28、万年樹の島 〜人工魔物クラーケンの襲撃
屋敷に戻ると、幼女……じゃなくて、万年樹の妖精が、俺達を待ち構えていた。
「あれ? きのこちゃん、どうしたの?」
ミカトが彼女に気付いて声をかけた。機嫌が悪そうなのに、勇気あるよね。
「どうしたのじゃないよ。半人前の妖精が、いくら呼んでも来ないんだもの」
「えっ? 俺に用事?」
「万年樹の精霊が呼んでたでしょ」
「いや、何も聞こえなかったけど」
「まさか、人工樹のダンジョンにでも潜ってた? でも、腕輪が光ってたはずよ。見れば気付いたはずでしょ」
「見てなかった……」
なぜか、幼女は腕組みをして仁王立ちだった。いきなり、そんなことを言われても、訳がわからない。
「きのこちゃん、俺達、編入試験で高校に行ってて、食事と経験値のダンジョンには少し入ってたけど……」
「今回は、紅牙くんがいたから片付いたけど、自覚を持ちなさいよっ。ミカンくんとスイカくんも、半人前の妖精がボーっとしてるから、気をつけてやってね」
あれ? 腕輪がわずかに光っている。夕方であたりが暗くなかったらわからない程度だ。
「あの、これが光ってるってこと?」
「えっ……それは予知。またかもしれない。あなた達も来て」
そう言うと、幼女は俺の腕を引っ張って万年樹にワープした。ミカトとスイトは慌てて、走ってきた。
そのとき、腕輪の光が強くなった。
「4人パーティで入るよっ」
俺達は、よくわからないまま、樹に触れるとダンジョンの1階層に移動した。幼女がリーダーで、行き先を指示したのだろう。でもなぜ?
「きのこちゃん、1階層だとわかったの?」
「外からの侵入者は、だいたい1階層なの。たまにオリエンテーション階にも現れるけど、この時間はオリエンテーション階は使ってないから入れないの」
キャーッ!
離れた場所から悲鳴が上がった。と、同時に何か大きなものがぶつかったような振動で、地面が揺れた。
「数が多いみたい。二人も手伝って。半人前はさっさとスキルを発動しなさい」
「どうすれば発動するかわからないんだけど」
「はぁ? あんた、何言ってるのよ。ダンジョン内でスキル名を言えばいいだけでしょ。早くしなさい」
「きのこちゃん、俺達、まだレベル低いから」
「大丈夫。あたしの補助魔法で、倍にしてあげるから」
そして幼女は、ミカトとスイトにあれこれ魔法をかけた。俺にはないのかよ。
「スキル『精霊の使徒』を使う!」
『了解しました。スキル「精霊の使徒」を発動します』
機械っぽい無機質な声が頭の中に響き、俺は、白っぽい淡い光に包まれた。なんだ、ほんとにスキル名を言うだけじゃん。
俺の服は、銀色のローブ、中は黒いシャツに黒いズボンに変わった。そして、左手には銀色の盾、腰には銀色の剣が輝いていた。
ふっと、かかった前髪は銀色だ。顔は浮き島にいたころの妖精の顔に戻ってるんだっけ。
そして目に映るすべてのものの動きが、遅く感じてきた。ステイタスが急上昇し、目の動きにも変化が現れたんだ。
ミカトとスイトは、もう移動していた。幼女がワープさせたんだな。どうして俺だけぼっちにするんだよ。
俺も移動しようとイメージしたら、彼らの元へワープできた。そっか、ワープを使えるんだ。
「半人前は、覗いてるデカいのをやって。他の二人は2メートルくらいの奴。あたしは、初心者を誘導する。雷は使わないで。他の人にまでイナズマが飛んでしまう」
「きのこちゃん、了解。じゃ、行くぜ」
スイトはいつもより速い。ミカトもすごく速い。幼女の補助魔法すごいな。
キャー! いや〜
デカいのが、もう一体現れた。ちょっと、何コイツら。イカのバケモノ?
俺は、剣を抜き、地を蹴った。
スッと手か足かわからないものを切り落とした。だが、通常のモンスターと違って、消えない。落ちた手足も動いている。
(うわっ、気持ち悪い)
だが、俺が切り落としたことで、バケモノは赤くなった。攻撃色か。その赤は次々と他の個体へも伝染していった。
「うわっ、急に強くなった」
ミカトが叫んだ。赤くなるのは身体強化か。
何か、魔法ないかな。そう考えたとき目の前に文字が浮かんだ。何? 人工魔物?
【ターゲティング、人工魔物クラーケン】
【雷魔法サンダーショット】
【氷魔法アイスショット】
【発動可能】
雷は使うなと言ってたな。アイスショットを発動する。俺は目線で選択した。
【氷魔法アイスショット】
【選択完了】
俺は、剣を鞘に戻し、両手を広げた。魔力がどんどん集まってきた。そして、両手を真上に上げた。
両手から放たれた魔力が、天井高く上っていった。そして、一気に氷の雨が降り注いだのだ。だけど、人には当たらない。ターゲティングした、バケモノの身体を氷の弾が貫いていった。
ドドーン
二体の大きなバケモノ、そしてまだミカトやスイトが倒していなかったバケモノが一斉に倒れた。ふぅ、やっぱ半端ないな、このスキル。
「穴ぼこだらけじゃないの。これだと食べられないよ。焼却しなさい」
幼女に偉そうに指示されて、カチンときたが、倒れたバケモノは再生しようとピクピクし始めた。
『ファイア』
俺は、普通に火魔法を使った。だが、いつもとは出力が違う。一瞬でバケモノだけじゃなくあたりにまで火が広がった。
『ウォータ』
ヤバかった。水魔法は、出力を下げたつもりだけど、かなりの水害になってしまった。
「ちょっと、あんたねー!」
「まだよくわからないんだから、怒らないでよ」
「基本100倍よっ! 集中すれば数百倍になる」
「えっ……そうなんだ」
「調整できないなら、スキル解除してから焼却しなさいよ」
それを先に言ってくれればいいのに。
だんだんと身体が重くなり、スキルは勝手に解除された。
「やっぱ、そのスキル半端ないね、リント」
「うん、でも、調整が難しいよ」
「使っているうちに慣れてくるんじゃないか」
「だといいけど、このダンジョンでしか使えないからなぁ」
そう話しながら、ダンジョンの出口に向かっていると、幼女がまた絡んできた。
「一緒のパーティなんだから、初心者の誘導を手伝って。それから、半人前がわけわからないこと言ってるけど、ダンジョン固有スキルは、どのダンジョンでも使えるから」
「まじ?」
「当たり前でしょ。ただ、取得したダンジョン以外で使うと、ガツンと魔力をもっていかれるけどね。タイムトラベルは、魔力不要だから関係ないけど」
俺達は、幼女にあれこれと手伝わされ、屋敷に戻ったときにはもう、屋敷の食堂の営業時間が終わっていた。




