29、万年樹の島 〜イカ祭り
「リント、スイト、明日はどこ行く? どこでもいいなら、お食事ダンジョンに行こうぜ」
「ミカト、リントは万年樹のそばにいる方がいいんじゃないか? あのイカみたいなバケモノの襲撃が、これで終わりだとは思えない」
「そうかな? あれって見たことないモンスターだったよね。レアモンスターなら、そんなに数はいないんじゃない?」
ミカトはもう大丈夫だと思っているようだ。スイトはいつも慎重だよね。俺は、よくわからない。でも、また幼女に嫌味を言われるのは嫌だな。
「人工魔物クラーケン、って表示が出たよ。スキルを使ったときに、ターゲットの情報が出るんだ」
「リントのスキル、めちゃ便利じゃん」
「海底都市の魔物工場から逃げ出したらしいって、言ってる人がいたな。だから人工の魔物なんだろうな」
「スイト、そんな噂が本当ならヤバイじゃん」
ミカトは、急に真顔になった。
「そうだよな。きのこちゃんも、なんだかイラついていたようだし、深刻なことかもしれない」
(幼女は、いつもイラついてるじゃない)
「じゃあ、明日は万年樹のダンジョンで周回しよう。万年樹のドロップ品の一部は人気あるから、売ったお金で魔法ボールコレクションできるし」
「ミカトは、妙なことに興味津々だな。収集癖があったのか」
(そう、いつもミカトは興味津々)
「うん? そうかな」
「あぁ、だって、お食事ダンジョン全制覇したいとか、魔法ボールコレクションしたいとか……」
「スイトは、全部の料理を食べてみたいと思わないの? リントは?」
そう言われると言葉に困る。スイトをチラッと見ると、スイトも困った顔をしていた。
「ミカトは好奇心旺盛だから、いいんじゃないか。俺にはそんな情熱はないし、リントも自分から何かをするタイプじゃないからな」
「えー、それって、食い意地がはってるってこと?」
ミカトは、助けを求めるように俺を見た。えーっと、これは、同意すればいいのかな? ツッコミ待ちなのかな?
「ミカト、俺には上手い返しが思いつかない」
「ふっふっふ、リンゴくん、まだまだですな」
そう言うと、なぜかミカトはニカッと笑った。うーん、今の返事で正解なのかな?
翌朝、俺達は、万年樹の前で集合し、ダンジョンの1階層へ入った。昨日、俺が水浸しにしたフロアだけど、すっかり元の状態に戻っていた。
「万年樹って、やっぱ、すごい生命力だな。もう昨日の修復が完璧にできている」
「スイトは、よく気づくよね。俺は、一瞬、何のことかわからなかったよ〜」
「ミカト、それは忘れっぽすぎる〜」
「えー、リントもあまり変わらないと思うよ〜」
「まぁ、確かに。反論はできない」
「さぁ、木の実を集めるぜ。二人とも剣を抜いて」
「ちょっと、スイト、俺も剣?」
「当たり前だろ。リントの物理攻撃力、いくつだっけ?」
「うぇー、スイトさま、お許しを〜。あはは」
俺も、剣を抜いて、顔のある草を殴っていった。そう、コイツは斬ろうとしても硬いんだ。剣を棒のようにして、殴るように振ると簡単に倒せる。コツがわかってくると、楽しくなってきた。
キャー!
「リント、ミカト、悲鳴だ」
声のした方を見ると、昨日のイカが居た。人工魔物のクラーケンだっけ。でも、デカイのはいない。2メートル程度の奴が、二体だ。
「昨日、倒したよな。リントも、そのままでいけるはず」
なんだか、ミカトが怖いことを言っている。
「スキルを使うと、きっとかなりの魔力を使うだろうからな。周回に無駄な魔力消費は避ける方がいい。リント、そのままでいこう」
スイトまでが、無茶なことを言っている。
「うーん」
『物防バリア!』
俺は、仕方なくスキルは使わず、バリアを張った。もちろん、ミカトとスイトにも。
「リント、ありがとう。じゃ、行くぜ」
俺達は、クラーケンの方へと走って行った。そして、まず、スイトが一撃を加えた。でも、たいしたダメージにはなっていないようだ。
「あっ、昨日は、きのこちゃんの強化魔法があったんだ」
ミカトがそう言って俺を見るので、俺は、強化魔法を使った。
『オールアップ!』
物理攻撃力、魔法攻撃力、そしてスピードがわずかに上がった。ないよりはマシな程度かな。
でも、これで、スイトの攻撃力は随分と変わった。俺も負けないようにと必死に剣を振ったが、硬い皮に弾かれる。
「リント、頑張れ!」
「う、うん」
俺は、やっぱり魔法タイプだよね。浮き島では剣術は得意だったはずなのに、二人には全然及ばない。
(それなら……)
『チャージ・サンダー!』
俺の剣は、弱いイナズマをまとった。よし! 俺は、両手で、剣を振り下ろした。
(やった)
スパッと、クラーケンの手か足が切れた。
ミカトはチラッと俺の様子を見て、ニッと笑った。スイトも、頷いたように見える。
俺達は、そこから一気に、二体のクラーケンを倒した。
「強かったね、コイツ……」
「昨日は、たいしたことないと思ったけど、あれは戦闘力が二倍になっていたからなんだな」
俺の強化は、ショボイと言われているようで、少し辛くなった。でも、二人がそんな風に思っていないことはわかっている。
「リントの強化魔法がなかったら厳しかったな」
「だよね。リントさま、偉い!」
「えっ? もしかして褒められた?」
「当たり前だろ。レベルが上がればもっと楽に倒せるようになるよな」
「うわぉ! すっごい上がってる! 俺、レベル83だよ」
「ミカト、前は60ぐらいだったよね?」
「リント、それは昨日のイカ祭りの前だよ。あの後は71だったんだ」
イカ祭りと言われると、美味しそうに聞こえる。クラーケンって、イカなのかな? タコだという説もあるよね。
「三人だけで、倒したからかもしれないな。昨日は、きのこちゃんの強化魔法や、リントのスキルがあったから。俺も、レベル91だ」
「スイト、もうすぐ100いきそうじゃん」
「だな。リントは?」
「俺は、あまり活躍してないし……。ダンジョン出てからまとめて見るよ」
「そんなことないだろ。まぁ、とりあえず、イカをなんとかして、周回だな」
「じゃあ、俺の魔法袋に入れておくよ。買い取ってくれるかもしれないし」
「おう! リントの魔法袋はデカイもんな。買取ってくれなかったら、イカ祭りしようぜ」
ミカトが変なことを言っているが、スイトはスーッとスルーした。俺達は、木の実集めに戻った。
キャー!!
だけど、木の実集めを始めると、クラーケンが出現した。
「またかよ。行くぞ〜」
「へーい」
次回は、3月7日(土)に投稿予定です。
毎日投稿をしていましたが、今月から木、金は、お休みします。よろしくお願いします。




