ。頑張ろうね」
「ミカト、こんな注目を集めるようなことはちょっと……」
「何言ってんの? スイト、そんなんじゃモテないよ」
くだらない話をしながら笑っているのは、たぶん俺を元気づけるためだよね。それはわかってるんだけど、二人には余裕があるように見えてしまう。
(ダメだ、ポジティブにいかなきゃ)
「うわぁ、数が多いな。リント、バリアと強化を頼む」
「うん、わかった」
二人は剣を抜いた。
『物防バリア!』
『オール・アップ!』
俺も剣を抜いた。よし、頑張ろう。
『チャージ・サンダー!』
俺は剣に弱いイナズマをまとわせ、二人のあとに続いた。
同じバケモノばかりを倒していると、俺でもようやくコツが掴めてきた。頭に急所があるんだ。
手足を切り落とすと一瞬、奴の動きが止まる。イナズマで感電するんだろうな。そのとき、急所のガードがなくなるんだ。
俺は、高く跳躍して、奴の急所にイナズマをまとわせた剣を突き立てた。すると、奴はドタリと倒れた。しばらくピクピクしているけど、再生ができなくなるみたいで、すぐに動かなくなる。
(うん、二撃でいけるな)
スイトやミカトは、もう少し時間がかかってる。二人を追い抜いたことがこんなに嬉しいとは……いや、こんなことを考えてる俺、ちょっと病んでないかな。
「おっ! リントすげぇ」
「イナズマで感電させて急所狙いか、考えたな」
二人ともニッと笑った。俺も笑顔を返すことができた。うん、もう大丈夫だ。
俺達は、人工魔物クラーケンを、どんどん倒していった。あたりが、奴らの死体だらけになると、奴らは逃げ始めた。
「ミカト、リント、追撃だ。一体だけ見逃すぞ」
よくわからない指示が、スイトから出た。ミカトも首を傾げてるけど、とりあえずスイトの言う通り、追いかけて倒していった。
「二人とも、ストップ」
スイトの言葉に、振り返った隙に、二体がダンジョンの外へと逃げて行った。
「あー、二体が出てったよ。スイト、どうして見逃すって言ったの?」
「ミカト、奴らは、わりと知能が高そうだろ? 連携して攻撃してくるし、俺達が居なかったときに一気に数が増えてた」
「うん、確かに」
「だから、見逃せば、この島はヤバイから近づくな、ってことになるんじゃないか」
「えっ、でも、デカイの連れてくるかもしれないよ」
俺が思わずそう言うと、スイトはニッと笑った。
「そのときは、リントのスキルがあるだろう。デカイのも撃退すれば、怖がって近寄らなくなるよ」
「えー、でも、デカイのたくさん来たら自信ないよ」
俺達の方へ近づいてくる足音が聞こえた。
「誰かと思えば、おまえらか。半人前のスキルで蹴散らしたんか?」
「あっ、紅牙さん。違いますよ、リントのスキルなしですよ」
「へぇ、コイツら、一体一体が、人工樹のダンジョンのボスなんや。コイツらは、出荷される前の魔物工場から逃げた奴らやから、ドロップ品はないけど、がっつり経験値を稼げるで」
俺達は、頷いた。かなりレベル上げができた気がする。
「これを売りに行ったら結構な金になるから、魔法袋に入れとけ。あ、一体は、いま、食おうか」
そう言うと、紅牙さんは網を取り出した。俺に、魔物の片付けをしろと言って、何かを始めた。
俺は、紅牙さんが持つ一体以外を魔法袋に収納した。
(魔法袋パンパンかも……)




